降りる人と降りられない人。 降りる人と降りられない人。
秋元康さんと糸井重里は、
どのくらいやり取りがあるのでしょうか?

糸井本人のことばを借りると、
「なにかの収録のときとかに挨拶したくらい」。
しかし、作詞やテレビなど、時代は微妙に違えど、
活動には重なっている部分も多く、
もちろんお互いにお互いのことを知っている。

「ほぼ日の學校」の企画として、
ぜひ会って話しませんかとお誘いしたところ、
よろこんでとご快諾いただけました。
クリエイティブの話、社長業の話、人間関係の話、
たっぷりいろいろ話して盛り上がったのですが、
おもしろかったのは、秋元康さんが糸井に、
つぎつぎに質問するかたちになったことでした。
第5回 ファンの総意をどうしてますか?
秋元
ほぼ日を支えているお客さんたちについて
訊きたいんですけど、
たとえば、アイドルにもお客さんがいますよね。
それはAKBでも坂道でもそうなんですけど、
いろいろ曲をつくって場をつくって、
どんどんお客さんが増えていくと、
「ファンの総意」というものが出てくるんですね。
そうすると、わかりやすく言うと、
ぼくがつくった楽曲で、ぼくがやってるけど、
まぁ、「秋元、何やってるんだ?」
「秋元、引っ込め!」みたいになるんです。
写真
糸井
(笑)
秋元
だから、たぶん、プロ野球の監督とかも
たいへんだろうなと思うんですけど、
「おまえがそんなことやってるからだ」っていうのと
「おまえがちゃんとやれ」っていうので、
もう降りるに降りられない状況になるんですよ。
糸井
ああ、また、降りられないんだ。
秋元
そうなんですよ。
しかも、もう、自分の思惑どころか、
やりたいことも関係なくなってしまう。
というときに、ほぼ日にもファンがいて、
糸井さんやほぼ日のやることを
たのしみにしている人たちがいるでしょう?
糸井さんはその「総意」の問題を
どうしているんですか?
糸井
そこは、やっぱり、
熱狂しないような工夫はしてると思いますね。
なにをするにもそうですね。
だから、燃えるような激しい熱情でやる、
っていうのをとにかくしないようにしてるという。
秋元
それは糸井さんが?
糸井
ぼくもしないし、ほぼ日もしないし、
お客さんの側もたぶんそうならないように
してるんじゃないかな。
秋元
あ、加熱し過ぎないように。
糸井
うん、加熱し過ぎる要素があったら、
むしろ水を差しますね。
写真
秋元
そうしてるからこそ長続きするんですね。
糸井
バランスも取れるし、
見える範囲のスケールで収まる。
秋元
それは、どうやって
加熱させないようにするんですか?
糸井
いちばんシンプルなやり方としては、
「ダメだよ」って言いますね。
「こういうのもあるといえばあるけども、
そういうことはしないほうがいいよ」って。
秋元
でも、いいものをつくればつくるほど、
勝手に加熱することもあるでしょう?
たとえば、あれはスウェーデンでしたっけ?
ショッピングバッグを
ほぼ日でつくってたじゃないですか。
ぼく、自分がほしくて買ったんですけど。
糸井
‥‥あ、フィンランドかな。
秋元
フィンランドだ。
糸井
くまのOHTOの永久紙袋ですね。
たしかに、あれはとても人気でした。
秋元
そうでしょう? そこで、たくさんの人が、
「そのバッグ欲しい!」
って加熱するわけじゃないですか。
写真
糸井
あのくまは、最終的に本格的なぬいぐるみを
シュタイフと組んでつくって、
やっぱりそれもすごく人気が出たんですけど、
たくさんはつくれないんですよ。
一個一個しっかりつくるからけっこう高くなるし。
だから、売り切れたら、おしまい。
そうすると、それ以上は、もうない。
秋元
あー(笑)。
糸井
だから、そうやって、思惑じゃなくて、
おしまいにせざるを得ないことを
ぼくらはけっこうやりたがるから、
規模が大きくならないのかなっていう気もする。
ほぼ日手帳というプロダクトだけは別で、
あれは工場とか技術とかスケールの必要な商品で、
やっぱり世界に届けたいと思ってるから
ぼくらの手掛けているなかでは
いちばん量産を意識したものですけど、
そうじゃないもののほうが多いんですよ。
たとえば、おいしい海苔とかさ(笑)、
そもそもたくさん獲れないものだから、
なければ、もう、売れないよね。
秋元
そうですね(笑)。
糸井
そういうことばっかりやってるから、
降りるも、なくなるも、過熱もない。
もうそれしかない、っていう(笑)。
写真
秋元
でも、上場会社だとすると、
それの維持は求められるわけでしょう。
糸井
もちろん、維持どころか成長したいですよ。
でもそれは、上場してようと、
してなかろうと同じ気持ちですよね。
秋元
株価とか気にするんですか。
糸井
しないとは言わない。しないとは言わないけど、
どういう意味があるかっていうのは、
ぼくはほかの会社の株を見るときと
同じように自分の会社の株も見ていて、
そのときどきの株価は指標にはなるけど、
ほんとに知りたいのは、
その会社のほんとうの価値は
どのくらいかっていうことですよね。
そういう意味でいうと、ほぼ日の株価を見ると、
まだまだわかられていないな、
っていうふうに思ってますね。
自分たちのことだからこんなふうに言っても
意味がないことがちょっともどかしいんだけど、
外側から自分たちを見たら、
ほぼ日って、もっとすごいんですよ(笑)。
だけど、株価とか、市場という目でみると、
まだ評価されないんだな、っていう。
そこはシャクだなっていう面と、
ちょっとニヤリとしちゃう面と両方がある。
秋元
ああ、なるほど。
糸井
利益をきちんと出しながら
つぎの年に向かっているという意味では、
よく運転できてるなって気持ちはありますけど、
「ちょっとぼく以外の人たちが
なめられてるんじゃないの?」っていうのは、
正直、悔しいところはありますね。
と同時に、たのしいんですよ(笑)。
やきもきも、イライラも、ジリジリもしますけど、
「お前らすごいな」ってぼくは思ってるから。
秋元
それはほんとうに
経営者としての糸井さんの本心だと思うんですけど、
でも結局、株価とかっていうのは
やっぱり証券会社とかそういうところが見るわけで、
ほんとうの力とか才能とかよりも、
もっとテクニカル的なこと言われるんじゃないですか。
「もっとIRを出してくださいよ」とか。
糸井
うん、でも、それってほんとは浅い話だと思う。
秋元
(笑)
糸井
つまり、また、
「自分の会社のことじゃなければ」っていう
前文がついちゃうんだけど、
世の中にある会社ということでいえば、
「みなさんが言ってることを聞いていくと
ぜんぶ同じような会社になるんじゃない?」
って言えるわけですよ。
ただ、自分の会社のことになると、
「ここが弱いですね」とかっていうのも、
実際、弱いとこもあるわけだから、
そんなこと言っても言い訳みたいに
聞こえちゃうだけだから言わないですけど。
でも、やっぱり、一般的な、
優等生的なことを軽率に言いたがる人については、
深く聞くつもりはないと思っています。
で、お客さんとして、ぼくらの株を
持ってくれている人に対しては、
「もっとがんばりますから」っていうのは、
かなり本気で思っていますね。
写真
秋元
ああ、そうですよね。
それはとてもよくわかります。
糸井
そこは、自分たちのよろこびでもあるから。
秋元
糸井さんたちはあれでしょ、
株主総会とか楽しいでしょう?
糸井
おもしろいですよー。
株主総会自体は1時間かからないくらいですけど、
ほかの5、6時間は、株主ミーティングとして、
いろんな企画をやってるんですよ。
秋元
いま、ほぼ日はなにを
一番やろうとしてるんですか、これから。
糸井
あの、これさ、完全に授業というか、
ぼくの授業を秋元康が聞いてる状態に(笑)。
秋元
だって、おもしろいなって。
(つづきます)
2023-01-05-THU