降りる人と降りられない人。 降りる人と降りられない人。
秋元康さんと糸井重里は、
どのくらいやり取りがあるのでしょうか?

糸井本人のことばを借りると、
「なにかの収録のときとかに挨拶したくらい」。
しかし、作詞やテレビなど、時代は微妙に違えど、
活動には重なっている部分も多く、
もちろんお互いにお互いのことを知っている。

「ほぼ日の學校」の企画として、
ぜひ会って話しませんかとお誘いしたところ、
よろこんでとご快諾いただけました。
クリエイティブの話、社長業の話、人間関係の話、
たっぷりいろいろ話して盛り上がったのですが、
おもしろかったのは、秋元康さんが糸井に、
つぎつぎに質問するかたちになったことでした。
第3回 いくつもお皿を回している
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秋元
糸井さんの仕事でいうと、
たとえば「TOKIO」なんてすごかったじゃないですか。
ぼくはそのころ「ザ・ベストテン」の
構成作家をしてたんですけど、
沢田研二さんが「TOKIO」でダーンと出てきたとき、
すごくセンセーショナルな歌詞で、
打ち出し方も含めてみんなびっくりした。
でもそこで糸井さんが詞の世界に行くかっていうと、
またそこで降りちゃうわけですよ。
糸井
「TOKIO」ね。でも、話題にはなったけど、
大ヒットじゃないわけですよ。
秋元さんはあのころまだ作詞はしてなかった?
秋元
してなかったですね。
糸井
ああ、そうでしたか。
あのころの作詞の世界ってね、
みんなが「紅白に出たい!」とか、
「ベストテンで1位になりたい!」とか
言いながら頼んでくるんですよ。
そんなの、正直、無理なんですよ(笑)。
1位の曲がそんなにぽんぽん出るわけないし。
あと、ぼくが作詞を降りたことについて
すごくリアルな理由を言うと、
それなりに作詞をしていた年に、
年間作詞家ランキングみたいなものが出て、
たしか、ぼく、4位だったんですよ。
正直、それで食っていけるっていうほど
作詞では稼いでなかったからね。
それでも4位だっていうから、
いってしまえば、プレッシャーのわりに
そんなに稼げない仕事なんだなと思った。
秋元
ああ(笑)。
糸井
それでも1位をとりたいって
思ってる人がたくさんいるような世界だから、
そういう人と肩組んでやる意味は
あんまりないなと思って、
あるとき2件くらい依頼を断ったんですよ。
「最近、やってないんですよ」って。
そしたら、そういう話って広まるのも早くて、
ぱたんと作詞の話は来なくなったんです。
写真
秋元
ほら、だから、糸井さんは断ってる。
やっぱり、どこかで降りてるんですよ。
糸井
いや、まあ、それは降りたんだけど(笑)。
秋元
さっき話に出た『YOU』だって、
視聴率はたしかに、枠的にも局的にも
低かったかもしれない。
でも、あれだけ話題になってたんですから、
やろうと思えば、大橋巨泉さんみたいに
なってたかもしれないじゃないですか。
糸井
『YOU』も、作詞の話とちょっと似てるんだけど、
企画会議をしているときが
いちばんおもしろいんですよ。
みんなで集まって「そんなのダメだよ」とか
言い合ってる3、4時間がいちばんたのしい。
秋元
うん、たのしいですよね。
糸井
たのしい。でも、どう言ったらいいか、
それにだんだん飽きてくるんです。
「またこういう感じか」って。
で、また作詞のときと同じように、
「なんのためにやってんだろう?」ってなって、
もうこれ以上は無理だよっていうことで、
日比野(克彦)くんにバトンタッチしたのかな。
だから、まあ、たしかに、
降りたといえば降りたんだけど‥‥。
秋元
降りてるんですよ、だから、必ず。
糸井
‥‥そうか。
秋元
(笑)
糸井
じぶんではそんなふうに思ってなかった(笑)。
秋元
だから、糸井さんはおもしろいなと思うんです。
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糸井
秋元さんはどうなの?
秋元
ぼくの場合は、
降りるタイミングを逸しちゃうタイプなんです。
糸井
あー(笑)。
秋元
ぼくも「あ、もう飽きたな」とか、
「これはもう違うな」とは思うんだけど、
なにか、タイミングが合わないんでしょうね。
糸井
単純に、関わってる人の数が多い
っていうのはありますよね。
言ってみれば、秋元さんの企画や番組があることで、
食っていけてる人がいっぱいいるから。
秋元
まあ、それは、そうかもしれません。
糸井
ぼくの場合は、それで食ってる人が、
基本的にはぼくだけなんですよ。
だから、降りられるんじゃない? 
そういう意味でいうと、ぼくにとって、
降りられないはじめての仕事が、
ほぼ日なんでしょうね。
秋元
なるほど。そういうことなんですね。
糸井
でも、秋元さんも同じことばかり
しているわけじゃなくて、仕事の種類は
変わったり増えたりしてるじゃないですか。
秋元
そうですね。だから、ぼくの場合は、
なんというか、いくつも同時に回してるんですよ。
たとえば、糸井さんがこう、棒の上にお皿を乗せて
ぐるぐる回してるとするじゃないですか。
で、「飽きたな」とか、「もういいんじゃない?」
って思ったら、たぶん、ゆらゆら回ってるお皿を
パッと取ってやめちゃうと思うんですよ。
ところが、ぼくの場合は、
「あ、あっちのお皿が回らなくなってきた」
っていうと、急いでそのお皿を回しに行くんです。
で、これがいま、10個くらいあるんですよ。
写真
糸井
おもしろい(笑)。
秋元
だから、ずーっとこう回して、
あれがゆらゆらしてきたっていうと、それを回す。
それをくりかえしてるから、ずっと忙しい。
それでまたね、よせばいいのに、また誰かが、
「秋元さん、これ新しい皿ですよ。
これ、回したことないでしょう?」とかって
おもしろそうにぼくに言うんですよ。
で、ぼくが、「え、そうなの?」と言って手に取ると
もう回しちゃってるわけじゃないですか。
それでどんどんどんどんお皿が増えていくという。
糸井
その説明はわかりやすいねぇ。
秋元
だっていま、異常なんですよ。
ぼく、連ドラを3本やっているんですよ。
TBSとテレ朝とテレ東で。連ドラですよ?
糸井
(笑)
秋元
いまの糸井さんは、降りるべきことを
降りるべき時に降りていらっしゃるので、
ほぼ日のお皿だけ、ちゃんと回してればいいように、
ちゃんと状況をつくってるんですね。
ちゃんと目の前に持って来てるんですよね、
ほぼ日が。
糸井
うん、目の前にあるね。
秋元
そうですよね。
ぼくはなんていうか、回してるうちに、
「あっちのあれおもしろそうだな?」って
なったりもするし。
糸井
回したくなっちゃうんだね(笑)。
秋元
ならないですか? これ、たぶん、
子どものころからそうみたいで。
うちのおふくろから、
「康は、遊園地行って観覧車乗ってると、
もうその観覧車を楽しむよりも、
つぎになに乗ろうかって目移りしてる。
なんであなたは観覧車を楽しまないの?」
ってよく言われてました。
糸井
はーーー。
秋元
だから、目の前のお皿を回してても、
向こうになにか違う回り方をしてるお皿があれば、
「よくあんな大きいの回せるな」って気になって、
そのうち「自分にも回せんのかな?」と思って、
思い切って回してみたら「あ、回るわ」ってなって。
糸井
そのうちこっちがゆらゆらしてくる(笑)。
秋元
そうなんです。だから、つねにいくつも回して、
降りられないし、終わらない。
糸井さんは「違うな」と思ったら、
パッとお皿を取って。
「ありがとうございました」って。
ぼくはそこの潔さがないんですよ。
糸井
なんだろうね、性格なんですかね。
秋元
そうなんですかねぇ。
写真
(つづきます)
2023-01-03-TUE