秀島史香さん(ラジオDJ、ナレーター)ハッピーって、
難しいことじゃない。
任天堂の元社長、岩田聡さんのことばをまとめた
『岩田さん』という本を出しました。
それでとてもうれしかったのは、
本をきっかけに、たくさんの人が
岩田さんについて話しはじめたことでした。
もっと岩田さんの話がしたくて、
いろんな人に取材することにしました。
岩田さんをご存知のみなさん、
岩田聡さんについて教えてください。
『岩田さん』を読んでくださったみなさん、
感じたことを聞かせてください。
取材・編集:中川實穗
第3回たぶんこれは色褪せないんだろうな
──秀島さんはさきほど、
「自分にとってのハッピー」として、
「自分と家族が健康で、
ちょっとおいしいものが食べられて、
本を読む時間があって、公園で遊べて‥‥」
ということを挙げられていましたが、
若いころからそう感じていたんですか?
秀島いえ、若いときは違いました。
「あれもやりたい、これもやりたい、
それもしたい‥‥でもできない!」
って、よく思っていましたね。
それで、他の人がそれをやっているのを見ると、
「私もがんばればできるのに」みたいに嫉妬して。
もう、全部をやりたがってましたね。
あらゆることができてようやく幸せ、みたいな。
──そこはキャリアを重ねて変わった部分ですか?
秀島変わっているでしょうね。
たとえば若いころは、
「あの人のあの番組いいな」とか、
「なんで私はいまこの番組をやってるんだろう?」
とか、いちいち思ってしまってたんですけど、
いまは、
「わ、あの人いいな! 私もやりたかった!」
という仕事を目にしても、
自分の個性や担当を考えて、
「そりゃそうだよな」って、
ふつうに納得できるんです。
──それは、秀島さんのなかで、
なにが変わったんでしょう?
秀島やっぱり、人は、得意分野が違いますから。
自分よりも他の人が長けてるものもあるし、
他の人が私を見て「秀島にはこれだ」って、
声をかけてくれるものもある。
そういうことを認められるように
なるんじゃないでしょうか。
本のなかで岩田さんも
「自分が得意なこととそうでないことを、
ちゃんと見極める」(P43)
ということについておっしゃってましたけど、
どんなことでも、少しでもいいので、
「これなら人よりもうまくできる」
という自分の得意なことを
わかっておくというのは大きいと思います。
たとえばカメラマンさんだったら
「きれいな写真が撮れた」だったり、
私だったら「お話を楽しく聞けた」とか、
なんというか、本人にとっては
当たり前に感じるようなことでも、
「自分にできることがちゃんとできた」って思ったら、
合格点を出してもいいんじゃないでしょうか。
──たしかに、そうですね。
秀島一日の終わりに、
自分がハッピーだなと思えるもの、
満足できるものを再確認して、
「今日も無事にケガもなく終えられてよかった」
ということで布団に入ってもいいし。
そういうことで十分にハッピーだというふうに、
考えてもいいと思うんです。
だから、いい意味で、ハッピーラインを
みんなで「せーの!」で下げてもいいのかな。
下げるっていう言い方は変だな、
設定し直すっていうんですか。
──よくわかります。
秀島そういうことを、この本のなかで
岩田さんは丁寧におっしゃってますよね。
──はい。そのあたりの、人が悩みがちなことを、
すっと整理してくれる本だと思います。
秀島しかも、フラットでシンプルな言葉で
書かれているのがいいんですよね。
言葉にするということは、
みんなで共有できるっていうことですから、
それはものすごく大切な宝物になるというか、
たぶんこれは色褪せないんだろうな、
という気がするんです。
極端にいうと、これから何百年先、
いまのゲーム機のことを
誰も知らなくなった時代になっても、
岩田さんがおっしゃっている
普遍的なことは残っていると思います。
逆に江戸時代に持って行っても
通じそうじゃないですか?
──え、江戸時代ですか(笑)?
秀島浮世絵とかも、チームで刷っていたそうですから、
「なんで俺は彫るだけなんだよ」とか言ってる人に
この本をポンと渡せば「なるほど」となるかも(笑)。
でもきっとその時代にもいたんでしょうけどね、
岩田さんみたいにちゃんと言ってくれる人が。
さらに時代はさかのぼりますが、
吉田兼好とか言ってそうじゃないですか?
「徒然なるままに、幸せについて考えてみた…」とか。
──そうかもしれません(笑)。
秀島あとは、なにか言い残したこと、ないかな?
本当に、すごくいい話ばかりだから。
糸井さんと岩田さんがいつも話しまくっていた
っていうのもいいですよね。
うちの近所に中学校があるんですけど、
放課後、生徒たちがいつも
校門の前でひたすら話してるんです。
スーパーに行く途中に見かけて、
買い物して戻って来ても
まだいる! みたいな(笑)。
あの少年たちの姿と重なります。
──友だちなんですよね、お二人の関係が。
秀島それとやっぱり私は
「バカもん!」と言える人の話が本当に好きです。
現場のADさんにも、
ものを言いやすい人、言いにくい人がやっぱりいて。
何が違うんだろうなと思うのですが、
本にも書かれていた通り、
自分を開示している人は言いやすいんですよね。
開いているぶん、その子の大事なものがわかるから、
こちらもそこを傷つけるんじゃないかという不安なく
「バカもん!」みたいなことが言える。
でも何も出さない人のことはわからないから、
言えないんです。
──失敗が怖い、怒られるのが嫌、
というのもあるのかなと思います。
秀島でも、失敗はどんどんしたほうがいいと
私は思うんですよ。
「こうしたら怒られるんだ」というデータを
自分の中に蓄積しておくことができるから。
逆に、それがないと、突然とんでもないことを
やっちゃったりしますからね。
それと同じで、
「こうすると人って笑ってくれるんだ」
というデータなんかも蓄積できると思います。
あと、大切なことは、どちらも、
生身でのやり取りでフィードバックをもらわないと
自分の中に貯まっていかないんですよ。
──ああ、そうですね。
秀島そういう意味では、
どんどん言葉でやり取りしたほうがいいと思うんです。
あの、今日、ここに来る途中にコンビニで
小っちゃなマニキュアを買ったんです。
おばあちゃんの店員さんがレジをしてくれたのですが、
350円って出たら「高いわね」って言うんです(笑)。
だから私も、「でもこれが助かるんですよ」とか言って。
自分の傷んだ爪をおばあちゃんに見せて、
「これを塗ると綺麗になるんです」って言うと、
「そういうもんかね」って。
で、「とりあえずちょっとお手洗い借ります」
ってお手洗いでサッと塗って、
出たらそのおばあちゃんがニコニコ見ているから、
「こんな風になりました〜」って見せたら
「あら!たしかにいいわね!」って。
──いいやり取り(笑)。
秀島おかしいですよね。
でもこういうやり取りって
たぶんもう筋肉と同じで、
日々のやり取りの慣れで
成長していくものだと思うんですよ。
──ああ、筋肉。
秀島無言でカードをピッとかざすだけじゃ、
なにも変わらないけど、言葉をやり取りして、
受け止めたり、打ち返したりしていると、
お互いが笑えるような
経験やデータが蓄積できて、
毎日がハッピーになりますよね。
──そこにハッピーしかないですね。
秀島さんの本にも、どう考えたら幸せか、
毎日が機嫌よく生きられるか、
ということが書かれていましたよね。
秀島ハッピーって難しいことじゃない。
日常的に意識していけば、
たのしいことや笑えることって
いっぱいあるんじゃないかなと思います。
やっぱり、それを見つけることを
サボっちゃいけないなと思うんですよ。
自分を幸せにすることは、
自分で見つけに行ったほうがいい。
『岩田さん』はそういうときの
ちょっとした見つけ方のコツを
教えてくれるなと思いました。