桜井政博さん(ゲームクリエイター)『スマブラ』とスポーツカーと
誠実の怪人。桜井政博さんに聞く岩田さんの思い出。
任天堂の元社長、岩田聡さんのことばをまとめた
『岩田さん』という本を出しました。
それをきっかけに、いろんな方に
岩田さんのお話をうかがっているのですが、
この人にお会いしないわけにはいきません。
HAL研究所に在籍中、岩田さんとともに
『大乱闘スマッシュブラザーズ』を開発した
ゲームクリエイター、桜井政博さんです。
はじめて出会ったころの話、
岩田さんが任天堂に入る前の話、
プライベートの一面‥‥たっぷりうかがいました。
桜井さんと、もう何年も前から親交のある、
ほぼ日の永田が担当します。
聞き手:永田泰大(ほぼ日)
第2回ふたつのプロトタイプ
──HAL研時代の岩田さんが
通常のプロジェクトに携わることは
ほとんどなかったとすると、
初代の『スマブラ』のプロトタイプを
桜井さんといっしょにつくったというのは
かなりイレギュラーなケースなのでしょうか。
桜井そうですね。
順を追って説明すると、
私が『スマブラ』のまえに手掛けていたのは、
スーパーファミコンの
『星のカービィ スーパーデラックス』でした。
私はディレクターですから、ソフトが出たあとも、
インタビューに応じたり、攻略本をチェックしたり、
海外版の監修をしたりと、いろんな仕事があるんです。
でも、ディレクター以外のスタッフというのは、
もっと早く仕事が終わるんですね。
サウンドエンジニア、グラフィッカー、
プログラマーといった人たちは、
自分がまだ仕事を終わってない段階で、
プロジェクトから抜けてつぎの企画に入っていく。
当時はスーパーファミコンから
NINTENDO64への移行期でしたから、
新しい企画がどんどん動いてました。
だから、自分がつぎの企画を考えはじめたとき、
スタッフがまったくいない状態だったんです。
──ああ、なるほど。
桜井そこで自分はまず3Dツールの勉強をしました。
3Dのモデルとモーションは
こうやってつくるんだなという特性を
だいたい理解したところで、
つぎに手掛ける企画を考えはじめました。
それがいつ着手できるように
なるのかはわからないけど、
とにかく自分はディレクターだから、
ゲームを企画しないといけない。
なので、書きはじめるんですね。
そのときに、3Dのグラフィックを使った、
NINTENDO64用のタイトルとしてできたものが、
じつは2本あったんです。
ひとつが、『格闘ゲーム竜王』と名づけた、
4人対戦バトルロイヤル型アクションゲーム。
──『大乱闘スマッシュブラザーズ』の原型ですね。
桜井はい。
NINTENDO64の本体には4つのポートがあって、
コントローラーにはアナログスティックが
ついているという情報はありましたから、
4人でわいわい遊ぶものが出るのは必然かなと。
で、もうひとつは、ロボットを
メインキャラクターにしたアドベンチャーゲーム。
じつは、これも岩田さんが
プログラムすることになるんですが。
──えっ、そっちもプロトタイプがあったんですか?
桜井じつはありました。
──へーーー。
以前、すこしうかがったとき、
構想だけだったのかと思っていました。
桜井試作していたんです(笑)。
ラジコンロボットを操作する感覚のゲームで、
設定としては、自分たちが
住んでいるところの地下、ものすごく深い、
誰も手が届かないようなところに、
なんか都市があるらしい、と。
そういう謎の都市を発見したけれども、
誰も立ち入ることができない。
そこで、ドリルで穴を開けて、
ロボットを1体だけ投入して、
そのロボットをラジコンで操作して、
まわりの監視カメラみたいなものを
ハッキングしながら進む、というものでした。
監視カメラに、ある一定の視野を設定して、
そこの画面外にロボットが行こうとすると、
つぎのカメラが、こう、追いかける。
ラジコン操作で、切り替わるカメラの
映像を見ながら移動する‥‥というゲームは、
その後、とても有名な
タイトルが出ることになります。
『バイオハザード』っていうんですけど。
──ああー、そうか、なるほど(笑)
桜井というか、じつは、両方とも着想元が、
同じゲームだったということかなと。
それがなにかというと‥‥。
ふたり『アローン・イン・ザ・ダーク』。
桜井(笑)
──そういう時代でした(笑)。
桜井つまり、そのとき、
『格闘ゲーム竜王』と、
ロボットアドベンチャーゲーム、
両方のプロトタイプができてるんですね。
──どっちも岩田さんが
プロトタイプを組んだんですか?
桜井はい。
『岩田さん』の本の中で語られているとおり、
そのとき岩田さんは、
土日を利用してつくっていたそうです。
──その話を岩田さんからうかがっていたので、
なにかの試作を週末にプログラムする
というようなことをときどき
やられていたのかなと思っていたのですが‥‥。
桜井いえいえ、岩田さんがプロトタイプをつくるなんて、
とんでもない話です(笑)。
──つまり、桜井さんがふだん頼めるスタッフが
ほかのソフトの開発をやっていて
誰もいなかったから、
岩田さんが土日を利用して組んだわけですね。
桜井そういうことです。
で、その2本のうち、
どっちを本開発に乗せるかという話になりました。
どちらにも可能性はあったんですけど、
新しい開発環境でいろんな企画を試すなかで、
ほかのいろんな企画がどんどん
潰れていた状態だったんですね。
だから、すぐにつくれるものじゃないと困る。
となると、格闘ゲームのほうが
圧倒的に速いと自分は判断しました。
ロボットのほうは、
まともにアドベンチャーゲームだったので
完成まで2年以上はかかるなと。
──『格闘ゲーム竜王』は、
ぼくも触らせてもらったことがあるんですけど、
『スマブラ』の基本的な動きが
すでに入っていましたものね。
桜井そうですね。
スマッシュ攻撃とか、蓄積ダメージとか、
だいたい入ってました。
──挙動がすでにあの感じでしたよね。
床もすり抜けてましたし(笑)。
桜井必殺ワザだけがなかったんですが、
あとはもうだいたい『スマブラ』です。
それをプログラミングしてくれたのは
岩田さんだったわけですけど、
ほかの開発者が言うには、
あの仕事をしていたとき、
岩田さんはとてもたのしそうだったそうです。
ほかの仕事をしているときとは、
かなり雰囲気が違ってたらしい(笑)。
──ほかの仕事というのは、つまり、
トラブルを直していたときということですね。
つまり、不具合を直すためじゃなく、
のびのびとゲームをつくるというのは、
岩田さんにとってかなり久しぶりの
たのしいことだったんでしょうか。
桜井その可能性はありますね。
いってみれば、趣味に近いというか。
プログラムというのは、
本来、おもしろいものだと私は思うんです。
自分で組んで、できあがったものが、
ちゃんと動いてくれるとか、
それに対する人の反応が見られるというのは、
とてもたのしいことなんですね。
だけど、トラブルがあったり、
会社の制約のもとでやるから、
いろいろ摩擦も生じるし、
しんどい作業になっていく。
──土日をつかって、
まさにいい意味で趣味のような、
たのしい作業だったのかもしれないですね。
そのときのやり取りで
なにか憶えてることってありますか。
桜井なんか気の利いたことを言えればいいんですけど、
いつもの開発と変わらなかったからなぁ。
──いつもの開発、というのはどういう?
桜井いや、自分が仕様書を書いて、
これお願いします、という(笑)。
もちろんメールで。
ログとして残らないといけないですからね。
仕様も含めて。
──じゃあ、まぁ、実際には会わないやり取り。
桜井それに近いです。
少なくとも同じブースにふたり入って、
ということはないです。
──これは、のちに「社長が訊く」で
岩田さんが言っていたことですけど、
桜井さんは「完成形が見通せる人」だから、
岩田さんも桜井さんの書く仕様を
信頼していたのかもしれないんですね。
桜井だとすればありがたいことですが。
──お互い、わかり合ってたんだろうな、
という気がします。
桜井まあ、わかりあっていたんでしょうね。
だから、放任されても大丈夫だったという。