- 糸井
- いやぁ、今日はずいぶんたくさん話して、
とってもおもしろかったんですけど、
もともと、最初にもうけたテーマは、
「どうしてこんなに長くやってこれたのか」
っていうことだったんですよ。
- 秋元
- ああ、そうでしたね(笑)。
- 糸井
- それは自分についても考えることなんだけど、
秋元さんは、ぼくが思うに
「じつは仕事の種類を変えたからじゃないか」
って仮説をたてたんだけど、それはどうですか?
- 秋元
- ああ、たしかにそうだと思います。
ぼくの場合は、いろんな仕事に対して、
たとえ似たようなジャンルのものであっても、
自分の側の接触面を変えることによって
あたらしい刺激にしていたような気がします。
- 糸井
- ああ、なるほど。
- 秋元
- ほんとうは、糸井さんみたいに、
終わりを感じたら降りちゃえばよかったんだけど、
そうやっていろいろあたらしさを見出しながら、
降りないまま、回すお皿を増やしていく。
その状態が64歳まで続いてるんですよね。
だからもう、両手はとっくにふさがってて、
足までつかって回すみたいな曲芸になっていて。
- 糸井
- (笑)
- 秋元
- でも、糸井さんがおっしゃったように、
つぎつぎに違うお皿を回し続けているから、
たぶんいままで続けて来られたんじゃないかな。
- 糸井
- しかも、秋元さんは、おもにひとりで、
その古いお皿とあたらしいお皿を
両方回しているわけですよね。
そうすると、秋元康の仕事が増えるだけで、
なんというか、秋元康を代弁する人
というのがいないままになりますよね。
- 秋元
- ああ、そうですね。
- 糸井
- たぶん、ぼくはもっと会社に寄せているので、
主語が「ぼくは」の仕事ももちろんあるけど、
かなりの仕事の主語は
「ほぼ日は」だったりするんですよ。
で、秋元さんの場合、おそらく、
「秋元事務所は」って主語はないわけで、
秋元さん自身を説明するだとか、
自分の物語を語るっていうことは
誰もしてないわけですね。
- 秋元
- そうですね。だから、
「こういう仕事したほうがいいんじゃない?」とか
「こういう能力をのばしたほうがいいよ」とか
言ってくれるひともいないままで、
けっきょくぜんぶ、じぶんでやってる。
- 糸井
- ほんとに大事なことは、しっかり自問自答して、
ひとりで決めていいと思うんですけど、
つぎのヒントになるようなものとか、
あれはどうなってるんだろう? みたいなことは、
誰かと話せたほうがらくですよね。
- 秋元
- それは、そう思います。
いまぼくは自分で把握して自分でわかって
自分で決めてるような状態ですから。
- 糸井
- それは、つらくないですか。正直にいうと、
ぼくは土日にちょっと気持ちが落ちるんですよ。
誰かがいまもいっしょに働いてるっていう
感じが途絶えるから、自分の考えだけが、
こう、頭の中でこだまになっちゃうんですよね。
そうすると、思いつめたり逃げたりが
ぜんぶ自分ひとりになっちゃう。
だから、ぼくは会社に誰かがいるとか、
会社の人たちと話してるときのほうが
ずっとらくなんです。
秋元さんはたぶん、ぼくよりももっと、
土日みたいな状態なんじゃないかな。
- 秋元
- そうですね、ひとりでいることが多いですね。
だから、休みそのものが下手です。
お正月とか夏休みとか、
世間が止まってるときが耐えられないんです。
- 糸井
- それはいまも。
- 秋元
- いまも。
だから、もう正月、仮にハワイに行ったとしても、
ハワイの部屋で仕事してるか、
プールサイドで仕事してますね。
締切がなんにもなかったとしても、
なにかの企画書つくったり、
つぎになにをしようかって考えてますね。
- 糸井
- そこまでひとりの仕事を
ひとりのまま続けてる人って
そんなにいないんじゃない?
- 秋元
- そうなんですかね。
- 糸井
- たとえば会社員だったとしたら、
管理系に行くじゃないですか。
「あいつとあいつにあれをやらせてみよう」
みたいになるけど、秋元さんは
ずっと自分がプレーヤーのままなんですね。
- 秋元
- だって、たとえば
「こういうもので、こうでこうで」っていうのを
スタッフなり誰か外部にでも
頼むとするじゃないですか。
でも、やっぱり、同じ赤でも、
ぼくのイメージする赤と
人が選ぶ赤は違うじゃないですか。
そういうのはストレスにならないですか。
- 糸井
- ‥‥なんない。
- 秋元
- なんない?
- 糸井
- なんない、は嘘だ。なんない、とは言わない。
でも、どうしたら
「それもいいね」と思えるか、
というほうを先に考える。
- 秋元
- ああ、そうかそうか。
- 糸井
- で、やっぱり、ちょっと連絡入れて、
「あれ、どうしてなの?」とか、
「時間がないんで、あれこうしてくれる?」
とか言って、手直しをして、
その問題からまた降りる。
- 秋元
- うーん、そうか。
なんかそういうふうに、
人とうまくできないんですよね。
- 糸井
- ひとりが好きなんでしょう(笑)。
- 秋元
- ほんとうは、自分の力が100だとすると、
がんばってもだいたいその
6掛けとか7掛けで戦うわけだけど、
そこに、ぼくがぜんぜんわからないもの、
たとえば仮にラップみたいなものを、
「これをやったほうがいいですよ」って
誰かが言ってきたとしても、たぶんぼくは
まったく取り合わないと思うんですよね。
そこを「わかった、お前に乗った」って言って
もしもそのラップで大ヒットが出たら、
ぼくの100が、150や200になるわけじゃないですか。
そういうことが頭ではわかってるのに、
できないんですよね。
- 糸井
- それはやっぱり、自分の名前が大き過ぎるから。
- 秋元
- うーん、というより、やっぱり、
自分で失敗したら、その責任取れるけど、
みたいなとこがありますからね。
やっぱりなんかクリエイティブって、
共同作業ができない気がしちゃうんですよ。
- 糸井
- だから、今日の話を総合すると、
1人でいるのが好きですっていう自分も
確保しておきながら、
若い人に遊んでもらう時間というのを
どうつくっていくか。
- 秋元
- ああ、そうですね。
- 糸井
- そういうことなんでしょうね。
- 秋元
- いろいろ、相談みたいになって(笑)。
- 糸井
- いえいえ(笑)。
今日は、いろいろ訊くつもりだったのに、
逆にすごく質問される日だった(笑)。
- 秋元
- いや、もうすごくたのしかったですし、
ずっと訊きたかったことを訊けたんでよかった。
- 糸井
- でも、なんていうか、訊かれることで、
秋元さんのことがよくわかった気がします。
つまり、秋元さんが
なにを訊きたいかわかるってことが、
秋元さんを知ることの一番近道だったんだなと。
- 秋元
- ぼくにとっては、糸井重里さんという人が
どういうふうに歩いてるんだろう、
っていうのが一番気になるところで。
老いについてとか、人との関係についてとか、
すぐに降りて違うことやる気持ちとか、
ほんとうにいろいろわかってよかったです。
そして、ほぼ日が、ほんとうに
糸井さんの最後の仕事なんだなと。
- 糸井
- うん、そうですね。
- 秋元
- たくさん訊けて、よかったです(笑)。
- 糸井
- いや、その人のことを知るにはね、
その人に質問を100ぶつけることなのかなと
みんな思ってると思うんだけど、
今日、はじめて思ったのは、
その人のことを一番よく表すのは、
その人に質問を100つくらせることだね。
- 秋元
- ああ、なるほど。そうか、それはそうですね。
それはすごく、いい。
- 糸井
- またあいましょう。
- 秋元
- たのしかったです。ありがとうございます。
- 糸井
- ありがとうございました。
いやぁ、はじめて、長くしゃべったね。
- 秋元
- そうですね、はじめて、こんなに。
- 糸井
- (笑)
(最後までお読みいただき、ありがとうございました)
2023-01-07-SAT