糸井
阿佐ヶ谷の本屋で、ホームレスの人が、
荒木さんの写真集を
じぃーっ‥‥と立ち読みしてたんです。
それも、すごい長い時間ずっと(笑)。
荒木
へえ。
糸井
この引力‥‥と思いましたよ。
荒木
俺、そういうのにモテるんだ。
糸井
モテますよね(笑)。
荒木
それとか、タクシーの運ちゃんとかね。
なんかが通じてんのかなあ。
こっちはセレブのつもりなんだけどさ。
糸井
自分のことで言うと、
その昔、赤城山で埋蔵金を掘ってたとき
現場の人に
やたらモテるようになって、
工事現場の人が
声かけてくれるようになったんです。
俺たち同じ穴掘り友だちだ‥‥って。
荒木
結局「場」っていうのが、あるんだよ。
糸井
「場」。
荒木
うん。写真は「時」と「場」だな。
糸井
でも、新宿歌舞伎町みたいな「場」には
荒木さんって、
結局、染まらないじゃないですか。
その一員にはならない、というか。
荒木
うん、ならない。
ならないんだけど
このあいだも用事でちょっと行ったら、
やっぱりモテちゃうんだよ。
糸井
相変わらず(笑)。
荒木
「先生、このへんにキャバクラはないよ。
ホストクラブばっかりだ」って、
なんだか、そういうモテ方はするけどね。
仲間だと思われてんだ、あのへんの人に。
糸井
それってつまり「お相手」ではあるけど、
「身内じゃない」ってことですよね。
そのあたりの「距離感」みたいなものは
どこへ行っても、守ってますよね。
荒木
そう、そうだね。
フィルムが「カーテン」なんだよ‥‥
とかって、またいい加減なこと言って
騙くらかしてるんだけど
でも、
「被写体とカメラマン」のあいだには
「あの世とこの世」みたいな
「結界」が張ってあるとは思うんだ。
糸井
ぼく、どこかで、荒木さんについて
「あの世とこの世」ってことで
なにか文章を書いたことがあります。
「彼岸の向こうを写してる」って。
荒木
ああ。だから、さっきも
「あの世のイトイ」を撮ったんだな。
「この世の俺」が。
糸井
ようするに「誰と仲間か」といったら
結局「妻」とか「猫」とか、
家にいるものが仲間ですよね、たぶん。
荒木
うーん、家ねえ。
糸井
だってほら、
猫の写真集をいくつか出してますけど
そこに「家」は写ってるでしょう。
荒木
そうだな。家か、うん。
糸井
俺の居る場所、帰る場所っていうか。
荒木
たしかに「3.11」のときにしても、
うちの豪徳寺のバルコニーでは
置いてある人形だとか、
恐竜たちが、
みんな倒れて足を折ったりしたんだ。
そのことが、あのできごとのことを
すごく身近に感じさせるよ。
糸井
「俺の場」があるから、そこに。
荒木
そのマンションは
古かったから、すぐブッ壊されちゃって、
別の町に引っ越したんだけど
同じようにバルコニーを、またつくった。
‥‥娑婆だね、写場だ。家は写場だよ。
糸井
娑婆。
荒木
俺は、娑婆で、空を撮ったんだな。
「東の空」をね。
注:「東ノ空」は、東日本大震災後、荒木さんが
毎朝、自宅屋上から東の空を撮影し続けた作品。
糸井
なるほど。
荒木
このまえ、資生堂のギャラリーに並べた。
だから、私写真私写真って言ってるけど、
案外、外とも関わってるんだよ。
糸井
その「毎日、東の空を撮る」って
カメラがなければ、やらなかったこと?
荒木
うん、きっとやらないんじゃない?
糸井
ありがたいものですね、カメラって。
荒木
いやあ、それは、もうね。
気分がダウンしているときでも
カメラを持てば大丈夫になる、パッとね。
いろんな女を好きになるのと同じで、
いろんなカメラで撮るし。
だから、デジタルだとかスマホだとかね、
まったく否定はしてないよ。
糸井
つまり、そういう「女」であると(笑)。
荒木
そうそう。
糸井
使ってはいる?
荒木
持ってない。
糸井
いまもフィルムばっかりなんですか。
荒木
そう。
糸井
自分で現像してるんですか。
荒木
もう、やってないな。
本来は、そこまでやるタチなんだけどね。
プリントする暗室作業が、
またうまいんだよねえ、やらせたら(笑)。
糸井
それ、いつも言いますよね(笑)。
荒木
だって、好きなんだよ。
糸井
つまり「見せるまでが写真」ってことには
当然、暗室作業も含まれるわけで。
荒木
うん。
<つづきます>
2015-11-11-WED
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(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN