みうらじゅんさんは
2018年2月1日に60歳の誕生日を迎えました。
これからじわじわ老年期に入っていく暮らし、
高齢化社会になっていく日本。
還暦になったみうらさんに、
真正面からこれからの「老い」について
訊いてみました。
みうらじゅん
1958年２月１日、京都生まれ。
武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。
以後、作家、ミュージシャンなど多方面で活躍。
1997年にはみうらさんの言葉「マイブーム」が
新語・流行語大賞のトップテンに選出。
「ゆるキャラ」の名づけ親でもある。
2005年に日本映画批評家大賞功労賞を受賞。
近著に『人生エロエロだもの』、
『雑談藝』（いとうせいこうさんとの共著）など。
好物は竹輪の磯辺揚げ。
第5回
老後には
自由が必要です。
今回の動画をすぐに見たい方はこちら
- ──
- いまはIoT技術が発達して、
介護施設でも観察システムが
利用されているようですね。
- みうら
- あ、それ知っています。
たしか離れたところでデータを見るやつですよね。
- ──
- はい。
クラウドで監視できるという技術も
発達してるようなんです。
- みうら
- でもね、
ま、自分がこの年になって
言うっていうのもヘンなんですけども、
まだ触るんですよ。
というか、ぼくは、するんです。
- ──
- はい。
- みうら
- 介護施設におられるみなさんも、
されている方はいると思います。
監視というのは、たいへんきついものですよ。
ぼくは実家にいたころ、
それがほんとに
ヒン・パン・アレーに見つかってましたから。
- ──
- ティン・パン・アレーに。
- みうら
- ぼくが家を出て上京した理由の半分は
「美大をめざす」ことでした。
しかし、もう半分の理由は自由でした。
とにかく自由が欲しかったんです。
あのころは監視カメラって、
そんなに出回ってなかったけど、
うちにはオカンとオトンという
監視カメラがいました。
「人目を気にせずしてみたい！」
もうその一心で、自由を欲していました。
介護施設にお住まいの方も、
現役の方がおられると思います。
恋愛もなさると思います。
恋愛でモメたりすることもあるんでしょう。
見られたくないこともあると思います。
見せたくない、聞かせたくないときには
水洗トイレの「音姫」のように
「ザザーッ」と水の流れる音がするとか、
工夫をしていただきたいと思います。
監視する場合は、される側の意見も聞いて、
なさったほうがいいんじゃないかなと思います。
- ──
- 「遠くにいるから心配だ」
という声を尊重して、そうなっちゃうんですね。
- みうら
- 心配の中に
「その年でまだそんなことしてたら心配だ」
というのも含まれてるのかもしれないけども、
それはね、ぼくたちの唯一の楽しみじゃないですか。
- ──
- 唯一かどうかはわかりませんが。
- みうら
- 何が大切かって、やっぱいちばんは
自由じゃないですか。
大人になってせっかく自由を手に入れたのに、
最後はまた監視のもとで逝くとは、なんと虚しい。
あかちゃんは「自由が欲しい」とは言えないですが、
おじいさんのほうは「自由」を知っているのです。
いや、あかちゃんだって、
オギャーと泣いているのは、
自由獲得の叫びでしょう。
- ──
- ああ、そうだったのか。
- みうら
- ほんとうは、それぞれの老後でいいと
ぼくは思います。
- ──
- たしかにそのとおりですね。
みうらさんは自転車に乗るのがお得意だと
最近耳にしたんですが、
それが健康法でしょうか？
聞くところによると、スピード自転車だと‥‥。
- みうら
- 知り合いといっしょに自転車で走ると
みんなついてこれません。
「ふつう、はぐれたら少し先で待ってるだろう」
と言われるんですけど、
そのときにはすでにぼくのスピード自転車は
目的地に着いちゃってる場合がありますから。
- ──
- そんなに速いんですか。
車の運転免許を持ってなくてよかったですね。
- みうら
- 幸いにもね。
みんな昔はぼくに
「免許ぐらいとれよ」と勧めてたけど、
「俺がスピード自転車とわかって言ってるのか」
と、いまでは思いますね。
- ──
- そういえば、みうらさんは最近
アルコールも味が好きじゃないと
お気づきになったんでしたよね。
- みうら
- 前からうすうすおかしいなとは思ってたんです。
毎回、お酒を飲みに行くと、
一杯目が特にマズい。
「なんだこの味！」といつも思います。
それが、酔うにしたがって、
出だしの一杯目のマズさはなくなっていきます。
ビール、日本酒、焼酎、ワイン、
全お酒に言えるのは、とにかく
一杯目がマズすぎです。
- ──
- いや、ふつうは一杯目が
いちばんおいしいんじゃないかと‥‥。
- みうら
- それに比べてカルピスは、ほんとにウマいですね。
いつ飲んでも信用できる、
思ってたとおりの味でしょ。
それを知り合いに言ったら
「カルピスハイにすればいいじゃないですか」
とアドバイスをいただきました。
注文してみたら、もう、
カルピスじゃない部分がマズくてマズくて、
カルピスが台無しになってましたね。
- ──
- わははは、そんな。
- みうら
- 「なんだこれ」と思いました。
それだったら覚悟して、
一杯目はマズいけどふつうのお酒を飲んで
酔うまでがまんしようと思いました。
- ──
- 酔うほどにおいしくなっていくんですね。
お酒の席のみうらさんのたのしみは、
いったいなんですか？
- みうら
- 泥酔した人間の愚かな発言です。
それは己れも含みますが。
これがたまらなくおもしろいんですよ。
お酒がほんとうに好きな人は、
ひとりでチビチビ飲むんだと思います。
でもぼくはお酒の味よりも
「こいつ油断してるな」という、
たまらない味が好きなんです。
自他の油断が見たくて、今日もこれから
お酒を飲みに行くんですよ。
「スター・ウォーズの新作、早く来ねえかな！」
というくらい
油断の新作が
見たくて見たくてたまらないんです。
～それでは、本日の動画をごらんください。～
（木曜日につづきます）
2018-03-13-TUE
みうらじゅんさんの生誕60年を記念した展覧会が
川崎市市民ミュージアムで開かれています。
これまで誰からも頼まれていない
「ない仕事」をつづけてきたみうらさんの
膨大かつ深遠な創作活動に迫り、
「マイブーム」の起源と全貌を明らかにしていきます。
その量と熱に圧倒されること、まちがいありません。
こんなに「出る」ことはそうそうないと思うので、
ぜひこの機会に、
みうらさんの軌跡をごらんください。
MJ’s FES みうらじゅんフェス！
マイブームの全貌展 SINCE 1958
- 開催期間：
- 2018年3月25日まで（月曜および3月22日休館）
- 場所：
- 川崎市市民ミュージアム
神奈川県川崎市中原区等々力1-2（等々力緑地内）
