みうらじゅんに訊け! 還暦編

みうらじゅんさんは
2018年2月1日に60歳の誕生日を迎えました。
これからじわじわ老年期に入っていく暮らし、
高齢化社会になっていく日本。
還暦になったみうらさんに、
真正面からこれからの「老い」について
訊いてみました。

みうらじゅんさんのプロフィール

みうらじゅん

1958年2月1日、京都生まれ。
武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。
以後、作家、ミュージシャンなど多方面で活躍。
1997年にはみうらさんの言葉「マイブーム」が
新語・流行語大賞のトップテンに選出。
「ゆるキャラ」の名づけ親でもある。
2005年に日本映画批評家大賞功労賞を受賞。
近著に『人生エロエロだもの』
『雑談藝』(いとうせいこうさんとの共著)など。
好物は竹輪の磯辺揚げ。

第4回
ネットショッピングは
機嫌を取ることから。

今回の動画をすぐに見たい方はこちら
──
いま日本は65歳以上の人口が27.3%という、
高齢化社会なんですが。
みうら
27%ですか?
それは、ふつうに見れば、
いわば赤字ですよね?
──
え?
みうら
100人キャパの会場で
27人しか来なかったとすれば、
興行は完全に失敗ですよ。
──
たしかにそうですね。
みうら
赤字なのに
「高齢者がやたら多い」と言っといて
ブームを起こそう、というきらいがある。
そんな気がするんですよ。
──
では、高齢化社会と言い切るには、
高齢者がいっそ
人口の半数を超えなければだめでしょうか。
みうら
いや、
「高齢者で100%です」
と言われたら、
「確かに」ということになります。
それまではちょっと信用できないですね。
──
では、まだまだ100%じゃないので、
ぜんぜん安心して大丈夫ですね(笑)。
いま、高齢者の方で、
ネットショッピングをされる人が
すごく増えてるそうなんです。
みうら
ネットショッピングねぇ‥‥、
ぼくはできないんですよ。
携帯はなんとか使えるんですが、
ネットで買いものができないんです。
だからね、買うときって、
すっごく機嫌をとらなきゃなんないんですよ。
──
機嫌?
みうら
ネットで買物ができる人にです。
欲しいものがあるたびに、
その人の機嫌がいいときを狙わなきゃなんない
身の上なんですよ。
「今日はちょっと機嫌よさそうだな!」
というときに、すかさず
「あの、こういうのあるじゃん? 
これ、ちょっと買ってみたいんだけど」
と、申告しなきゃならないんですよ。
──
なるほど。
みうら
そんなこといっても、
まわりがずっと機嫌が悪いという方は、
結局なんにも買えてないと思うんですよ。
機嫌を取るひと手間をかけるのなら、
デパートに買いにいったほうが早いですよね。
いまの世の中、
「ネット社会、ネット社会」といわれますけれども、
そこに
相手の機嫌を見ている人
のことは、含まれてないのではないでしょうか。
──
‥‥たしかに。
みうら
欲しいものが実用的な商品だったら、まだ
「はいはい」と買ってもらえるかもしれません。
しかし、ぼくの場合はちょっと複雑でね、
こないだ購入してもらったのは
「有田焼の打ち出の小槌」だったんです。
いまぼく、ちょっと「打ち出」ブームなんで。
──
わはははは。
みうら
小槌のグッズが欲しくて欲しくて、
とうとう極彩色をした
有田焼の打ち出の小槌を手に入れました。
価格は1万円もしました。
それはやっぱり「パチパチ」やってくれる人が
そうとう機嫌のいいときじゃないと、
「打ち出?」という剣幕に、
なるじゃないですか。
このように検閲がたいへん厳しいもので、
「なぜ打ち出が欲しいのか」をいちいち
説明しなきゃなんないんです。
「もういいや、いらないよ」なんて
いちどは拗ねてみたりもするんですけど、
でも欲しい。
そしてまた機嫌を見て言い出す、
これのくり返しです。
──
そこをササッとインターネットデビューすれば、
とも思いますが、みうらさんは、
インターネット方面には今後行かない感じですか?
みうら
意地で行ってないわけではないんです。
でも、ネットは習得に時間がかかるでしょう? 
ほかにやらなきゃならないことも
たくさんありますし。
でもまぁ、言ってしまえば、
興味がないんでしょうね。
ぼくはどちらかというと、
足を使って目的地に出向き、
その途中でいろんなものを見つけて
買い食いするのが好きなんです。
たしかにネットサーフィンという言葉は
聞いたことがありますが、
サーフィンもしたこともないぼくが、
先にネットでサーフィンするなんて、
おかしいじゃないですか。
──
はぁ、まぁ‥‥。
みうら
途中でまったく別のものを
買ってしまったりすることが、
実はメインになることだってあります。
そもそも本筋のものって、
ぼくはそんなに欲しくないんです。
みんな、直(ちょく)で買い物するんでしょ? 
「これが欲しい!」といって買いますよね。
ぼくには「これ」がない。
「これ」の手前の「けれ」ぐらいな感じの、
ボロボロッとしたやつが、好きなんですよ。
それならやっぱり足で動かないとダメで、
車に乗っていても、
免許のないぼくは運転席の人に気を使っていますし、
自転車でも、いま、駐輪するとこも
困るじゃないですか。
やっぱり歩かないとダメですね。
──
最近は、ネットで1番人気のものを検索して買う、
という感じでショッピングしています。
みうら
ああー‥‥、
ぼくはもうずーっと、
700位ぐらいのやつを
捜して買ってきてるんですよ。
700位ともなると、もう、
ネットには出てこない場合もありますから。
──
700位だと、出てこないでしょうね。
みうら
ホテルを予約するときに
「ネットで取ると安い」
とか言うじゃないですか。
──
はい、実際そうですね。
みうら
あれ、どうなんでしょうね? 
ホテル側は人を呼びたいということで
やっておられると思うんですけれども、
先代の女将も
できないようなことを
客にやらせる

ということに対して、
なにかこう、ひっかかるんです。
先代の女将さんもきっと
ネットはできないんじゃないでしょうか。
きっと女将さんは誰かに頼んでホームページを
作ってもらってるにちがいないんです。
自分のできないことを宣伝に入れて人を呼ぶ、
しかも安くしているとは、どういうことでしょうか。
それよりも、
「私もねぇ、できないんですよ。
できない同士で、安くしときましょうか」
というのが人情ってものじゃないでしょうか。
──
ネットの申し込みによって
まず人件費が削減できるんですよ。
申込みのデータもぜんぶデジタル処理できますし。
みうら
けれども、そのデジタルの正体って、
誰も見たことがないでしょう?
正体もわからないものに頼っている、
これはどういうことなんでしょう。
ぼくは「有田焼の打ち出」とか、
確実にわかるものを信用しています。

~それでは、本日の動画をごらんください。~

(火曜日につづきます)
2018-03-08-THU

みうらじゅんさんの生誕60年を記念した展覧会が
川崎市市民ミュージアムで開かれています。
これまで誰からも頼まれていない
「ない仕事」をつづけてきたみうらさんの
膨大かつ深遠な創作活動に迫り、
「マイブーム」の起源と全貌を明らかにしていきます。
その量と熱に圧倒されること、まちがいありません。
こんなに「出る」ことはそうそうないと思うので、
ぜひこの機会に、
みうらさんの軌跡をごらんください。

MJ’s FES みうらじゅんフェス!

マイブームの全貌展 SINCE 1958

開催期間:
2018年3月25日まで(月曜および3月22日休館)
場所:
川崎市市民ミュージアム
神奈川県川崎市中原区等々力1-2(等々力緑地内)

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