第12回 時間じゃない。

荒井 でも、個展をやるにも
時間がなかなかとれなくて、
1日で準備できる個展の形はないか?
みたいなことを必死で
考えてたりするんですけど。
糸井 制作期間が実質1日?
荒井 うん。
糸井 すごいですね。
それは、ぼくの知り合いの
ひどい人を超えますね。
あの、南伸坊さんっていうんですけど。
一同 (笑)
荒井 ははははは。
あとは、まぁ、画廊で、
個展の初日から、コツコツ描いてるとか。
糸井 ああ、そうですかー。
すごいですね、それは。
荒井 いや、すごくないです、ぜんぜん。
どちらかというと、制作が数日とか、
あんまり言えないことなんですけど。
糸井 ま、言いにくいといえば
言いにくいですけどね。
荒井 でもね、時間じゃないと思うんです。
糸井 いや、その通り、
その通りだと思う。
荒井 それだけ時間かければ
すごいですねって言われるのもいやだし。
あと、「力作ですね」とか言われると
ガクッときちゃう(笑)。
「力作」ってぜんぜん
褒め言葉じゃないじゃないですか。
糸井 うん、うん(笑)。
荒井 むしろ、
それだけは言わせまいと思ってる。
糸井 その、物理学っぽいですよね。
「力作」って。
荒井 そうそう、そうなんですよ!
あ、がんばりが見えてんだ、と思うと、
ああー、失敗したなぁ、とか思う(笑)。
だから、なるべく、
時間かけてないよっていうふうに言うし、
実際、けっこう言われるんですよ、
テレビ見ながら描いたんでしょ、
みたいなことを。
糸井 (笑)
荒井 でも、そのくらい、
勢いとか乱暴さがあったほうが
かっこいいなと思うんですよ。
糸井 はい、はい。
でも、ほんとうの話、
両方が混じってると思うんですよ。
ほっんとに気が入ってない部分が
必要なときって絶対あるわけで。
荒井 うん、うん。
糸井 横尾忠則さんが
絵を描いてるところを横で見てても、
まったくそうですもんね。
ずっと集中なんてしてなくて、
「あ、そうなの?」とか
平気で話しながら描くから。
荒井 (笑)
糸井 まぁ、ぼくも荒井さんも、
自分たちの仕事の結果が
抽象に見えるところに行きやすいから
うまく伝わらないのかもしれないけど、
ものすごく苦労するところと
テレビ見ながら考えることっていうのは
もう、混ざり合ってるんですよね。
荒井 うん、ほんとにそう。
あの、さっき話にもでてきた、
南伸坊さんと
お話しさせてもらったことがあって。
糸井 うん。
荒井 「荒井くんって、筆使わないで、
 紙で描いてるんでしょ?」
っておっしゃるんですね。
オレ、筆じゃなくて、紙の切れ端に
絵の具を塗って描いたりするんです。
で、南さんが言うには、
昔の人もよくそうやって
筆じゃないもので描いていたらしい、と。
なんでも、昔のうまい人は、
筆だとうまく描けすぎて
つまんなくなっちゃうから、
草をつかって描いてたんですって。
「筆草」っていうらしいんですけど。
糸井 あいつ、教養があるからねぇ。
一同 (笑)
荒井 それって、なんていうか、
自分が描くことに意外性がほしい、
っていうことなんじゃないかと思うんですよ。
糸井 うん。
荒井 その気持ちはすごくよくわかるんです。
だから、テレビ見ながら考えるとか、
人としゃべりながら描くっていうのは
どっかになんか、油断とか、
意外性を入れたいというか。
糸井 それは重要ですよねぇ。
あと、油断を取り入れるという意味でいうと
伸坊はそうとう得意だと思う。
一同 (笑)



(つづきます)



2010-06-28-MON