降りる人と降りられない人。 降りる人と降りられない人。
秋元康さんと糸井重里は、
どのくらいやり取りがあるのでしょうか?

糸井本人のことばを借りると、
「なにかの収録のときとかに挨拶したくらい」。
しかし、作詞やテレビなど、時代は微妙に違えど、
活動には重なっている部分も多く、
もちろんお互いにお互いのことを知っている。

「ほぼ日の學校」の企画として、
ぜひ会って話しませんかとお誘いしたところ、
よろこんでとご快諾いただけました。
クリエイティブの話、社長業の話、人間関係の話、
たっぷりいろいろ話して盛り上がったのですが、
おもしろかったのは、秋元康さんが糸井に、
つぎつぎに質問するかたちになったことでした。
第1回 社長業、やってるんですか
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糸井
ここは秋元さんの事務所?
秋元
事務所です、はい。
糸井
じゃあ、基本的にはここでお仕事を。
ほかのスタッフの人たちもここで。
秋元
そうですね。
最近、ようやくリモートじゃなくなって、
来るようになりはじめた感じですね。
糸井
ああ、そうか、そうか。
秋元
糸井さんは、社長業、やってるんですか。
糸井
やってますよ(笑)。
秋元
決算書とか、読めるんですか。
糸井
‥‥詳しいことは言いたくないが、読めます(笑)。
秋元
(笑)
糸井
秋元さんは?
秋元
ぜんぜん読まないです。
一回も読んだことないし、読めないし。
糸井
決算書を読むっていっても、
そんなにたいしたことじゃなくて、
「このことは知ってたほうがいいな」ってことは
わりと如実に表れるんですよ。
だから、そういうのを見つけたら、
「これは、なーに?」って言うくらい。
秋元
ああ、そういう感じで。
でも、ぼくのイメージの中では、
経営と縁がない感じの糸井さんが
そういうことをやってるのがすごいなと思って。
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糸井
それはあれですよ、たとえば、
野球の選手が監督になるじゃないですか。
そのときまったく仕事は変わるような気がするけど、
選手のときにやってたことのなかに
監督の要素がないわけじゃないから。
秋元
たしかに。でもほら、
「名選手、名監督にあらず」
っていうじゃないですか。
糸井
ああ、そうですね。
でも、監督をやってる人って、
そもそもほとんどが名選手なんですよ。
秋元
なるほど。
糸井
その意味では、選手時代に
監督的なことを考えていても
プレイには表れてないというだけで、
けっこうなことを実はやってるんじゃないかな。
写真
秋元
それはそうですね、たしかに。
ということは、ほぼ日のまえの、
「東京糸井重里事務所」のときも
ちゃんと経営をしていたんですか。
糸井
それはしてないです。
秋元
してないでしょう(笑)?
糸井
まったくしてないです。
1年に1回だけ、税務上の処理とかをするときに、
会計士の人と15分だけ話をして。
すごく簡単に説明してくれるのを聞いて、
「要するに、来年もがんばれってことですね!」
みたいなことでまとめて、過ごしてました。
それはだから、会社というより、
ひとりでやっていた時代ですね。
ほぼ日がはじまってチームになってからは、
まったく動きが変わりました。
秋元
ぼくは糸井さんがそうなっていくのを見て、
「あたらしいたのしみを見つけたんだろうなぁ」
というふうに思ってました。
糸井さんって、おもしろいものを見つけては、
わーーっとそれにのめり込んでいく。
そこにビジネスの可能性を見るとかじゃなくて、
「おもしろい!」というのがテーマになってて。
それがたとえばブラックバスだったり、
ゲームだったり、埋蔵金だったり。
糸井
そうですね、まず「おもしろい」ですね。
秋元
ね? だから、それが今度は、
会社だ、経営だってなると、
おもしろいだけではすまなくなるじゃないですか。
ほぼ日だって、はじめはおもしろいからやって、
手帳が売れて、カレンダーとか、いろいろ売れて、
それはおもしろいんだろうけど、
その会社を経営するとなると、
ましてや上場したりすると、
それを維持しなくちゃいけないでしょう?
糸井
うん、そうですね。
ただ、「おもしろい」がなくなるほうが、
会社を維持できなくなるんですよ。
だから、そこは案外矛盾しないんです。
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秋元
ああ、そうなんですね。
でも、たとえば『MOTHER』をつくったときは、
やっぱり糸井さんのなかにある
ゲームへの愛が動機になっていましたよね?
だけど、糸井さんが会社であれをつくろうとしたら、
やっぱりある種の予算を考えるというか、
どれぐらい制作費をかけて、どれぐらい回収を、
とか考えるんじゃないですか?
糸井
もし、いま『MOTHER』をつくるとしたら、
そうなると思うし、だからこそ、
つくらない選択をすると思うね。
秋元
ああ、そうか、そうか。
糸井
あんなことはもうできない(笑)。
つまり、あれにぜんぶをかける
ぐらいのことをしないとできないんで。
秋元
うん、そうですね。
糸井
だから、会社をやろうとするとき、
ほぼ日をやろうとするときに、
なにをやめるかっていう決断が要るんですよ。
それはいろいろな規模であるんですけど、
たとえばゲームをつくることですよ。
秋元
でも、それは悲しくないですか。
糸井
いや、悲しくないです。
ぼくはいつも、終わると終わるんで。
その意味では、あたらしいことをやりたいな、
っていう気持ちのほうが強い。
その気持ちは前の仕事やってるときに
だいたい生まれてるんで。
だから、ゲームに限らずですけど、
なにかが終わって悲しいというよりは、
つぎのパートナーが待ってる、
みたいなところがある。そういう意味では、
人が思っているよりつらくない。
秋元
あ、そうなんですね。
糸井
うん。その一方で、
人が思ってるよりずっとつらい(笑)。
秋元
(笑)
写真
糸井
それはさ、たとえば、犬を飼うときに、
「散歩、面倒くさくないですか?」って言われて、
面倒がないわけじゃないけど、
毎日散歩するに決まってるわけで。
だから、まあ、生きていくっていうことの、
おもしろさであり、つらさであり。
秋元
そういう感じなんですね。
でも、ぼくのイメージだと、さっきも言いましたが、
糸井さんはつねに「おもしろがる」人で、
おもしろがりながらもビジネスにはしないことが、
よりいっそうおもしろがっているように思えた。
そういう流れの中で、ぼくには、
「あ、今度は、糸井さん、
ほぼ日っていうのをおもしろがってんだ」
というふうに見えて、
そのうち違うことをやるのかなと思ってたら、
ずっとほぼ日を続けて、上場までしちゃった。
ということは、
「上場、IPOっていうのをおもしろがってんだ」
って思ったんですよ。だから、上場したあとは、
誰かに渡しちゃうのかなとも思ったんです。
糸井
ああー、なんていうんだろう、
すごく秋元さんらしいとらえかたで、
状況の似顔絵としては、すごく合ってると思う。
だけど、いまのがデッサンだとすると、
実際はもうちょっと絵の具がこってり塗ってある。
それはなかなか見えづらいかもしれない。
秋元
そうなんですね、うん。
まあ、でも、上場してからも
糸井さんがずっとやり続けてるってことは、
そういうデッサンの部分だけじゃなく。
絵の具まで塗ってんだなとは思いましたけどね。
(つづきます)
2023-01-01-SUN