糸井
荒木さんの写真をずーっと見ていて
やってることはちがうけど、
ときどき、
すごく自分に近いものを、感じるんです。
それは「軽くしたい、軽くしたい」って
思ってらっしゃるところ。
荒木
「軽み(かろみ)」ってやつだよね。
「軽み」とか、「おかし」とか。
写真だって、そんなのがなかったら、
足がしびれちゃうよ。
糸井
でも、やれば「重くする」ことだって
できるじゃないですか。
荒木
やったらやったで、うまいよ(笑)。
糸井
いや(笑)、そうですよね。
荒木
日本は狭いけど、
海外からも見てくれてる人がいてさ、
パリのギメ東洋美術館とか、
仏像ばっかり集めてるようなところからも
依頼が来たりするからね、俺。
糸井
見てるんですね。
荒木
見てる、みんな、だいたい見てる。
人妻の裸とか、三段腹とか。
糸井
なるほど(笑)。
関係ないけど、荒木さん、
若いころに「ラーメン屋で裸の展覧会」、
やってましたよね?(笑)
荒木
ああ、やったやった。
銀座にあった「キッチンラーメン」ね。
もうないけど。
あれは「食欲と性欲を満たす」という、
そういう写真展だった。
糸井
そうなのかなぁ(笑)。
荒木
名物の「ベトナムラーメン」を‥‥。
糸井
そうそう、そうだった(笑)。
ベトナムラーメン、だ(笑)。
荒木
ドンブリからぐぐーっと顔を上げて
パッと目線がいくところに
バーンと「人妻の裸」があるわけ。
そういう飾り方してたんだ、あれ。
糸井
ええ、憶えてますよ。
荒木
うれしいなあ(笑)。
糸井
そのベトナムラーメンの件にしても
荒木さんって
「当たり前のこと」として
やってることだらけ、なんですよね。
荒木
そうだねぇ。
糸井
一方で『さっちん』みたいな要素も、
他方で『私写真』みたいな要素も
荒木さんのなかには、ずっと両方あって。
荒木
『私写真』って言葉が出たから言うけど、
『死小説』って本、書いたんだ。
「私」じゃなくて、「死」の小説ね。
そういう気分は、ずっとあるんだよ。
糸井
ええ。
荒木
だからさ、もしかしたら
あのとき小学校4年の「さっちん」に
カメラを持たしたくらいが、
いいのかもしれないって、あるよね。
ま、あいつじゃヘタ過ぎるかな(笑)。
でも、そういう気分なんだ。
糸井
写真って、おもしろいことに、
撮る気がないと撮れないんですよね。
荒木
うん、まあね。
糸井
ぜんぜん「撮る気」のない動物に
カメラを渡しても、
写真なんて撮れないじゃないですか。
荒木
うん。
糸井
つまり、どんな写真にしても
「撮った人に撮る気はあった」というのが
おもしろいところで。
荒木
いまは、撮る気のあり過ぎるのが多いよ。
スマホとかさ。
みんな「ジドリ、ジドリ」って言うから、
俺なんか最初、
鳥の「地鶏」かと思ったくらいで(笑)。
糸井
あはは(笑)。
荒木
ほんとだよ?
糸井
荒木さんの場合は「自撮り」はおろか、
他人にカメラを持たせたりしますよね。
荒木
ああ、そうだね。
糸井
荒木さんが写ってる写真を
「荒木さんの作品」にしちゃったのも、
荒木さんが、最初ですよね。
「アタシのカメラで撮って、
アタシが写ってる。
だから、アタシの作品です」という。
荒木
だって、そうなんだよ。
糸井
これ、荒木さんが言い出さなかったら、
誰も考えつなかったことですよ。
荒木
まあ、あれは
最初から「テーマは盗作」だから(笑)。
糸井
編集者が撮ることが多いんでしょ?
荒木
うん、身内で済ましてる。
糸井
で、荒木さんの作品として、
荒木さんの写真集に載る‥‥んですよね。
荒木
そう。
糸井
きっと、当時も不思議だなと思った人は
いるのかも知れないけど、
いまは、誰も言わないですよね(笑)。
荒木
人の写真と自分の写真を混ぜたり、とかね。
いいんだよ、そういう感じが。
糸井
混ぜこぜ、昔からよくやられてますよね。
荒木
うん、やってる。
糸井
若い人は知らないと思うけど、
ちっちゃい規模の写真展みたいなので、
背景にいろんな‥‥
たとえば
立木義浩さんのポスターなんか貼って
その前に
ヌードの人が裸でこっち見てるんです。
荒木
うん。
糸井
で、タイトルが「ハニー・レーヌ」とか
もう、わけわかんないんだよ。
注:ハニー・レーヌは
60年代末から70年代にかけて活躍した女優・モデル。
ヌード写真でデビューした。
荒木
あはは(笑)。
糸井
もう、いろいろ、ごちゃ混ぜで。
荒木
あははは(笑)。
<つづきます>
2015-11-10-TUE
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(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN