有吉が、 窓から風を 入れましょう。 有吉弘行+糸井重里

第10回 落ちる準備。
糸井 でも、いまはすごく
時間が限られているだろうし、
忙しいという実感があるでしょう?
有吉 はい。
糸井 その間に次のこと考えるのは
なかなか難しいですよね。
有吉 はい。難しい‥‥いつもそう思ってます。
だから、次のステップの準備ではなく、
どちらかといえば
落ちる準備をしてるんですよ。
糸井 ははぁー、そうなんですか。
有吉 はい。
金を使わないようにする、とか‥‥
もともと、性格がそうなんですけど。
糸井 だけど、こんなに体力があるのに、
落ちる準備をしたって
しょうがないんですよ、ほんとうは。
有吉 どこかで臆病になっちゃうんです。
前回の経験が‥‥。
糸井 うーん。
有吉 いままで思いどおりに
事が運んだ経験がないので、
自分の明確な未来のビジョンを
描かないようにしてるんだと思います。
糸井 それだけ心配性な芸人さんって
そんなにいないんじゃないですか?
有吉 そうですね。
みんなやっぱり
楽天的というか‥‥。
糸井 でも、それは取り柄ですね。
そこまでいくとね(笑)。
‥‥任天堂という会社が京都にあって、
そこの前の社長さんが言ってたことでね。
有吉 ええ。
糸井 ぼくがその社長さんに
「経営が好きなんですね?」って訊いてみたら
「好きなんやない。得意なんや」
とおっしゃったんですよ。
有吉 ああ。
糸井 「好きな人が経営なんかしたらアカン。
 好きな人は、好きやから、なんでもしよる。
 乱暴しよる。
 そしたら、その人の下にいる人が
 不幸になるやないか」
有吉 はい(笑)。
糸井 得意なことが好きという場合もあるけど、
どっちを取るかと言ったら、
得意なことをしたほうが、
人に迷惑かけないですよね。
有吉 そうですね‥‥そうなんですよねぇ。
糸井 そういう意味でオレは
「有吉」という人の持ってる資質は、
作家性だと思うんです。
有吉 だけどやっぱり、
もともと漫才がやりたくて
この世界に入ったので、
ネタをやってないというコンプレックスが
すごくあるんです。
M-1のチャンピオンとかにも、
すごいコンプレックスがあるんですよ。
糸井 こう見えても。
有吉 こう見えても(笑)。
武器がちがうから、とは
思うんですが、
どこかでいつも負い目があります。
糸井 じゃあ、ネタつくっちゃったらどう?
有吉 ハハハハハハハ。
でも、演じるのがすごく苦手という、
これまたやっかいな問題が(笑)。
糸井 ネタを書くのは放送作家の仕事だから
有吉さんは、じつは得意ですよね?
だけど、「元漫才師」の放送作家って、
じつはいっぱいいるんだよね。
有吉 そうですね。
糸井 どうして、有吉さんは
作家にならなかったんでしょう。
有吉 それは、ひとえに
人脈がなかったからです。
糸井 なるほど(笑)。
有吉 頭下げるスタッフさえいなかったです。
売れなくなったとき、
いろんなところに頭下げれば、
と思ったんですけど、
どこに行けばいいのか、
全然わかんなくて。
糸井 それは、いまになってみると、
よかったですね。
有吉 はい、よかったです。
糸井 つまり、やる立場でしか物を考えられない
放送作家なんていないからね。
有吉さんは、今後、
こういうことがやりたい、
という希望はあるんですか?
有吉 ぼく、何がやりたいんでしょうかねぇ(笑)。
糸井 ないな。
有吉 ないんでしょうね。
糸井 ぶらぶらしてた時期の、
「生活であり楽しい」という毎日が
おそらくいちばんいいんですね。
有吉 それは最高ですね。
糸井 最高ですよね。
オレも、そうなんですよ。
有吉 ははははは。
糸井 そういう人はね、
決めてやるしかないんです。
有吉 はい。
それはそうですね。
糸井 来ちゃったからやるわ、とかね。
やってると、今度は意地になるから
引けなくなります。
有吉 そうですね。
糸井 ガッツないしなぁ。
有吉 ないんですよねぇ。
糸井 前に出ないしなぁ。
有吉 出ないですねぇ(笑)。
糸井 客前ダメだしなぁ(笑)。
有吉 ほんとに客前ダメですねぇ。
(続きます)

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2009-11-20-FRI