〈ほぼ日関西版〉 明るい家族相談室 たのしきかな、家族。続編

私の父は、毎日誰よりも早く起きて犬の散歩をし、
朝6時に家を出て夜の10時に帰宅し、
土日は家事、または気分屋の母のわがままに
つきあってあげています。
やさしくてまじめでいいお父さんだと思います。

こんな申し分のない父なのに、
嫌悪感を抱くことがあります。

姉が荒れたとき、母と弟がケンカしたとき、
妹が父と口をきかなくなったとき、
いつも頃合いを見はからって、
父から家族宛にメールが届きます。
そのメールは、重松清さんなどの小説に
出てきそうな感じです。
いいドラマにしたてあげようとしてるんじゃないか、
そして自分の送ったメールの文面に
酔っているんじゃないか、と思うのです。

たしかにありがたいメールなのですが、
家族は心温まるどころか「サムい」と
白々しい雰囲気になります。
私は冷たい娘でしょうか。

(23歳・女・あさこ)

答え
まき
いいお父さんやん。
重松清さんの小説に出てきそうな、って、ええな。
かおり
そう? 私もいややわ。
きっと若い方なんじゃないですか。
ほぼ日
メールには23歳とありますね。
かおり
それぐらいの頃は、
いろんなことがサムいんですよ。
いや、年頃というより性格ですね。
そもそも健全なお父さんたちって、
金八先生みたいなドラマが好きでしょ? 
あと、NHKの‥‥
まき
『中学生日記』ね。
かおり
そうそう。
うちの父は、
「『中学生日記』見ろ」
「おい、お前とおんなじぐらいの年の子が
『のど自慢』に出てるけど、
お前と違ってすごくいい子やぞ」
などといちいち言ってきます。
私も23歳の頃は、
父さんとああいう熱血系番組を見るのはいやでした。
「入院しているおじいちゃんに元気を贈ります!」と
声を張り上げて歌い踊る若者を賞賛しない自分が
不健全で後ろめたい気持ちになるから。
でもね、その後大人になったら、
「あんとき適当に合わしたってもよかったな」
「たいして面倒なことじゃなかったわ」
と思います。
そして、自分の信念はこっそり持っとけばいい。
ほぼ日
若いときはいやでもそのうち許せる、と。
かおり
美談にして感動を強要する。
やり方はおだやかでも、そういうの、
嫌いな人たちからしたら居心地悪いんですよ。
この相談者にとっては
永遠に腹立つポイントかもしれません。
まき
このお父さん、どうみてもやさしいですよ。
散歩行って、働いてな、
土日は家事やってくれて、
お母さんのわがままにつきあってる。
キレるよりいいやんな。
キレたり、「お主」って言い出すよりはいい。
かおり
ほんまや。
「お主」よりいいわ。
完璧やんな、メールの前半5行。
まき
完璧やん。
かおり
この5行でサムさはゆるしたって。
ほぼ日
しかし、「姉が荒れる」というのは
いったいどういう状況なんでしょうね。
かおり
包丁振りまわしてそうなイメージですね。
ほぼ日
荒れる、というのがね。思春期かな。
かおり
やっぱりあれか。
リーダーが完璧‥‥つまり、
お父さんが完璧やから、子分たちが
こんなことになってんねやと思うけど。
ほぼ日
ほう。
かおり
もしもお父さんがちゃらんぽらんやったら、
みんなしっかりするんじゃないでしょうか。
まき
うん。
それはあるな。
お父さんが暴れまくってたら。
かおり
お父さんがいつもお酒飲んで
パンツのゴムに手を挟んで転がってたり、
「犬の散歩はいやや」とか
言ってる方だったら。
まき
どっちがマシかという話やな。
かおり
そう、どっちか。
ほぼ日
どっちかなんですか。
どっちかしかないんや。
どっちかしかないの? 
まき
ええ、どっちかになります。
かおり
自分が望む完璧な家庭は稀ですから。
まき
ほんまやわ。よくできたお父さんやん。
かおり
なぁ。
まき
重松清さんやで。
お父さんから重松さんみたいなメール来たら、
いいやん。
変なポエムとかじゃないもん。
かおり
私はいややけどな。
ほぼ日
でもまだこの方は23歳だし、
「そういうもんや」と思いづらいでしょうね。
ほぼ日
笑い話にするのはどうでしょうか。
「お父さん、またこんなメール送ってきた」
というSNSネタに。
まき
いいですね。
こういうの、うちらにも、
ひーちゃん(父さん)がどんどん
送ってきてほしい。
父さん、いい文章書きそうや。
かおり
うん、父さんいい文章書くから。
私、何回か手紙もらったことあるもん。
「最近あった事件を報告します」とか、
事件といっても鍋の取っ手が取れたとか、
往々にしてしょうもないのですが。
まき
暇なんやな。
ほぼ日
このメールのお父さんもおもしろいはずだから、
そうやって娘さんが、
おもしろがれればいいですね。
たいがい、親がやってくることは、
なんでもいやなもんですよ。
だから、笑い飛ばしてしまうのがいいと思います。
かおり
そう。親がやってくることはなんでもいや。
ほぼ日
「重松さん化してるで、お父さん」
ということを、突きつけていかなあきませんね。
まき
ほんまもんの重松さんならうれしいけど、
酔ってるだけなのはあかん。
かおり
この方だけじゃなく、
家族全員がお父さんをサムいと思ってるんでしょう? 
きっとタイプが違うんでしょう。
前回話したように、
家族はやっぱり最も遠いところから
選ばれた人たちなのかもね。
ほぼ日
ということは、この家族も修行中なんですね。
かおり
そうかもしれません。
これは感性の問題なので、
サムい理由をどんなにていねいに
お父さんに説明しても
一生わかってもらえないと思います。
でも‥‥よく考えたらひーちゃんも、
うちらになんかあったら
「なかよくせえよ」という
的外れなメールを送ってくるなぁ。
ほぼ日
このメールのお父さんと似てるじゃないですか。
まき
そうそう。
父さんはいつも、
なかよくしてほしくてしょうがない。
いまいっしょに姉妹で写真撮って
父さんに送ろっか? 
かおり
送ろっか。ひーちゃん、喜ぶな。
それを送った1秒後に、
絶対電話がかかってくるから困るよなぁ。
それじゃメールの意味がないねんけど。
まき
そうそう、恐い恐い(笑)。
かおり
「なんでいっしょにおるねん!
 かおり大阪ちゃうんか!」
「東京、危ない町ちゃうんか!」
とか、またはじまるな。送るのは明日でいいか。
まき
明日でいいか。
このお父さん、文面は自分で考えてるのかな? 
重松清さん的なことを、自分で考えてるの、
すごい才能じゃない?
かおり
けど、娘さんはそんなん嫌いやねん。
不遇やなぁ。
まき
みんな気づいてないんや。
かおり
もらわれていく家を間違った
動物みたいやん?
一同
(笑)
まき
ほんまやな。
かおり
もっとかわいがられる家があったのに。
ほぼ日
でも、最後に問題として残るのは、
家族のもめごとを解決するよりも、
お父さんの目的が
「自分がいいことを言う」に移ってる、
ということなんじゃないでしょうか。
かおり
そっか。
そうだとすると、
自分のブログを開設して自分で書け、
ということになりますね。
そこで好きなだけいいことを書け、と。
まき
そうやな。
かおり
そんなに自分の信念があるんやったら、書けばいい。
で、そのブログは
見たい家族だけが見ればいいねん。
肝心の家族だけが見いひんかったりして(笑)。
まき
こういう相談室やって、
受け答えしたらええんちゃいますか。
私は読みたいです、その重松清さんのような文章。
ほぼ日
むしろ読みたいですね。
かおり
私は怖いもの見たさですが。
ほぼ日
ほんとうにそうですね。
いいことを、枯れることのない泉のように
どんどん言ってほしい。
それでは、今日のまとめをお願いします。
今日のまとめ

お父さん、
明るい家族相談室を
しはったらいいと思います。