永田 |
ええと、本日は、
先週の放送が連休中だったこともあり
平日にあらためて
しゃべることになったわけですが。 |
西本 |
誰もいないオフィスに集まった
先週とはうってかわって、
全社員が仕事しているなかでの雑談です。 |
糸井 |
ちょっとばたばたしていますね。 |
永田 |
そもそも、奥の部屋で
こっそりやろうとしてたら
「そこは打ち合わせで使うから
テレビの前のソファーに行け」と。 |
西本 |
そうかと思うと、
「やっぱりあんたらは奥へ行け」と。 |
糸井 |
で、確認し直したところ、
「やっぱり奥には来るな」と。 |
永田 |
社内でたらい回しにされている
ほぼ日テレビガイド男子部です。 |
糸井 |
流浪のコンテンツです。 |
西本 |
ほぼ日内『タモリ倶楽部』という感じですね。 |
永田 |
うまい。 |
糸井 |
うまい。 |
西本 |
ありがとうございます。 |
糸井 |
しかしですねえ!
仮にもぼくは社長ですよ! |
西本 |
それが、あっちへ行け、こっちへ行けと。 |
永田 |
あっ、びっくり!
これ、『権助提灯』じゃん! |
ふたり |
おおっ! |
永田 |
うわあ、なんてキレイな枕だろう。 |
西本 |
ぼくと永田さんが権助役で。 |
糸井 |
ソファと奥の部屋を行ったり来たり。 |
永田 |
「もう、夜が明ける」と。 |
西本 |
わはははは。 |
糸井 |
わはははは。 |
来客 |
すいません、打ち合わせで来たのですが、
小川さんはいらっしゃいますか。 |
永田 |
あわわわわ。 |
西本 |
はい、少々、お待ち‥‥。 |
糸井 |
おがわー! おきゃくさんー! |
小川 |
(奥から)はーい。 |
永田 |
‥‥やっぱり、落ち着きませんね。 |
西本 |
‥‥流浪の男子部です。 |
糸井 |
‥‥仮にもぼくは社長ですよ? |
永田 |
意外に枕が簡単に終わりましたので、
さくさくと本編に行きましょうか。 |
糸井 |
ところがぼくはこんなときに限って
とっておきの枕話を用意しているんです。 |
永田 |
じゃあ、それは来週に回していただくとして。 |
糸井 |
仮にもぼくは社長ですよ? |
永田 |
さっさとお願いします! |
糸井 |
ありがとうございます、権助さん。
ええと、今回、虎児が話した
現代風『権助提灯』のなかで、
提灯の代わりになっていたのはなんでしたか? |
永田 |
ナビですよ。カーナビ。 |
糸井 |
そのとおり。じつは連休中、
ぼくはナビを信じて
あっちこっちに振り回されたんです。 |
西本 |
あっ、あの話ですか。 |
糸井 |
そうです、その話です。 |
永田 |
どの話ですか。 |
西本 |
連休中のある日、糸井さんが
突然、我が家を訪れたんですよ。 |
永田 |
へえ。予告なく。 |
西本 |
朝11時くらいに、
突然、嫁がぼくを起こすんです。
「あんた! あんた!」と。 |
永田 |
まあ、「あんた!」とは言わないけどね。 |
西本 |
ドラマであれば、ここから
劇中劇に入ってほしいところです。
「あんた、起きとくれ! たいへんだよ!
玄関にイトイさんが!」 |
永田 |
わははははははは。
っていうか、なんなんですかそれは。
糸井さんはなにしに行ったんですか。 |
糸井 |
まあ、ひと言でいえば、
ゴールデンウィーク中、
ぼくはたいへんヒマだったんです。 |
ふたり |
あはははははは。 |
糸井 |
でね、まあ、ちょっと行ってみるかと。 |
永田 |
予告なしに。 |
糸井 |
うん。まあ、へんに予告して、
気を遣われても困るじゃないですか。
ばたばたとコーヒーなんか出されたりしてさ。 |
永田 |
「ここが寝室なんですよ」
なんつって案内されたりしてね。 |
西本 |
しかも、うち、新築じゃないしね。
築30年のマンションだし。 |
糸井 |
わけても赤ん坊が
生まれたばかりの家ですからね。
慌てて掃除させたりするのも
悪いじゃないですか。 |
西本 |
うちの嫁が慌てて化粧したりとかね。 |
永田 |
「ご飯は食べて来られるのかしら?」
とかね。 |
糸井 |
「なに、西本、
ふだんはそんな服着てるの?」
とかね。 |
永田 |
行くほうも来られるほうも
めんどうくさいだろう、と。 |
糸井 |
そうです。だから、あえて連絡なしで。
ま、いわば、バズーカですね。 |
ふたり |
「早朝バズーカ」。 |
糸井 |
「バズーカですね」って言う
ぼくもぼくですけど、
それに答えてふたりして
「早朝バズーカ」って声をそろえるのも
どうかと思いますよ。
若い人たちにはなにがなんだか
わからないですよ。 |
西本 |
よくわからない方は
「早朝バズーカ」で検索してみてください。 |
永田 |
まあ、ともかく、ヒマな社長としては、
玄関先でバズーカ1発撃って失礼しよう、と。 |
糸井 |
そうそうそう。
ま、ヒマだし、ってんでね、
天気のいい休日に、
よっこらしょとバズーカをかついで
家を出たわけですよ。
そしたらね、
バズーカ持ったまま迷っちゃった。 |
ふたり |
うははははははははは。 |
糸井 |
それというのもナビなんですよ!
たいへんだったんですよ、ほんとに!
つまりね、住所を頼りに行ったんだけどね、
個人のお宅を探すには、
ナビは意外に適してないんですよ。
おれは41番地に行きたいのに、
なぜか38あたりで止められたりするんですよ。 |
永田 |
ああ、ナビってそういうところありますね。
「目的地に近づきましたので案内を終了します」
とか、突然言われたりする。
おいおい、詰めが甘いだろう、みたいな。 |
糸井 |
そういうことなんですよ。
しかも、41と38が妙に離れてたり、
ブロックの反対側にあったりするんですよ。
で、まあ、20分くらいかな? |
西本 |
20分も! |
糸井 |
しかも、あんまり見つからないもんだから。
「ここに長く駐車するわけにもいかないなあ」
なんて思ったりして、
けっきょく駐車場所を3回も変えてね。 |
永田 |
3回も! |
糸井 |
最終的には100円パーキングに
きちんとクルマを入れてね。
そこで、こう、腕組みして、
「おれはいったいなにをやってるんだ?」と。 |
ふたり |
わははははははは! |
糸井 |
しみじみと考えましたね。 |
永田 |
かたわらにバズーカを置いて。 |
糸井 |
そうそう。弾をこめたままのね。
しかもね、
西本がちっとも電話に出ないんですよ! |
西本 |
あとから着信履歴を見てびっくりしました。
糸井さんから16回くらい入ってましたから。 |
永田 |
わははははは。 |
糸井 |
なんかさあ、西本ってさあ、
しょっちゅう携帯電話に出て、
誰かとしゃべっちゃあ、
舌打ちしてるイメージがあるじゃないですか。 |
永田 |
あるあるあるある(笑)。
「ぁあ、どーも西本ですぅ!
そぉすか、ほんとっすか」みたいな。 |
糸井 |
そんな男がちっとも電話に出ないんですよ。 |
西本 |
着信履歴のひとつひとつに、
「出ろよ!」「出ろよ!」
「出ろよ!」っていう
糸井さんの悲痛な叫びがこもってましたよ。 |
糸井 |
そんなわけですから、もう、ぼくは、
カーナビに翻弄されて、
バズーカかついだまま、
世田谷をぐるぐる回ってたわけですよ。 |
永田 |
ちょっとした不審者ですね。 |
糸井 |
言っときますけど、
ほんとうにバズーカを
かついでたわけじゃありませんよ? |
永田 |
そんなことはわかってますよ。 |
糸井 |
いや、わかっていることは
わかってるんですけどね。 |
永田 |
わかってることはわかってることも
わかってますけども。 |
糸井 |
あ、わかってることをわかってることは
わかってましたか。 |
永田 |
ええ。わかってることをわかってることは
わかってましたよ。 |
糸井 |
わかってることをわかってることが
わかってるならいいんですよ。 |
西本 |
えっ、わかってることをわかってることが
わかってるならいいんですか! |
永田 |
もういいよ。 |
西本 |
まあ、そんな糸井さんでしたが、
けっきょく我が家に滞在したのは
ほんとうに2分ばかり。 |
糸井 |
見事に玄関先でバズーカを撃って帰りましたよ。
状況が状況だけに、
心なしか湿り気味でしたけどね。
ズドンと哀しい音がしましたよ。
ま、行ったり来たりの、ひどい目に遭ったと。
そういうナビつながりの枕話だったわけです。 |
永田 |
さっさと本編に行きましょう。 |
西本 |
じゃあ、たまにはぼくから。
ええ〜、今回は
「駅の回」と「道の回」のたとえでいうと
「道の回」じゃないかと思いました。 |
糸井 |
おお、懐かしい言い回しですね。 |
永田 |
ちなみにこの言い回しは
『新選組!』のときのテレビガイドで
使われたことばで、
「駅の回」はドラマのキーとなる回、
「道の回」はつなぎとなる回を指します。 |
西本 |
先週の『茶の湯』の回のクオリティーの高さや
番組終了時の「あっぱれ!」という
気持ちよさとくらべると
「楽しませてもらったけど
前回が強烈だっただけに‥‥」
という感じです。 |
糸井 |
わりと大胆な発言ですね。
にしもっちゃん、それはあれじゃないですか、
今回が愛人をテーマにした、
新婚夫婦には
微妙な回だったからじゃないですか。 |
西本 |
ああ、たしかに嫁と観てましたから。 |
糸井 |
新婚にはあまりよくないですよ。
テレビから、「浮気」とか「妾」とかいう
ことばが流れてきただけで‥‥。 |
西本 |
ちょっと気まずいですね。 |
永田 |
冷静になると、
妙に生々しい話ではありますよね。
なんというか、こう、女の人が
ものみたいに扱われているというか。
ま、落語にはしょっちゅう出てきますけど。
そういうデリケートな部分を含むので。 |
糸井 |
でも、ほんとうのところは
ものの部分の方が強いという話ですよね。 |
永田 |
そうですね。落語部分は完全にそうだし。
ドラマのほうでも、もの、つまり、
女性のほうを強くする演出が
きちんとほどこされてましたよね。
具体的には森下愛子さんの
あっけらかんとした強いキャラクターと、
家を往復させられるときに
いい気分で酔っぱらっているという設定。
いつもながら、観る側が
余計な気苦労をしなくてすむような
細かいサービスがあるなあと思いました。 |
糸井 |
それはあるかもなぁ。
でも、ぼくらが感じてるようなことは
じつは女性の視聴者なんかは
ほとんど感じてなかったりしますよね。 |
西本 |
きっとそうなんですよねえ。 |
糸井 |
つまり、あなたの嫁なんかに言わせてみれば
「なにドキドキしてるのよ?」ってことです。
「バカじゃない?」ということです。
それって『権助提灯』のなかの
ダンナそのものじゃないですか。
そのあたりもふくめて、
ぼくはあいかわらず見事だと思いました。
現代に置き換えるところも、
提灯をナビにして、権助の役を集団にして。
すごいことをしてるなぁと思いましたけどね。 |
永田 |
にしもっちゃんが言ってることで
ぼくが思い当たるのは、
今回は「シリーズもの」の流れを
いったん違う場所に
持って行ったなということです。
あの、先週もテーマになりましたけど、
ぼくらがいろいろとおもしろがってる
「シリーズもの」があるじゃないですか。 |
西本 |
「カツラ」とか「泣いてるさゆりちゃん」とか。 |
永田 |
そうそう。ああいう「お約束もの」って、
観てるほうも期待してるから、
回を追うごとに、インフレ化していくでしょう?
でもその流れって単調になっちゃったり
「観る側が期待している」ということだけで
最初の驚きがなくなっちゃたり
するじゃないですか。
だから、今回はいろんなシリーズを、
いったん休ませるというか、
手綱をゆるめるというか、
すっと力を抜いていた回だと思うので、
期待している人をスコーンと撃ち抜く
爽快さは弱かったのかもしれないなと思って。
でも、早めに抜いておくのは
ぼくはうまいなと思いました。
具体的にいうと、わりと早めに
「カツラ」と「さゆりちゃん」を
合わせ技にして処理してましたよね。 |
西本 |
ああ、そういえば、
「うどん」の名前をいじるのも
一回休みでしたね。 |
永田 |
そうそう。ああいうの、
義務みたいになっちゃうとよくないから、
この抜き具合はさすがというか、
つくってる人の経験の多さを感じました。 |
糸井 |
いわば、『スターウォーズ』でいうと、
『帝国の逆襲』みたいなもんですよね。
そういうのを入れないと持ちませんからね。 |
永田 |
そう思います。
沸騰する前にいったん火を止めます、みたいな。 |
糸井 |
そういうことをする一方で、
鍋に新しい材料も投げ込んでますよね。
ぼくは、鶴瓶さんに「落語ができる人」という
要素を入れたのがすごいなと思って。
つまり、あの親分の立ち位置を
グッと近いところに持ってきましたよね。
これはね、考えついたときは
会心だったんじゃないかと思ったんです。 |
西本 |
また、
「東のショウちゃん、西のケンちゃん」と
双璧にしてるのもうまいですよね。
ディテールの部分になりますが、
「仁鶴を超えてたかもしれない」
というあたりは
うまい表現だなあと思いました。 |
糸井 |
30年前ということを
きちんと踏まえた表現なんですよね。 |
西本 |
そうなんです。
当時、仁鶴さんは元祖視聴率男ですよ。
「四角い仁鶴が、まぁ〜るく治めまっせ」で
アイドル的人気ですよ。 |
永田 |
お、さすが元・吉本興業。 |
西本 |
ええ。吉本興業の特別顧問は、
きよしさんでも三枝さんでもなくて
仁鶴さんなんですよ。
それくらい社員からも芸人からも
リスペクトがある存在なんですよ。 |
永田 |
へええ、そうなんだ。 |
糸井 |
だから、関西の人には、
あの設定はすごくおもしろいだろうね。 |
永田 |
そうかそうか、じゃあ、
鶴瓶親分が落語ができるという新要素は、
キャラクターの幅だけじゃなくて、
あのドラマに「上方落語」という軸を
持ち込んでいるんですね。 |
糸井 |
そういうことですね。
舞台設定として東京を強く押し出してますから
ずいぶんドラマが立体的になりますよね。 |
西本 |
春風亭昇太さんのひとり会というかたちで
「はじめての落語。」を企画したときも
落語ファンの方から
「上方落語でもやってください」っていう
メールがたくさん来ました。 |
永田 |
落語の世界では、東と西という意識が
はっきりとあるということですね。 |
糸井 |
思えばそれって、
いまどきめずらしいことだよね。
大相撲でも東と西に力士を分けるけど
あれはウソだもんね。
つまり、現代では、東と西と意識をしないで
いろんなことをやってるじゃないですか。
野球の東西対抗なんかもいちおうあるけど、
あれだって本気で東と西を
対抗させてるわけじゃないですよね。
そう考えると落語の棲み分けというのは
はっきりしてますよ。
いわばモグラに近いですよ。 |
永田 |
モグラ? |
糸井 |
モグラっていうのはね、
箱根あたりを境にして、
「東のモグラ」と「西のモグラ」に
分かれてるんですよ。 |
永田 |
へえ、知らなかった! |
西本 |
ぼくは知ってました。 |
永田 |
それは、種類が違うんですか? |
糸井 |
違うんです。最近はちょっと
混ざりはじめてるらしいですけどね。
要するに、「アホ!」という文化と
「バカ!」という文化があるようなものです。 |
永田 |
箱根を境にして
アホモグラとバカモグラが? |
糸井 |
そうです。
もちろん、そういう名前じゃありませんけど。 |
永田 |
わかってますよ。 |
糸井 |
わかってることはわかってますよ。 |
西本 |
えっ、わかってることはわかってるんですか。 |
永田 |
もうええっちゅーねん。 |
糸井 |
もうひとつ、今回加わった要素としては、
「権助」の存在ですね。
『権助提灯』みたいなものは、
落語のジャンルのひとつとしてあるんですよ。
つまり、ご隠居さんがいたり、
熊さん、八っつぁんがいたり、
女郎がいたり、太鼓持ちがいたりするみたいに、
「権助」という役回りがあって、
なにかというと、ひと言でいえば
「都市部に入ってきた農村の人」なんですよ。 |
永田 |
あ、そうなんですね。
じゃあ、与太郎とも違うわけですか。 |
糸井 |
与太郎と権助はぜんぜん違うんです。
権助は地方出身者で、
都市の人たちとの対極として描かれるんですよ。
いわば江戸っ子の反対側にいる人なんです。
たとえば、都市の人たちっていうのは、
「宵越しの銭は持たない」なんていうことを
平気で言えちゃうわけです。
火事になったらすぐに焼けちゃうような
ぺらっぺらの長屋に住んでますし、
安定した財産がないですから、
腕に自信さえあれば、
銭は残さなくてもへっちゃらなんです。
当時の江戸というのは
大火事があると町がざーっと焼けちゃうわけで、
ストックに対する意識が薄いんですね。 |
永田 |
『風雲児たち』にもありましたね。 |
糸井 |
あのマンガはほんとうに役に立つなあ。 |
西本 |
男子部のバイブルですからね。 |
糸井 |
あと、江戸東京博物館に行くと、
そのへんがすごくよくわかりますよ。
こう、東京の地層の模型があって、
そこを観察していくと、
いつ大火事があったかっていうのが
灰の混じり具合でわかるようになってるんです。 |
永田 |
ほんとうに、江戸っていうのは
「火事で焼けちゃったら終わり」
っていう町だったんですね。 |
糸井 |
だから、「宵越しの銭は持たねえ」っていうのは
まあ、粋なことを表してもいるんだけど、
当たり前なことでもあったわけです。
一方、権助っていう人は、もともと
田地田畑に作物をつくっている人たちで
根っこのある人たち、
財産は大切だっていう人たちなわけです。
そういう人たちが、都市部に働きに来ている。
それが権助なんです。 |
西本 |
なるほど。 |
糸井 |
で、権助というのは今回の噺にように
下男みたいな役をやることが多くて、
都市の人たちからは
ちょっとバカにされてたりもするんです。
つまり、ある意味「ガイジン扱い」されてる。
けど、落語のなかではたいてい、
真理は権助の側にあるように描かれるんです。
江戸っ子たちは、
権助を「イヤだねえ」なんて言うけど、
だいたい権助のほうに正論があって、
権助のほうが勝っちゃうんです。
都市の人たちも、じつは権助のほうが正しいって
薄々感づいてたりする。
そういう役どころとして、
権助はいろんな場所に出てくるわけなんだけど
権助をどれくらい「イヤなやつ」に
描くかという度合いが
落語家の個性によって、ぜんぜん違うんですよ。 |
永田 |
なるほどなるほど。 |
糸井 |
もう、この権助はほんとにイヤだという
描き方もできますよね。
ただの天然の人として描けば
人がよくって素直すぎるがゆえに
自分たちにとって困るという描き方もあるし。
落語って、そういう、
「人の悪さ」や「毒」の出し具合で
ぜんぜん印象が違ってくるですよ。 |
永田 |
同じ噺でも落語家さんによって
まったく違う印象になってしまうという。 |
糸井 |
そのあたりを落語はたのしめるんです。
で、今回は劇中劇の権助を
荒川良々さんがやったわけですけど、
少し悪意が入った権助でしたよね。
都会人を値踏みするような目で見ている。
たとえば提灯ひとつとってみても、
「気を利かせて火を消さずにおきました」
なんていうふうにして
「いい権助」として表すことも
できるじゃないですか。
でもまあ、宮藤官九郎さんは、
キャスティングも含めて、
ああいう権助にしたわけです。 |
永田 |
もともと、ドラマのなかでの
「東京」に対する目線がああですよね。
地方から見たときのおかしさ、
みたいなものがたっぷり入ってる。 |
西本 |
裏原宿との距離感とか。 |
永田 |
そうそう。 |
糸井 |
そういうふうに、
軽い悪意を権助に乗っけてるということは
宮藤さんは農村の側というのを
知ってるわけですよ。 |
西本 |
実際、宮藤官九郎さんは宮城出身ですしね。 |
糸井 |
そのあたりの視線が
あの権助には入ってますよね。
ただの純朴の権助じゃねえぞ
という描き方をしているのが
おもしろいんですよ。 |
永田 |
かといって、
東京を嫌ってるわけじゃないですよね。 |
糸井 |
いや、むしろ愛情もたっぷりありますよ。
度が過ぎると権助がほんとに
イヤな権助になっちゃうんですけど、
そうじゃないですからね。
まあ、そのあたりは、
『権助提灯』という噺自体が
とてもよくできているというのも
ありますけどね。
とにかく、権助的な要素に
今後も注目していくと
おもしろいかもしれません。 |
永田 |
ある意味で「地方目線の東京」というのは
このドラマのいちばんの
モチーフかもしれないし。 |
西本 |
思えば、最初のスペシャルでも
最後は青森でしたからね。 |
永田 |
ていうか、伊東美咲さんの役に
そもそも権助成分が混じってるのか。 |
糸井 |
そうですね。
これから先、ドラマが進んでいくと
権助が小金をもって花魁のところに通う、
みたいなことがあるかもしれないですよ。
まあ、知りませんけどね。
つまり、だましだまされている色里の風景に
本気で信じているやつが紛れこんだ時の
ダサさが表現されている噺があるんだけど、
ダサいほうに真実があるかもしれないなという
部分にドキドキが加わるわけですよ。 |
西本 |
ダサいといえば、
今回のドラゴンソーダの服は
ほんとにダサかったですね。 |
永田 |
今回は正装でしたからね! |
西本 |
ええ。ドラゴンソーダフルスペックでしたよ。 |
糸井 |
全身をコーディネートしてみたわけですよね。 |
西本 |
しかも、デザイナー自らがフルスペックで着て。 |
永田 |
あの、タンクトップの下の
タンクトップっていうか
「ダブル金太郎状態」がすごかったなあ‥‥。 |
西本 |
ぼくはいままで、
ドラゴンソーダのメッシュというのは
バスケのユニフォーム的な、
どちらかというとスポーティーなものだと
とらえてたんですよ。ところが今回、
よく見たら、裾がフリルじゃないですか! |
ふたり |
あはははははは。 |
西本 |
ドラゴンソーダはメッシュでフリルか! と。 |
永田 |
先週のリストバンドもフリルだったね。
ちゃんとしてたけど。 |
糸井 |
ファッションといえば、
親分たちの若いときのファッションが
すごかったですね。
岡田くんの底上げブーツ。 |
永田 |
あれ、すごかった(笑)。 |
糸井 |
あれ、笑わせてるつもりじゃなくて、
当時の王道ファッションですからね。
王道行ってるつもりでも、いつかは
ドラゴンソーダ扱いされちゃうわけですから
たいへんですよ、オシャレって。弱ったね。 |
西本 |
ジャンプ亭は私服はダサいのに
落語家としてはかっこいい人になってるのも
おもしろいですよね。 |
永田 |
あの場面は、阿部サダヲさんの
司会っぷりにしびれましたね。
15秒くらいなんですけどね。 |
西本 |
あれ、ナイス営業ですよねー。 |
糸井 |
ほんとにあの人は器用だなあ。 |
永田 |
あれ、
どっちも評価したくなるじゃないですか。
劇中のどん太というやつがあれをやってたら
おもろい芸人だなと思いますし、
阿部サダヲさんという役者としても
すげーとか思うし。
両方に拍手したくなるんですよね。 |
糸井 |
すごいよね。
あと、細かいところはなにかありますか? |
永田 |
細かいところといえば、
ラブレターの名前ですよ。
あれ、ぼく、最初に観たときは
なにがなんだか
よくわからなかったんですけど。
あの、「中谷中」ってやつ。 |
西本 |
あ、おれもわかんなかった。 |
永田 |
今日、事務所の録画を見直してたら、
わかったんですけど、
あれって、「中谷」って書かれてたものが、
紙を折ったときに、反対側に写っちゃって
「中谷中」になってたってことなんですよ。
万年筆がにじんじゃって。 |
ふたり |
は? |
永田 |
えっとね、鶴瓶さんが「中谷」でしょ。
西田さんが「谷中」でしょ。
で、鶴瓶さんが書いたわけだから、
ほんとは「中谷」って書いてあるです。
万年筆でね。ところが、
ラブレターの、便せんを折ったときに、
「谷中」の「谷」の真ん中で折ったもんだから、
反対側に「中」が写っちゃって、
「中谷中」になってるんですよ。 |
糸井 |
え? はあはあはあ、そういうことか。 |
西本 |
うわあああっ。ということは。
最初っから、「三枚起請」のときから、
というかキャラクター設定のときにすでに
このアイデアが浮かんでたってこと? |
永田 |
あのスペシャルのときって、
鶴瓶さんのほうの名前ってついてたっけ?
あ、役名があるわけだから、ついてるか。
だとしたらそういうことになるね。
また、細かいのは、その仕掛けのためには、
鶴瓶さんの名字が「中谷」で、
西田さんの名字が「谷中」だっていうことを
お客さんにわからせなきゃいけないから、
ドラマのあちこちに
名字を登場させてるんですよ。
同窓会のハガキのアップを見せたり、
家を行き来するときに表札を映したり。
あと、ラブレターの中身を見るときも、
わざわざ開く直前に、
「ちょっと待った!
差出人が中谷だったらオレが運転で
谷中だったら竜二さんが運転ね」って
銀次郎に言わせてるし。
まあ、久しぶりにテレビガイドらしい、
細かい報告でした。 |
糸井 |
(録画を確認しながら)
あっ、ほんとだ。左右対称で、
ロールシャッハテストみたいになって
にじんでるわけね。
あっ、そうだそうだ、細かいことといえば、
『タイガー&ドラゴン』のプロデューサーは
女性なんですね。 |
西本 |
ええ、磯山さんは女性ですよ。 |
糸井 |
けっこう、驚いたよ。
なんかさあ、
このドラマつくってる人たちって、
ものすごく男の悪ガキの集団みたいに見えない? |
西本 |
ああ、はいはい。 |
糸井 |
男どうしが集まってバカやってワイワイ、
という感じかと思ったら
じつは女のプロデューサーだっていうのは、
なんか、「儲けっ!」という感じがしたなあ。
あとさ、このドラマって、
小物がすごいちゃんとしてるんだけど、
あの、細かい道具を集めてる係っていうのが
あるんですかね。 |
西本 |
ドラマでは「持ち道具さん」という
役割の人がいますよ。 |
永田 |
へえー。「持ち道具さん」。 |
糸井 |
だとしたら、その人に拍手を贈りたいですね。
まあ、美術なんかも含めて、ドラマでは
ディテールがよくできてますよ。 |
永田 |
あと、今回は、西田さんに笑わされた! |
糸井 |
よかったねえ! |
西本 |
ぼくは来週の予告に登場した
古田新太さんと、
次長・課長の河本くんに期待です。 |
糸井 |
そんな感じで今週は終わりにしましょうか。 |
永田 |
なぜなら、お客さんが来たりして、
ひじょうにばたばたしているのです。 |
西本 |
また来週! |
3人 |
よろしくお願いします! |