── |
今までおうかがいしてきたように、
デジカメ全盛の時代でも
まだまだフィルムを楽しんでいる人たちが
たしかにいる一方で、
「デジタル化の波」というのは
やっぱり押しとどめられないと思うんです。 |
吉村 |
それは、そうですね。 |
|
── |
そのあたりについては、どうお考えですか? |
吉村 |
そうですね‥‥ちょっと話が飛ぶんですが。 |
── |
ええ。 |
吉村 |
震災後、ミヤモトさんたちとも一緒に、
泥だらけになった写真を洗っていたんです。 |
── |
ええ、ええ。 |
ミヤモト |
写真救済プロジェクトと言うんですが。 |
吉村 |
被災地では
「写真」や「位牌」はガレキ扱いされずに、
自衛隊のかたが
できうるかぎり集めてくださっていました。
僕は、震災直後の3月下旬くらいに
そのようすをテレビで見て
「何かやらなきゃ」と思っていたんですが、
被災地のかたから
富士フイルムに電話がかかってきたんです。 |
── |
ほう。 |
吉村 |
汚れた写真がたくさんあるんだけど、
どうやって洗ったらいいのか、わからない‥‥と。
そこで、写真救済プロジェクトを立ちあげて
現地へ行き
ボランティアのかたがたに、
写真の洗いかたを、お教えしてきたんです。 |
ミヤモト |
銀塩写真つまりフィルムのプリントというのは、
水を通しても大丈夫なので
濡れているだけなら
乾燥させればいいだけなんです。
でも、泥水を被って
バクテリアにやられた状態で
ゴシゴシ洗っちゃうと‥‥。 |
吉村 |
画像が、流れてしまう。 |
── |
わあ。 |
吉村 |
はじめは、富士フイルムのホームページに
通常の写真の洗いかたをアップしたんです。
そしたら、ものすごい反響があって。 |
── |
みんな、知りたかったんですね。 |
吉村 |
でも、津波で汚れた写真なんてはじめてだし、
本当に適切な洗浄方法は、わからなかった。
それに、写真には
フィルムのプリントつまり銀塩写真もあれば、
インクジェットもあるし、モノクロもある。 |
|
── |
それぞれに、違うんですね。 |
吉村 |
そこで、
技術部門がある当社の工場に持って行って、
洗いかたの実験をしてもらいました。 |
── |
写真の種類ごとの、洗いかたを。 |
吉村 |
現地の気仙沼へは
4月の上旬くらいにようすを見に行きました。
そうしたら、テントのなかに
大量の、拾われてきた写真が集められていて‥‥。 |
── |
はい。 |
吉村 |
僕らがはじめて入ったとき、
気仙沼の階上(はしかみ)でイチゴ農家をやっていた
高井晋次さんというかたが
ひとりで写真を洗いはじめておられました。 |
ミヤモト |
はじめて、富士フイルムさんに
写真の洗いかたを問い合わせてきたかたです。 |
── |
あ、そうなんですね。 |
吉村 |
高井さんは、自分の地区である
階上に集められた写真を洗い終わったら、
他の唐桑地区にも、入っていかれました。
「自分も被災者だけど、
写真を見捨てることができない」と言って。 |
── |
‥‥写真って「そういうもの」なんですね。
見捨てることができない‥‥というような。 |
吉村 |
そうなんです。そのことを、実感しました。
あらためて、
「自分の関わっている写真って
すごいものなんだ!」と。 |
|
── |
たぶん、写真というのは、
見つかってうれしいものの筆頭ですよね。
気仙沼の斉吉商店の斉藤和枝さんのお宅へ
震災3カ月後におじゃましたとき、
お写真を、干していらっしゃったんです。 |
吉村 |
ええ。 |
── |
嫁入りのときのお写真を
「やっと、見つかったの!」って、
うれしそうに「私の栄光!」って。 |
吉村 |
ああ‥‥。 |
── |
すごく、力をくれるものだと思いました。 |
吉村 |
ただ、写真を洗っていて気づくのは、
ここ10年ぐらいの写真が、本当に少ないんですよ。 |
── |
それは‥‥デジカメだから? |
吉村 |
そうなんです。
結局、撮ってもプリントしていないから
パソコンごと流されちゃって。 |
ミヤモト |
つまり、救出できたのは
昔のフィルムのプリントばっかりなんです。 |
吉村 |
だから、ここ最近の写真って、
ほとんど失われてしまったかもしれない。 |
── |
逆に言えば「プリント」という
具体的な「もの」の強さということですね。 |
吉村 |
そう、「もの」だから、あんなに拾えた。 |
── |
そうですよね‥‥。 |
吉村 |
家を流されてしまった人のアルバムが
遠くのほうで見つかったとか
何もなくなったけど、
この写真一枚、残ったことで救われるとか
そういう話を聞いたんです。
それも、プリントした「もの」だったから。 |
|
── |
そういった活動を通じて
写真に対する考えは、変わりましたか? |
吉村 |
うーん‥‥そうですね。
僕らは写真フィルムメーカーの人間だから、
写真を大切に思うのは
ある意味、ごくごく当たり前なんです。 |
── |
ええ。 |
吉村 |
写真は大切なんですよって
昔から、ずっと言ってきた側ですから。
だけど被災地では、本当にたくさんの人が、
流されて汚れた写真を拾ってきて、
一生懸命に洗って、
どうにかして、きれいにしようとしていた。 |
── |
はい。 |
吉村 |
その姿を見ていたら
「写真って、大切でしょう?」って
逆に教えてもらった‥‥
そんな感じがしました。
うまく言えないんですけど。 |
── |
いや、わかります。 |
吉村 |
みなさん、「かたちあるもの」としての写真を
1枚でも多く残そうと
本当に必死に、洗ってらっしゃるんです。
だから僕は、写真には、やっぱり
「もの」としての価値が、あると思うんです。 |
|
── |
ええ、ええ。 |
吉村 |
デジタル化の流れのなか、
「フィルムで写真を撮るって
どういうことなんだろう」
「写真をかたちにする意味って
何なんだろう」と
ずっと考えてはきたんですけど
やはり、
自分が揺らいでしまうこともありました。 |
── |
今、カメラの話題といえば
ほとんど「デジカメ」ばかりですものね。 |
吉村 |
プリントしなくても見れちゃうし
ストレージに
画像データを預けることもできちゃうし。
|
── |
ええ、ええ。 |
吉村 |
でも、写真を洗うプロジェクトを通じて
「ものとして残すということは
やっぱり大切なんだ」
と自信を持って言えるようになりました。
そして
「そのことは、僕たちが
ちゃんと言っていかなきゃならない」
と、思うようにもなりました。 |
── |
写真だけでなく、音楽とか、本とかも
同じ問題に直面していますよね。 |
吉村 |
だから、どんなかたちで残したらいいのか、
そこについても考えています。
撮ったものを
なんでもかんでもプリントして
残せばいいかといったら
それはそれで、フィルムと一緒になってしまう。
デジカメはデジカメならではの
残しかたがあると思うんですよ。 |
── |
フィルムの場合って、シャッターを押す時点で、
あるいは、プリントをする時点で、
すでに「選んで」ますものね。 |
吉村 |
だから、たとえば「家族写真」みたいに
「ちゃんとかたちにしなきゃ、
かたちにしたいな、と思える写真を撮る機会」
を、たくさんつくっていくような取り組みも、
今後は、進めていきたいです。 |
── |
まだまだ、工夫のしようというのは‥‥。 |
吉村 |
あると思いますね。 |
── |
でも、ずっと吉村さんが追求してきた
「フィルムの楽しさ」の話と
震災のときの
「ものとしての写真」の話は、
すごく、関係あるように聞こえました。 |
ミヤモト |
メーカーとユーザーの間の立場から言いますと
デジタル化の波は抑えられないし、
デジタルの気軽さで
写真の世界に入ってくる人も、たくさんいます。
ですから、吉村さんも僕も、
当然ですが、
デジタルに反対しているわけじゃないんです。 |
|
── |
ええ、ええ。 |
吉村 |
ただ、1年に1枚でいいから
プリントしてほしい。 |
── |
おお、ものすごく具体的な提案。 |
ミヤモト |
そうやって、
好きな写真を「手に取れるもの」にして
大切にしてもらいたいなあと、思います。 |
── |
カメラは別に、どっちでもいいと。
フィルムでも、デジタルでも。 |
吉村 |
そうですね。
ただ、「もの」として残すためには
やっぱり
フィルムが、いちばんの近道なんですよね。
これは、遠いようでいて、絶対に近い。 |
── |
撮ったものをそのまま、選んだりとかせずに
写真屋さんに持っていけばいいわけですものね。 |
吉村 |
いま、いちばんアルバムをつくりたいと
思ってる人たちって
お子さんをお持ちのお母さんだと思うんです。
でも、実際にアルバムをつくっている人は
だいたい、半数くらい。 |
|
── |
そんなもんなんですか。 |
吉村 |
僕たちが子どものころって
わりと当たり前に
アルバムをつくってもらえたじゃないですか。
でも、今の子どもは
デジカメでバンバン撮ってもらっているのに
アルバムは、ないんです。 |
── |
撮りっぱなしで、「パソコンの中」ですよね。
もう、自分の子どもからして、そうです‥‥。 |
吉村 |
本当に、それでいいのかなと思います。 |
── |
親の世代は、プリントを大事にしていたから、
「家族全員が覚えている写真」
というのが、一家に何枚かはありましたよね。 |
吉村 |
だから、写真に関わるものとして
そこをやはり、何とかしていきたいです。 |
── |
逆に言うと
僕らみたいな素人が一眼レフを持てる時代だから、
楽しみかたを提案されたら、
ぜひ乗りたいなとか、思ったりもして。 |
吉村 |
本当に、そこは
僕たちの努力が足りていないと思います。
だから、もっともっと
写真を楽しんでもらえるような、
その可能性を、追い求めていきたいです。 |
── |
今日、お話をうかがって思ったのは
吉村さんたちって
「人の思い出」に関わるお仕事を
されてるんだなあ、ということでした。 |
吉村 |
人の思い出‥‥本当に、そうですね。
たぶん、カメラのありようも、
写真の残しようも、
まだまだ、途上なんだと思うんです。
何が正解かは、わからないですけど、
そのことを胸に刻んで、
これからも写真に関わって行きたいですね。 |
── |
楽しみにしてます! |
<終わります> |
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