秋元康さんと糸井重里は、
どのくらいやり取りがあるのでしょうか?
糸井本人のことばを借りると、
「なにかの収録のときとかに挨拶したくらい」。
しかし、作詞やテレビなど、時代は微妙に違えど、
活動には重なっている部分も多く、
もちろんお互いにお互いのことを知っている。
「ほぼ日の學校」の企画として、
ぜひ会って話しませんかとお誘いしたところ、
よろこんでとご快諾いただけました。
クリエイティブの話、社長業の話、人間関係の話、
たっぷりいろいろ話して盛り上がったのですが、
おもしろかったのは、秋元康さんが糸井に、
つぎつぎに質問するかたちになったことでした。
- 秋元
- ほぼ日を支えているお客さんたちについて
訊きたいんですけど、
たとえば、アイドルにもお客さんがいますよね。
それはAKBでも坂道でもそうなんですけど、
いろいろ曲をつくって場をつくって、
どんどんお客さんが増えていくと、
「ファンの総意」というものが出てくるんですね。
そうすると、わかりやすく言うと、
ぼくがつくった楽曲で、ぼくがやってるけど、
まぁ、「秋元、何やってるんだ?」
「秋元、引っ込め!」みたいになるんです。
- 糸井
- (笑)
- 秋元
- だから、たぶん、プロ野球の監督とかも
たいへんだろうなと思うんですけど、
「おまえがそんなことやってるからだ」っていうのと
「おまえがちゃんとやれ」っていうので、
もう降りるに降りられない状況になるんですよ。
- 糸井
- ああ、また、降りられないんだ。
- 秋元
- そうなんですよ。
しかも、もう、自分の思惑どころか、
やりたいことも関係なくなってしまう。
というときに、ほぼ日にもファンがいて、
糸井さんやほぼ日のやることを
たのしみにしている人たちがいるでしょう?
糸井さんはその「総意」の問題を
どうしているんですか?
- 糸井
- そこは、やっぱり、
熱狂しないような工夫はしてると思いますね。
なにをするにもそうですね。
だから、燃えるような激しい熱情でやる、
っていうのをとにかくしないようにしてるという。
- 秋元
- それは糸井さんが?
- 糸井
- ぼくもしないし、ほぼ日もしないし、
お客さんの側もたぶんそうならないように
してるんじゃないかな。
- 秋元
- あ、加熱し過ぎないように。
- 糸井
- うん、加熱し過ぎる要素があったら、
むしろ水を差しますね。
- 秋元
- そうしてるからこそ長続きするんですね。
- 糸井
- バランスも取れるし、
見える範囲のスケールで収まる。
- 秋元
- それは、どうやって
加熱させないようにするんですか?
- 糸井
- いちばんシンプルなやり方としては、
「ダメだよ」って言いますね。
「こういうのもあるといえばあるけども、
そういうことはしないほうがいいよ」って。
- 秋元
- でも、いいものをつくればつくるほど、
勝手に加熱することもあるでしょう?
たとえば、あれはスウェーデンでしたっけ?
ショッピングバッグを
ほぼ日でつくってたじゃないですか。
ぼく、自分がほしくて買ったんですけど。
- 糸井
- ‥‥あ、フィンランドかな。
- 秋元
- フィンランドだ。
- 糸井
- くまのOHTOの永久紙袋ですね。
たしかに、あれはとても人気でした。
- 秋元
- そうでしょう? そこで、たくさんの人が、
「そのバッグ欲しい!」
って加熱するわけじゃないですか。
- 糸井
- あのくまは、最終的に本格的なぬいぐるみを
シュタイフと組んでつくって、
やっぱりそれもすごく人気が出たんですけど、
たくさんはつくれないんですよ。
一個一個しっかりつくるからけっこう高くなるし。
だから、売り切れたら、おしまい。
そうすると、それ以上は、もうない。
- 秋元
- あー(笑)。
- 糸井
- だから、そうやって、思惑じゃなくて、
おしまいにせざるを得ないことを
ぼくらはけっこうやりたがるから、
規模が大きくならないのかなっていう気もする。
ほぼ日手帳というプロダクトだけは別で、
あれは工場とか技術とかスケールの必要な商品で、
やっぱり世界に届けたいと思ってるから
ぼくらの手掛けているなかでは
いちばん量産を意識したものですけど、
そうじゃないもののほうが多いんですよ。
たとえば、おいしい海苔とかさ(笑)、
そもそもたくさん獲れないものだから、
なければ、もう、売れないよね。
- 秋元
- そうですね(笑)。
- 糸井
- そういうことばっかりやってるから、
降りるも、なくなるも、過熱もない。
もうそれしかない、っていう(笑)。
- 秋元
- でも、上場会社だとすると、
それの維持は求められるわけでしょう。
- 糸井
- もちろん、維持どころか成長したいですよ。
でもそれは、上場してようと、
してなかろうと同じ気持ちですよね。
- 秋元
- 株価とか気にするんですか。
- 糸井
- しないとは言わない。しないとは言わないけど、
どういう意味があるかっていうのは、
ぼくはほかの会社の株を見るときと
同じように自分の会社の株も見ていて、
そのときどきの株価は指標にはなるけど、
ほんとに知りたいのは、
その会社のほんとうの価値は
どのくらいかっていうことですよね。
そういう意味でいうと、ほぼ日の株価を見ると、
まだまだわかられていないな、
っていうふうに思ってますね。
自分たちのことだからこんなふうに言っても
意味がないことがちょっともどかしいんだけど、
外側から自分たちを見たら、
ほぼ日って、もっとすごいんですよ(笑)。
だけど、株価とか、市場という目でみると、
まだ評価されないんだな、っていう。
そこはシャクだなっていう面と、
ちょっとニヤリとしちゃう面と両方がある。
- 秋元
- ああ、なるほど。
- 糸井
- 利益をきちんと出しながら
つぎの年に向かっているという意味では、
よく運転できてるなって気持ちはありますけど、
「ちょっとぼく以外の人たちが
なめられてるんじゃないの?」っていうのは、
正直、悔しいところはありますね。
と同時に、たのしいんですよ(笑)。
やきもきも、イライラも、ジリジリもしますけど、
「お前らすごいな」ってぼくは思ってるから。
- 秋元
- それはほんとうに
経営者としての糸井さんの本心だと思うんですけど、
でも結局、株価とかっていうのは
やっぱり証券会社とかそういうところが見るわけで、
ほんとうの力とか才能とかよりも、
もっとテクニカル的なこと言われるんじゃないですか。
「もっとIRを出してくださいよ」とか。
- 糸井
- うん、でも、それってほんとは浅い話だと思う。
- 秋元
- (笑)
- 糸井
- つまり、また、
「自分の会社のことじゃなければ」っていう
前文がついちゃうんだけど、
世の中にある会社ということでいえば、
「みなさんが言ってることを聞いていくと
ぜんぶ同じような会社になるんじゃない?」
って言えるわけですよ。
ただ、自分の会社のことになると、
「ここが弱いですね」とかっていうのも、
実際、弱いとこもあるわけだから、
そんなこと言っても言い訳みたいに
聞こえちゃうだけだから言わないですけど。
でも、やっぱり、一般的な、
優等生的なことを軽率に言いたがる人については、
深く聞くつもりはないと思っています。
で、お客さんとして、ぼくらの株を
持ってくれている人に対しては、
「もっとがんばりますから」っていうのは、
かなり本気で思っていますね。
- 秋元
- ああ、そうですよね。
それはとてもよくわかります。
- 糸井
- そこは、自分たちのよろこびでもあるから。
- 秋元
- 糸井さんたちはあれでしょ、
株主総会とか楽しいでしょう?
- 糸井
- おもしろいですよー。
株主総会自体は1時間かからないくらいですけど、
ほかの5、6時間は、株主ミーティングとして、
いろんな企画をやってるんですよ。
- 秋元
- いま、ほぼ日はなにを
一番やろうとしてるんですか、これから。
- 糸井
- あの、これさ、完全に授業というか、
ぼくの授業を秋元康が聞いてる状態に(笑)。
- 秋元
- だって、おもしろいなって。
(つづきます)
2023-01-05-THU
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