糸井 | たとえば、今回の展覧会でいうと、 2階にある長い橋なんて、ある種の教養が要りますよね。 あれをつくることによってこうなるんだよ、というのは、 なにかしらの裏づけがないとできないと思うんです。 そのへんは奈良さんの引き出しの中にあったものですか。 |
奈良 | あそこは本当は違うものが展示される予定だったんです。 ところがそれができなくなったというか、 無理したらできるかもしれないけど、 みたいな状態になったんですね。 そのときに、無理して解決するよりは、 まったく違う方法を取ることもひとつの選択肢だった。 どっちを選択しようかというときに、 この「AtoZ」をずっと一緒につくってる grafチームの豊嶋くんが、 あの長い橋を提案してくれたんです。 まっすぐに、ドーンと直線があるっていうのは、 この展示会にない部分だからって。 だから、ほんとにこの展示会は いろんな人の意見が混ざり合ってできてるんです。 どんな人の意見も平等に取り入れて 頭から否定するんじゃなくて許容していく。 彼の言ったことは、ぼくの言ったこと、 ぼくの言ったことは、彼の言ったことみたいに。 みんなのなかでひとつの、なんていうか‥‥。 |
糸井 | 「場の意見」として。 |
奈良 | そうそう、場の意見。 だから本当に、現場にいて、 自然にみんながつながっていった結果、 出きていった、ぼくたちの体制っていうか。 それが「AtoZ」の最大の特長だと思う。 |
糸井 | ぼくの知ってることでいうと、 宮大工さんたちの仕事ってそうですよね。 別に誰がつくったっていうことじゃなくて、 そういうもんだから、っていうふうにつくっていく。 ここは誰がつくった、ここは俺がつくったとかって、 ほんとは関係ないじゃないですか。 連歌っていうのも、そういうつくり方ですよね。 ある人が上の句を作ったら、つぎの人が下の句をつくる。 そのときに、その人が下の句ができなかった場合には、 となりの人がつくっていいんですよね。 でも、その下の句はできなかった人の順番だから、 その人の名前になるんだそうです。 本当は誰でもいいんです。 |
奈良 | ああ、けっこう、それと似てるかもしれない。 |
糸井 | 近いよね。 |
奈良 | もともとは自分でやってたわけじゃないですか。 絵を描くのも、絵を飾るのも、小屋を作るのも。 ところが自分が「こんな感じの小屋」って考えたものを、 grafと出会って、みんなで一緒につくっているうちに、 これをぼくだけのアイディアでつくったと思われるのは 遺憾だなと思うようになったてきて。 それで「これからは+grafってつけよう」って提案して 名義を「奈良美智+graf」にしたんです。 A to ZでもTシャツとかに 「A to Z YOSHITOMO NARA + graf」 ってプリントしてあるんだけど、 さらにボランティアの人が着るTシャツは 「A to Z YOSHITOMO NARA + graf + ボランティアーズ」 っていうプリントにした。 |
糸井 | そういう気持ちがないと、 たぶんこの展示会はできないですよね。 逆に、純粋に人を雇って、これをやれっていわれても、 きっとむつかしいよね。 |
奈良 | たぶんそうだと思います。 結果的に、かかった労働力ってものすごくて、 豊嶋くんが換算したところによると、 この人数で5ヵ月間働いたら、 弘前で一番大きいビルよりでかいビルが建つらしいです。 |
糸井 | でも、ほんとはそれ以上でしょうね。 だって、一所懸命さっていうのは、 数字に出ないじゃないですか。 そこは何が引っ張ってるんですか。 奈良さんの人格が引っ張ってるんですか。 |
奈良 | みんながそれぞれ変わっていくんですよ。 1ヵ月、2ヵ月とやっていくなかで、 みんなが変わっていく。 最初のうちは、ぼくからすると、 ボランティアの人がみんな同じ顔に見えるんです。 それが何ヵ月かすると、 ひとつひとつ違う顔になっていくというか、 すごく成長していくのがわかる。 その人が30歳であろうが、19歳であろうが関係なくて、 それぞれに進歩していって、 最後の方はみんなひとりひとり顔が別々で、 金色に輝いて見える。ぼくらより輝いてるんです。 |
糸井 | 高校野球のいいチームなんていうのも、 そうやってできてるのかも知れないね。 |
奈良 | そうそう。 だから「grafとのコラボレーション」とか言われると、 「いやこれはコラボレーションじゃなくてチームなんだ」 ってぼくは言うことにしてて。 たとえば、ぼくやgrafのメンバーというのは レギュラーみたいなものだと思うんです。 グラウンドにいて、試合に出ているというか。 でも、レギュラーがいたからといって、 それだけで試合ができるわけじゃない。 やっぱりコーチする人や、 実技はできないけど部長先生みたいな人、 倒れたら水を持ってきてくれるマネージャーとか、 実際試合に出てない人の数の方が多かったりする。 甲子園で優勝してる高校なんかも、 試合に出ている9人がすごいんじゃなくて、 それプラスαのものがあって優勝できてるわけで、 だからそういうスポーツのチームの世界と すごくよく似てるんじゃないかと思いますね。 |
糸井 | 似てますよね。 いわば奈良さんは曲を提供しているくらいの感じで、 奈良さんが持ってきた曲をみんなが演奏して、 演奏するうちに上手になって、 観客さえもそこにいてくれてありがとう、 という人になって。 |
奈良 | そうそう、観客も。本当にそうなんです。 ・・・・・「05 運命」へ続きます |