秀島史香さん(ラジオDJ、ナレーター)ハッピーって、
難しいことじゃない。

任天堂の元社長、岩田聡さんのことばをまとめた
『岩田さん』という本を出しました。
それでとてもうれしかったのは、
本をきっかけに、たくさんの人が
岩田さんについて話しはじめたことでした。
もっと岩田さんの話がしたくて、
いろんな人に取材することにしました。
岩田さんをご存知のみなさん、
岩田聡さんについて教えてください。
『岩田さん』を読んでくださったみなさん、
感じたことを聞かせてください。

取材・編集:中川實穗

第2回じゃあ自分のハッピーは何かな?

──秀島さんがふたつ目に挙げていた
「自分以外の人に敬意を持てるかどうか」(P60)
についてもうかがいたいです。

秀島これは、いまの私の仕事が
チームワークあってのものなので
とても響いた言葉でした。
ラジオの現場にいると
それぞれのプロが、それぞれの持ち場で、
なんとかして番組を成立させようとしているんだ、
ということを、いつも感じます。
例えばリスナーの方から
届くメッセージを整理してくれる人、
それをプリントアウトしてくれる人、
選曲してくれる人、
音を出してくれる人‥‥
みんなが歯車になって、噛み合って、回って、
それではじめて番組ができる。

──放送されるのはDJの声だけだとしても、
それをたくさんの人が支えているんですね。

秀島はい。新人の頃は、しゃべる自分が
一人でどうにかしなきゃ、
というふうに思っていたこともありました。
でもそうじゃないんですよね。
できないことは、できない。
逆に、私にしかできないこともある。
そして、ひとりひとりがみんな、
その仕事を選んだ情熱や、
かけてきた時間、やってしまった失敗、
そういうものを重ねて、いまこの場にいる。
そのことを思うと、誰が誰より偉いとか、
この仕事の方が価値があるとか、
そういうことはないと思うんです。

──本のなかで岩田さんがおっしゃっている、
「自分以外の人に敬意を持てるか」
ということにつながるお話です。
DJである秀島さんと岩田さんの仕事の話が
こんなふうに自然とリンクするんですね。

秀島不思議ですよね。
私、岩田さんが社員全員と面談する話もすごく好きで。
やっぱりいろんなプロの人たちが連携していく現場は、
コミュニケーションの量も必要なんだと
あらためて思いました。
私も、いまやっている生放送のラジオ番組のチームは、
エンジニアさんからADさんまでみんな
「思うことは言おうね」という環境を
意識的につくっているんです。

──秀島さんの著書『いい空気を一瞬でつくる
誰とでも会話がはずむ42の法則
』(朝日新聞出版)
にも、そこを大事だと書いていらっしゃいましたね。

秀島読んでくださってありがとうございます。
そういう空気づくりは、
リーダーや年長者の責任というか、
役目だと思っていて。
やわらかく積極的に話を振ってみたり、
どんなことにもまずは「いいね!」と受けとめないと
なにも言えない空気になってきちゃうので
そこは気を付けているつもりです。

──話しやすい環境をつくると、
自然とコミュニケーションの量も増えるんですね。

秀島はい。そうすると、チームも生き生きしますし、
笑いも起きやすい。
この「笑い」も大事なもので、
以前、番組にご出演いただいた
マラソン解説者の増田明美さんが
おっしゃっていたのですが、
強いチームには「笑い」があるそうなんです。
それは余裕があるからということではなくて、
意識してユーモアを忘れないようにしている、と。
岩田さんも
「現場のスタッフに悲壮感が漂わないところが、
みんながニコニコ笑って遊べる商品に仕上がる理由」
(P216)
とおっしゃっていましたよね。
すべてがつながっているなと思いました。

──本当ですね。

秀島私、「ご褒美発見回路」の話(P80)も
素敵だなと思っていて。

──自分のエネルギーを注ぎ込んだ先から
なにかしらの反応が返ってきたら
それが自分のご褒美になる。
そのご褒美を発見できるのが才能だ、という話ですね。

秀島それは本に書かれている
「人間って、自分がしたことに対してフィードバックが
あると、それによってつぎの動機が生まれる」(P171)
ということにも繋がっているなと思いました。
うれしいとか、幸せな顔とか、
「バカもん!」もある意味そうだと思うのですが、
すべてのフィードバックを
私たちはご褒美にできると思うんです。
そして互いにフィードバックし合えるようになると、
関係性もどんどんうまく回っていく。
そのためには、フィードバックできるように
「あの人にフィードバックしたい」と
思ってもらえるような人間でいなくちゃ、
とも思いますね‥‥
なんか、暑くなってきたんですけど(笑)。

──あ、この部屋、陽当りがいいですから。

秀島いえ、陽当たりじゃなくて、
私が語りだして
アツくなってきたんじゃないかと(笑)。
みなさん、大丈夫ですか?

──アツく語っていただけて、うれしいです(笑)。
秀島さんがツイートで挙げてくださっていた
「人がよろこんでくれることが好きです」
のお話もうかがいたいです。

秀島はい。『岩田さん』という本を読んでいると、
岩田さんって、とにかくみんなを
ハッピーにすることに
骨身を惜しまない方なんだと感じました。

──はい、そう思います。

秀島みんなをハッピーにしたいって、
究極的で、しかもシンプルですよね。
でも、いまって、たぶん、
何をどうすれば幸せになるのか、
ということがわからなくなってきている
時代だと思うんです。

──ああ、なるほど。

秀島「FOMO(Fear of missing out)」
という言葉があって、これは、SNSなどで、
みんなのキラキラした幸せを見ているうちに
自分だけが取り残されているような
気持ちになることを表す言葉なんです。
いま、あらゆるカタチの「私、幸せ」のサンプルが
目に見えるようになってきちゃって、
それで逆に自分の幸せがなんなのか、
わからなくなってしまう。

──人の「幸せ」ははっきり見えるけど、
それが自分の「幸せ」と重なるわけではないし、
何が自分の「幸せ」なのか、
どんどんわからなくなってしまう‥‥。

秀島そういう時代だと思うんです。
それで、岩田さんが面談のときにまず
「あなたはいまハッピーですか?」と
質問していたというのを読んで、
「じゃあ自分のハッピーは何かな?」
と考えてみたんですけど、
言葉にしようとしたら、
考え直すことがたくさんあったんです。
なんていうか、究極のところ、
自分自身も健康で、家族も健康で、
ちょっとおいしいものが食べられて、
本を読む時間があって、
公園で遊べて‥‥みたいな。

──秀島さんご自身のハッピーに、
あらためて向き合ったというか。

秀島そうですね。
いっぱいあるハッピーのサンプルの中から、
自分のハッピーを選び取るって考えると
わからなくなってしまうんですけど、
真っ平らな、ゼロベースのところに、
「自分は何をしたときにハッピーかな?」
って考えて「まず健康で‥‥」って、
ひとつひとつ積み上げていくと、
そんなに積み上がらないなと思ったんです。
だから、本のなかで岩田さんがおっしゃっている
「ハッピーですか?」という質問は、
ゼロから自分を考え直すきっかけになりました。
‥‥で、ここのページに「矢沢永吉」って
急に書いてあるんですけど(笑)。

──え? 矢沢永吉さん?

秀島実は私、矢沢永吉さんの著書『成り上がり』と
『アー・ユー・ハッピー?』がすごく好きで。
矢沢さんの語られる言葉って、
すごくシンプルなんですよね。
ご自身がやりたいことについても、
いつもストレートにおっしゃっている。
「東京に出てビッグになる」とか、
「まずはキャロルで一旗あげて」とか、
自分がどうすればハッピーになるかというのを
ちゃんと言葉で言える。
だからいつもブレないし、人と比べて
迷うこともないんだろうなって思うんです。
だから、私も、
「これとこれさえ満たされていればいいんだ」
と言葉で言える強さがあれば、
自分の中に芯が持てると思ったんです。
そのために、
「これこれこういうことをしたい」って、
「自分のハッピー」をきちんと言葉にしておく。
そのうえで、日々、ちゃんと自分に
「Are you happy?」
「Am I happy?」って問いかけていれば、
他の人がキラキラしたことをやっていたり、
「なんで自分はできないんだ」って
思うようなことがあっても、
「ちょっと待ってよ、私はこれとこれが
できればハッピーなんだった」
っていうふうに立ち戻れるというか。

これまでの岩田さんを知ってる人たち。