降りる人と降りられない人。 降りる人と降りられない人。
秋元康さんと糸井重里は、
どのくらいやり取りがあるのでしょうか?

糸井本人のことばを借りると、
「なにかの収録のときとかに挨拶したくらい」。
しかし、作詞やテレビなど、時代は微妙に違えど、
活動には重なっている部分も多く、
もちろんお互いにお互いのことを知っている。

「ほぼ日の學校」の企画として、
ぜひ会って話しませんかとお誘いしたところ、
よろこんでとご快諾いただけました。
クリエイティブの話、社長業の話、人間関係の話、
たっぷりいろいろ話して盛り上がったのですが、
おもしろかったのは、秋元康さんが糸井に、
つぎつぎに質問するかたちになったことでした。
第6回 マイナス20歳
秋元
で、いま、ほぼ日は、
なにを一番やろうとしてるんですか、これから。
写真
糸井
やっぱりコンテンツなんですよ。
ものが売れるにしても、企画がヒットするにしても、
イベントが賑わうにしても、
ぜんぶけっきょく誰かが考えた
「こういうのがいいよね」が決め手になるわけで。
秋元
はい。
糸井
その「こういうの」をつくる人が、
いつも一番足りないわけですね。
それをつくってるのは、会社の開発部だったり、
社長だったり、テレビとかのメディアだったり、
代理店の誰かだったりした時代もあるし、
いろいろなんだけど、いろんなジャンルぜんぶに
橋を架けながらコンテンツを考える会社があったら、
最高におもしろいなと思っていて。
ほぼ日は、そういう場所に向かいたいんです。
だから、自分たちの資本でできる範囲のことは
自分たちでやって見せるから、
いいなと思った人は、個人でも企業でも、
もうちょっとほぼ日のことを見ててくださいと。
そしたら、この会社と何ができるかとか、
この会社と一緒に新しい会社をつくるとか、
そういう遠景が見えてくるんじゃないかなと。
いまは、すこしずつ、そういう
「なにが乗ってもいいんだ」というお皿を
つくっている感じだと思います。
秋元
ああ、そうですね。
おもしろがれる仕組みをつくってしまえば、
なにが来てもいいわけですね。
糸井
なんでもいいわけです。
だから、いまもこうして「ほぼ日の學校」で
配信するためにカメラを回してますけど、
動画を見せるかたちなんかもどうすれば
一番いいのかといろいろ試行錯誤して。
最初はぼくもやっぱり頭が固いから、
「テレビとなにが違うんだ」とか、
そういうことをずっと考えてたんですけど、
そんなこと説明する必要なんてないんですよね。
「それならやれるよ」とか「それおもしろいな」
っていうことはためらわずどんどんやって、
ダメだったらやめればいいやっていう。
写真
秋元
そういう意味でいうと、
あたらしい場所に向かえば向かうほど、
自分の「老い」との戦いになってきませんか?
糸井
ああ、なるほどね。
秋元さんって、おいくつですか?
秋元
64です。
糸井
ああ、それはたしかに考えたりするかもね。
秋元
考えるでしょう? 
糸井
ぼくはもうすぐ74ですから、
10コ違うんだね。そうか。
秋元
ぜんぜん昔から変わらないですけど、糸井さん。
糸井
変わってますよ。
秋元
そう? 何が変わりますか。
糸井
体力(笑)。
秋元
ああ、体力(笑)。それはまあ、
昔みたいに徹夜がきついとかはあるでしょう。
でも、なんかまわりを見ててもね、
すごく元気な84歳、90歳とかいて、
いまって、「マイナス20歳」
じゃないかなと思うんですよね。
写真
糸井
むかしの年齢より?
秋元
うん。だって、ぼくが小学生ぐらいのときに、
祖父が還暦のお祝いをやるとかっていうんで、
そこに行った記憶があるんですけど、
やっぱり「おじいちゃん」だったし、
言い方はよくないですけど、子どもごころに、
「死んじゃうんだな」って思いましたよ。
糸井
わかる、わかる。
秋元
でしょう? でも、それって60歳なんですよ。
で、じぶんのまわりの先輩たちを見ると、
84歳とかでもぜんぜんもうバリバリ元気だし、
90歳とかでもぼくと同じぐらい食べるし。
だから、「マイナス20」くらいじゃないかなと。
糸井
なるほど(笑)。
秋元
だから、自分も44歳だと思おうと。
まあ、44歳まで行かなくても、
10歳でもいいからマイナスしないと、ねぇ。
糸井
ぼくもそれはよくわかるんですけど、
個人名の仕事と、会社の仕事で分かれる気もする。
秋元さんの仕事がどういう割合かわからないけど、
ぼくは、たとえば記名の原稿って、
仕事としてはほぼ受けていないんですよ。
でも、ときどき受ける個人の原稿を書くときは、
自分個人の年齢に合わせてる自分がいる気がする。
でも、「ほぼ日です」ってつもりで、
自分が仕事しているときは年齢はよくわからない。
秋元
ああー、なるほど、そうか。
糸井
その意味で自分の年齢を意識するっていうのは、
割合としてはじつは少ないんですよ。
ただ、やっぱり、ここ2、3年かな、
ぼくがどいていたほうが、
この空間をうまくつかえるだろうな、って、
そういう気持ちは自然に出てきましたね。
写真
秋元
ぼくも、最近よくあるのが、スタッフに、
こうじゃないんだっていうことを伝えるのに、
「こういう言い方すると
老害のように思われるかもしれないけど」って、
一生懸命エクスキューズしちゃうんですよ(笑)。
糸井
(笑)
秋元
上からものを言ってるわけでもないんだけど、
でもこうしたほうがよくなるって
わかっている部分もあって、
そういうときに、すごく気をつかってしまう。
なんかこう、裸の王様になりたくないというか、
「また秋元さん、こんなこと言い出してるよ」
と言われるのが嫌、みたいなとこないですか。
糸井
そこはもう、なんというのかな、
一番気をつけているかもしれない。
つまり、インターンで入ってきた子とかだと、
まだ二十歳とかなんですけど、
そういう子たちがたのしくやってるところに、
たとえばぼくが入っていった瞬間にパッと黙る、
みたいなことがあったりしたら危ないですよね。
秋元
そう、そうなんですよ(笑)。
だから、「メシ食いに行こうぜ」って
気安く言えなくなってるんですよ。
糸井
(笑)
秋元
若いころは、「メシ食いに行こうぜ」は
ただの「メシ食いに行こうぜ」じゃないですか。
だけど、いまぼくがそう言ったらね、
言われたほうからすると、
「ああ、言われちゃったよ。
今日は予定あったのに‥‥」とか。
写真
糸井
秋元に言われちゃったよ、と(笑)。
秋元
そうそうそう(笑)。
ということが、実際にあろうがなかろうが、
気をつかうこと自体がもう歳なんだなと思って。
糸井
それは、そんなことを思いながら、
やってればいいだけじゃないですかね。
秋元
ほぼ日のスタッフの皆さん、
糸井さんとみんなでご飯食べたりするんですか。
糸井
する。
秋元
そのときはほんとうによろこんでますか?
糸井
ちょっと聞いてみて(笑)。
秋元
(笑)
糸井
(まわりにいるほぼ日の乗組員に)
「○」か「×」かちょっと表してください。
秋元
まあ、ここで「×」は出せないですから(笑)。
写真
糸井
まあね(笑)。
ただ、たぶん、うち、ほかの会社よりは
忖度しない人たちだから(笑)。
あと、ぼく、実際に何度か
文章で書いたことあるんだけど、
自分より若い年の人たちとなにか
おもしろい仕事をしたあとに、
「遊んでくれてありがとうね」
っていうのは本気で思ってますね。
だから、「嫌がらないでね」っていう以上に、
「ありがとうね」って。
秋元
ああ、なるほど、そうですよね。
糸井
それは、昔の自分だったらどうかな? 
って考えたときに、やっぱり、
嫌だった人と嫌じゃなかった人がいたのは
はっきり覚えてるんです。
で、嫌じゃなかった人については、
ぼくはほんとうにたのしかった。
秋元
うん、そうそう、そうなんです。
おもしろい先輩といっしょにいるのは、
すごくたのしかったですよね。
糸井
うん。
だから、「おいでよ」って言われたときに、
向こうもその「おいでよ」を
すごく気軽に言ってたのがわかるし、
教えたいことがあれば教えてくれたし、
それはなんか、うきうきしたんですよ。
秋元
ほんとうに、おもしろい先輩には
ついて行きたかったし、話を聞きたかった。
糸井
うん。
(つづきます)
2023-01-06-FRI