秋元康さんと糸井重里は、
どのくらいやり取りがあるのでしょうか?
糸井本人のことばを借りると、
「なにかの収録のときとかに挨拶したくらい」。
しかし、作詞やテレビなど、時代は微妙に違えど、
活動には重なっている部分も多く、
もちろんお互いにお互いのことを知っている。
「ほぼ日の學校」の企画として、
ぜひ会って話しませんかとお誘いしたところ、
よろこんでとご快諾いただけました。
クリエイティブの話、社長業の話、人間関係の話、
たっぷりいろいろ話して盛り上がったのですが、
おもしろかったのは、秋元康さんが糸井に、
つぎつぎに質問するかたちになったことでした。
- 秋元
- 糸井さんのほうから、
「これやりたいな」と思うことはあるんですか。
- 糸井
- 正直に言うと、あんまりないんです。
でもそれは、なんというか、劇画調に、
「これを絶対やりたいんだっ!」
という意味においては、あんまりない。
それよりは「こういうことしたらどうかな?」って、
プロセスを試してみたかったり、
無理だろうと思うことをなんとかしてみたかったり、
みたいな気持ちのほうがありますね。
だから、ちっちゃい部隊で臨むゲリラ戦、
みたいなほうが向いてるのかもしれない。
- 秋元
- ほぼ日は、まさにそうですよね。
- 糸井
- うん。ものすごく大きいことは、
積極的にはあんまりやらないんですよ。
- 秋元
- そんな糸井さんが、
25年前にインターネットに惹かれて、
ほぼ日を立ち上げるっていう、
いま思えば大きなことに取り組んだのはなぜですか。
- 糸井
- それも、はじまりは小さなことで、
いちばんのきっかけは、その当時に、
知り合いのサッカーファンが、
海外のサッカーファンとやり取りして、
ワールドカップの予選のチケットを手に入れたり、
現地の選手のケガの情報を
集めたりしていたことだったんです。
びっくりしたんですよ、そのころって、
書いた原稿をFAXで送るような時代でしたから。
で、「おもしろいなあ。これ、俺もできる?」
ってその人に訊いたら、
「買いに行きましょう」ってことになって、
秋葉原にコンピュータを買いに行ったのが、
49歳の誕生日。それがすべてですよね。
だから、ちっとも大きな動きじゃないんですよ。
あとは、そのころインターネットについての情報を
たくさん発信してたのが立花隆さんだったんで、
立花さんの東京大学のゼミを見学しに行って、
学生におやじが混ざって受講してみたり。
- 秋元
- へぇーー。
- 糸井
- だから、たまたま25年続くことになったけど、
インターネットもほぼ日も、はじまったときは
降りられる感じだったんじゃないかな。
小さくはじめたことがたまたま続いてるだけで。
だから、秋元さんが降りられないのは、
やっぱり大きい仕事だからだよ。
ダム工事を降りられないようなことですよ。
- 秋元
- うーん、そうなんですかねぇ。
あと、なんていうか、降りずに残ったままで、
それがどうダメになるのか見ていたい、
っていうのもあるのかもしれないですね。
- 糸井
- あー、それはおもしろい視点だ。
- 秋元
- この山を自分はどうやって
下りていくんだろうか、みたいな。
そういう変な興味があるのかもしれないです。
- 糸井
- つまり、ひとつの出来事を、
当事者として一生見ちゃうみたいなことですよね。
- 秋元
- うん、そうですそうです。
- 糸井
- そういう見方でいうと、
ぼくは自分がいったんそこから降りてから、
それを横目で見ている、ってことを
けっこうしてる気がしますね。
- 秋元
- ああ、そうですか。
- 糸井
- 降りると、代が変わるんですよね。
『YOU』をぼくが降りたら、
日比野克彦くんがやってるとか。
それを横目で見てて、ああこうなるのか、とか。
で、見てるとね、自分がやってたほうが
よかったとはどうしても思えないんですよ。
- 秋元
- ああ、そういう感じなんですね。
- 糸井
- だから、そういうのを見てると、
自分が降りて終わってからも、
ある種の栄養にはなってるんですよね。
- 秋元
- ぼくは、なんだろうな、
その降り方がわからないんですよね。
変な執着があるというか、
そこになにかおもしろそうなものが
まだあるんじゃないかと思ってしまう。
- 糸井
- 実際、あるんでしょうね、ずっとそこにいたら。
- 秋元
- もちろんあるものもあったし、うん。
でも、だからといって降りないままだと、
抱え続けることになっちゃうんですよね。
気軽にあたらしいこともはじめられないし。
たとえば、インターネットに関しても、
ぼくははじめるのがずいぶん遅かったんです。
孫正義さんが「今度、Yahoo!ってのを買うんだよ」
って言われてもポカンとしていました。
だから、いつ入ればいいのかわからないというか、
いつからぼくは夢中になればいいんだろう、
っていうのがないまま、
そのままズルズル行っちゃう感じがしますよね。
- 糸井
- それはやっぱり秋元さん、
いちいちスケールがでかいんですよ。
そういうおもしろそうなことって、
一大衆として関わればいいわけで、
ぼくは、インターネットにしても
いまでも詳しくないですよ、ちっとも。
- 秋元
- そうなんですか?
ぼくはそのタイミングを逸してしまうんですよね。
ほら、そういうのをパッとできる人って
いるじゃないですか。
あたらしいものが大好きだったり。
そういうふうになれないんですよね。
- 糸井
- それはぼくも同じだよ。
- 秋元
- でも、さっきの話でも、
インターネットをはじめたり、
すぐパソコンを買いに行ったり、
東大の立花さんの授業を聞きに行ったり
してたって言ったじゃないですか。
- 糸井
- ああ、そうか。
- 秋元
- そこに、糸井さんのおもしろがり方の、
基礎があるように思うんです。
- 糸井
- そこは、ぼくは、野次馬として動いているね。
- 秋元
- 野次馬かもしれませんけど、
行動力のある野次馬じゃないですか。
- 糸井
- そうですね。
だから、じぶんがなにかをやるときって、
ひとつは、締切があるような仕事。
もうひとつは、おもしろそうだから
ちょっと行ってみたい、やってみたいってこと。
そのふたつの動機のウェイトが
ほぼ同じくらいなんですよね。
だから、「締切があるぞ」っていうのと、
「あれ見ておかないと後悔するぞ」っていうのが、
同じ強さでじぶんを動かすんです。
だから、あらためて振り返るとわかるんだけど、
わりとスポーツの重大な場面とか、
スターの引退公演とかに立ち会ってる。
- 秋元
- ああ、好きですよね、糸井さん。
- 糸井
- そう。でも、一大衆だし、野次馬だから、
「俺はそのジャンルは詳しいぞ」って
売り物として商売にできるようなところに
立ったことはない。だから、いつでも、
「ちょっと教えて?」って言うのはわりと平気です。
- 秋元
- あと、やっぱり行動力があるんじゃないですか。
やろうと思ったらパッと立ち上がれる感じ。
- 糸井
- ああ、身軽なんでしょうかね。
- 秋元
- ですよね。
- 糸井
- それはやっぱり自己が薄いんじゃないかな。
自分が、自分の質量が、
なんか浅いっていうか軽い気がする。
(つづきます)
2023-01-04-WED
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