糸井 |
だから、なんだろう、
時間をかければいいというわけじゃないし、
予定どおりにうまい絵が描けても
おもしろくもなんともなかったりするわけで。 |
荒井 |
そう、そうなんですよ。
そのあたりがうまく伝わらないっていうか。 |
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糸井 |
集中しろとか、緊張しろとか、
そういう張り詰めた状態ばかりが
すごいものみたいに言われるけど、
集中やら、緊張って、
すぐパターン化しちゃうからね。 |
荒井 |
そうそうそう、そうなんです。 |
糸井 |
たとえばイチローがルーティンとして
集中の様式を守り続けるっていうのは
オレたちがどうこう言える
次元じゃないと思いますけどね。
でも、イチローにしたって、
あれを何度も何度もくり返せるのは、
相手のピッチャーが違う球を
投げてくれるからですよ。 |
荒井 |
うん、うん。 |
糸井 |
まぁ、いっしょにしちゃ
いけないのかもしれませんけど、
ただ机に向かって
集中してればいいんじゃない
っていうのはありますよねぇ。 |
荒井 |
あります。 |
糸井 |
そのへんはわかってほしいなぁ。
あと、「苦しまぎれ」っていう
最後の武器が残されてて、
それがもう、ものの見事に
風景を変えちゃったりしますからね。 |
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荒井 |
あーーー(笑)。 |
糸井 |
その意味では、もう、ぼくなんて、
「苦しまぎれ教」の教祖‥‥じゃない、
信者ですから、信者。 |
一同 |
(笑) |
荒井 |
教祖じゃないんですね(笑)。 |
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糸井 |
信者です、信者。
なんていうのかなぁ、
どこかにひそんでる「裸の自分」に
会えるまではほんとの力は出ない、
みたいなところがありますから。 |
荒井 |
そう、そう。 |
糸井 |
それまでは、なんていうか、
信用して安心しておいてくれ、
みたいなところはありますよね。
うーん、だから、
ものすごく威張って言えばさ、
ばかやろう、オレが、何十年、
苦しまぎれにやってきたと
思ってるんだよ、っていうことで。 |
一同 |
(笑) |
荒井 |
はははははは。 |
糸井 |
その、なんていうか、
そんじょそこらの、
ぽっと出の一所懸命やるやつと
いっしょにしてくれるなよっていう。
むりやり仲間にするわけじゃないけど、
それは、荒井さんだって言えるでしょ。 |
荒井 |
言えます、言えます、それは言える。 |
糸井 |
そういうことが言えるまでに、
ほんと何十年、かかってますよね |
荒井 |
ようするに、あの、
なにもしてないと思われちゃうんですよね。 |
糸井 |
そうそう(笑)。 |
荒井 |
やっぱり、絵を描くことって、
こうやって白い紙に向かって
筆を持つことだと思ってるから、
早くしてくださいって
催促する人にとっては
なんにもしてないように見える。
でも、自分の中では進んでるんですよ。
絵は真っ白なまんまかもしれないけど、
ぼくの中では始まってるんです。
こう、ご飯食べながらでも、もう、
絵を描くモードに入ってたりするんです。
だけど、外からはそう見えない
っていうだけの話であって。 |
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糸井 |
いや、もうそれは、ぜひ、
意識的になってほしいですね。
どんなにがんばったって
ほんとに集中できる時間なんか
限られてるに決まってるんだから。 |
荒井 |
うん、そうですよね。 |
糸井 |
こう、たとえば船がね、
波の上に浮かんで、ずーっと、こう、
ゆらゆらしてるじゃないですか。
あの時間も、ちゃんとカウントしてほしい。
どこにも進んでないからって、
船に乗ってないわけじゃないんだ。 |
一同 |
(笑) |
荒井 |
なるほど、なるほど(笑)。 |
糸井 |
そう思いますよねぇ。
‥‥でも、オレと荒井さんが
おんなじタイプだから
こんなこと言って盛り上がれますけど、
そうじゃない人には
一喝されるかもしれない(笑)。 |
荒井 |
そうかも(笑)。 |
糸井 |
でも、ゆらゆらしてる時間も、
進んでる時間と同じなんだよなぁ。
わかってほしいなぁ。 |
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荒井 |
(笑)
(つづきます) |