AZARASHI
アザラシのお姉さんです。

番外編

『新潟ロシア村1泊2日の旅』(前編)

新潟ロシア村へ行ってきました!
こんにちは。ほぼ日スタッフのギムラです。

さかのぼること約4カ月前、6月6日に開催された
「ポカスカジャン鼠穴ライブ」に“はなさん”が
来てくれたときに、新潟行きを約束していたんです。
「夏にロシア村に行きます!」って。
しかし、モタモタしているうちに夏は終わった。

はなさんからは、
「ギムラさんは来ない気がする。
 絶対来ないんじゃないかなぁ」
なんて言われてしまって……マズイ。
てなわけでついに9月11日、関越道を北へ。
クルマは新潟に向かいました。

「ロシア村で結婚式があるんですよ。ぜひ見てください。
だから、午後3時までには来てくださいね」
この連載にときどき登場する
ロシア村予約課の“はちもとさん”
そうすすめてくれていました。うーん、間に合うのか。

関越道から北陸道へ、
平野が一面に広がっています。ここまで約3時間。
新潟中央ジャンクションから磐越道に入って福島方面へ。
安田インターまで1時間。もう午後2時半じゃないか。
思ったより遠くだし、時間もかかるなぁ。
安田インターで高速道路を出て10分も走ると、
周りは山、山、山。

前方に「←新潟ロシア村」と書かれたどでかい看板。
500m先からでも確認できるほど大きな看板です。
それなのに道を間違えて1本手前で曲がってしまった私。
ロシア村に着いたのは結局午後3時半。
結婚式には間に合いませんでした。
はちもとさん、ごめんなさい。

ロシア村って田んぼのまんなかにあると思ってましたが、
実際は、山の中でした。
山道を登っていくと
突然目の前にロシアンテイストな建物。
不思議な感じです。

ロシア村にて
山の中に突然現われる建物

クルマを降りると、異国情緒たっぷりの人
(ロシア人スタッフ)が話しかけてきた。
「▲×■★●▲×◆☆・・・」
「???」
このコーナーのバックナンバーで
ロシア語を練習しておけばよかった。
今思えば「ズドラーストヴィーチェ」、
こんにちは、って挨拶してくれたんですね。

ロシア語で話しかけられて気が動転した私は、
「ここにクルマを停めないで!」と言われていると思い、
「ごめんなさい」とマヌケな返事。
さらに、気が動転したまま
「飼育の“はなさん”はどこにいらっしゃいますか?」
と助けをもとめました。

すると、そのロシア人スタッフは、
「ダー、ダー(はい、はい)」と言い、
建物のなかに案内してくれるじゃないですか。
そういえば、ロシア村で働くロシア人スタッフは、
みんな大学を出ていて、なんらかの形で日本語を
勉強してきた人たちだと、前に聞いたかも。
はなさんはロシア人スタッフから
漢字を教わったことがあるって。

日本語でオッケーなのか。
私のお願いも一発で理解してくれたみたいだし。
すごいなぁ、と感心していたら、
案内されたのは日本人スタッフのところでした。
なんだ、日本語分からなかったんかい。

日本人スタッフのお姉さんが
場内アナウンスではなさんを呼んでくれました。
モルモットのエサの笹を採りに行ったり、
動物の世話をしたり、屋外で働いているはなさんは、
内線ではつかまらないそうです。
どこにいるのかさえも、見当がつかないらしい。

しばらくして、入り口から最初の建物までの坂道を
はなさんが登ってきました。

はな 「ハアハア……すいません、遠いところわざわざ。
 来ないかと思った……」。
「さすがにドタキャンはしませんよ」。
はな 「えっ、そうですかー? 私はしますけど(笑)」。

さっそく、はなさんの同僚の飼育スタッフ
(Hちゃん、Tちゃん)が働いている
『ふれあい動物園』の事務所を案内してもらいました。

「こんにちは! はじめまして!
 というか、いつもお世話になっています」。
Hちゃん、
Tちゃん
「あ、こんにちは……」。

なんか反応がにぶい……?
会話も弾まないまま、はなさんと外へ。
みなさん疲れてるんですか?
「カレンダーには明日ギムラさんを案内すると
書いてあるんです、今日来ると思ってないから、
まだ接待モードじゃないんです。気にしないで。
今夜はみんなで吐くまで飲みましょう!」

なーるほど、そーいうことですか。
明日はみんなで私を案内してくれるんですね。
納得&感激。

それはさておき、はちもとさんに謝らなくては。
結婚式が終ると新郎新婦が教会から出てきて、
披露宴の会場に向かうそうです。
その途中で待っていれば、
つき添いのはちもとさんに会えるはず、とはなさん。
しばらくすると、クラッカーの音とともに、
新郎新婦が教会から出てきましたが、
はちもとさんには会えませんでした。

ロシア村にて
なんだか幸せそうな結婚式でした

「はちもとさんには後で会えますよ。
 そうそう、まだ最後にひと仕事あるんですよ。
 アザラシの……」。
そうだ、アザラシ3姉妹に会いに来たんだ!
気が張っていたせいで、忘れかけてました。
「おーっ!!」と大げさな声をあげる私。
浮き足立っています。

バイカルアザラシ館は、ロシア村に入ってすぐ右。
入り口にある教会とつながっています。

「はなさんはアザラシ館とふれあい動物園を
 毎日何往復もしてるんですか?」
はな 「そうです。疲れるんで、今度この坂をスケボーで
 下ろうと思ってるんです。冬はスノボ。
 あ、これはナイショね」。

階段脇には、ボリ、クラ、マリの写真。
あー、この先に3姉妹がいるのね。
そして、階段を下りきると……、
「うお〜!」
3姉妹がフニフニと泳いでました。

ロシア村にて
い、いたーっ!!!

はな 「区別つきますか?」。
「身体に傷があるのがマリで、
 一番大きいのがボリだから、
 残りがクラ」。
はな 「おー、すごいですね。
 そうそう、これからエサあげる時間なんです。
 ちょっと待っててください」。

はなさんが、控え室の小部屋へと入っていきます。
小部屋のなかは魚の匂いがします。
そこで、エサの準備をするわけです。
はなさんがエサのアジを2等分して、
3頭分を別々のボールに入れていきます。
けっこうりっぱなアジです。
バイカルアザラシは淡水に住んでいるのに、
海の魚を食べるんですね。
ちなみに3頭それぞれ、あげるアジの分量が
微妙に違うそうです。

ロシア村にて
3姉妹が喉につっかえないよう
アジを二等分するのも大切なことらしい

はな 「最近では計らなくても、牛丼屋みたいに、
 ぴったりの分量を入れられるようになったんです」。

職人ですねぇ。

はな 「それじゃあ、エサあげるところは外で見たほうが
 いいと思うんで」。

私は言われるまま外に出て
水槽の前で3姉妹をじーっと見てました。
はなさんのアナウンス、
「これから、バイカルアザラシ館にて、
 餌付けを行ないます。ぜひご覧になってください」。
アザラシの餌付けを見ようと、
人がどんどん集まってきます。

水槽のなかでは、左からクラ、ボリ、マリの順に並んで、
エサをキャッチしています。
この並び順は、ずっと変わらないそうです。
やっぱりボス格のボリが真ん中か。
クラに投げたエサを
ときどきボリが横取りしてケンカになってます。
ボリはその場でクルクル回ったりして、
なかなかの芸達者。

おとなしくて、愛くるしいバイカルアザラシですが、
さっきとは明らかに目つきがちがう。
本気なものを感じました。
その目は、アジが入ったボールと
はなさんの手の動きを追っています。
エサをあげる順番を間違えたりすると、
ヒレで水面を叩いて、水をかけて抗議するそうです。
はなさんも真剣です。

ロシア村にて
ケンカしないようにエサを投げる
タイミングにも気を遣うそうです

正味5分の本気バトル。
餌付けを終えたはなさんが外に出てきました。
「実は、水を換えないで待ってたんですよ。
 水抜きしたときじゃないと、
 アザラシに触れませんからねぇ」。
なるほど、水抜きしたときが
アザラシの動きを封じる唯一のタイミングなんですね。
え、じゃあ触ってもいいんですか?
というわけで、いよいよ水抜き。
アザラシ3姉妹に触れる……。
しかし、水を抜くといっても、量がハンパじゃないんです。
水槽が空になるには、すごーく時間がかかるんですね。
あー、時間がゆっくり流れていく。

そのスキにロシア村を案内してもらいます。
まず、結婚式を見逃したスーズダリ教会。
パイプオルガンとステンドグラスが
荘厳な雰囲気をかもしだしています。
内装はそうとう凝ってますね。
結婚式、見たかったなぁ。
はちもとさんとの約束を果たせなかったことが
つくづく悔やまれました。

ロシア村にて
まさに結婚式のための教会、
という感じです


「あ、そうそう、チョウザメの池に網かけなきゃ!」
はなさんはそう言って、教会とマールイホテルの
ロビーを抜けて外へ。忙しいんだなぁ。

そこは、ロシア村の隅っこ。
「こんなとこにいるから、ほとんどのお客さんが
 チョウザメを見逃すんです」。
どれどれ、うわー、いるいる。
なぜかチョウザメとコイが仲良く泳いでます。
チョウザメ、名前はサメですけど、
けっこう可愛い顔に見えてくる。
キャビア食いたい……。だからか。

はなさんがチョウザメの池に網をかけます。
手伝いましょうか?
え、かえって邪魔になる? 見てろって?

ロシア村にて
コイとチョウザメが同居する不思議な池

仕事を終えてバイカルアザラシ館へ戻ると、
水はすっかり抜けていました。
アザラシは床の上をもそもそと這っています。
もう素早く動けないのね、きっと。
うーん、キュート! 今行くから待ってろよ。
はなさんの長靴を借りて、水槽のなかへ。
「さぶい!」。
バイカルアザラシは極寒のバイカル湖に住んでいるので、
水槽のなかは室温、水温ともに
13度くらいに設定されているそうです。
「今夜は、アザラシ3姉妹と
 一緒に寝るつもりだったんですけど……」
私がつまらん冗談を言うと、
「凍え死にますよっ!」
と、叱られてしまいました。

水槽に水をかけて、掃除を手伝う私。
すげえ! アザラシ3姉妹が至近距離から
こちらの動きをじーっとを見てます。
見知らぬ侵入者におびえてるようです。
そのなかで堂々としているのが、親分のボリ。
身体を触っても嫌がりません。
黒目がちな瞳でパチパチとまばたきしています。
ほかの2頭は、私を警戒して
水槽の隅でジッとしています。
はなさんがマリやクラの足を引っ張って
私のそばへ連れてきても、手を離した瞬間に
すごい勢いで逃げてしまいます。陸でも実は素早い……。
「こうなると私でも言うことを聞かせられないです。
 ごめんなさいね(笑)」。

ロシア村にて
こうなったらテコでも動かないんです

ボリ、お前はいいやつだな。
はなさんからアジをもらった私は、それをエサにして
“吻タッチ”や“腹叩き”をやってもらいました。
エサさえ持っていれば、
ボリは初対面でもリクエストに応えてくれます。
この性格、誘拐されやすいかも。
しかもバイカルアザラシはコンパクト。
3姉妹は飛行機でロシア村へ来たとき、
手荷物として運ばれてきたそうです。

ロシア村にて
手のひらに口づけしてくれる、
これが吻(ふん)タッチ

調子に乗って何回もエサやってるうちに、
すぐにエサがなくなってしまいました。
エサがないことがバレると、
ボリは山のごとく動きません。
持ってるふりをしてもダメ。
名前を呼んでも振り向く程度で、
くすぐっても抱きかかえようとしても無視。
エサの切れ目が縁の切れ目。
ボリ、お前わかりやすいやつだな。
「満足しましたか(笑)?」
ええ、満腹ですよ、な、ボリ。
しっかし、バイカルアザラシの脂肪は分厚いよぉ。
やわらかくて生暖かくて、プニュプニュという感じ。
毛はしっとりと濡れていて、油分が多いです。
さすが、極寒の湖で生きていけるわけです。
 
オマエなんかに感心される筋合いはねーぜ、
というアザラシ3姉妹の視線を背中に受け、
まだ仕事があるはなさんと分かれて、
私は水槽を後にしました。
あ、女の子に向かって失礼ですけど、
3姉妹はちょっと獣くさかったですね。


名前を呼べばちゃーんと向いてくれて、
つぶらな瞳で見つめてくれるんですよ

ホテルのロビーではなさんを待っていると、
ロシアの民族衣装(ロシア村の制服)を着た女性が登場。
はちもとさんです。
結婚式に間に合わなくてごめんなさい。

アザラシの水槽へ戻ると
水はまだひざ下くらいまでしか貯まっていません。
「水が貯まるまで時間がかかるので、
 事務所で待ってましょう。
 その間に私は業務日誌を付けますから」。
はなさん、事務仕事もあるんですね。

日誌はアザラシの体調を把握するために
ぜったい必要なものだそうです。
体重が増えたらエサの量をセーブしたり、
下痢をしていたら獣医さんに診てもらったり……、
1日も欠かさずつけているそうです。
はなさんの夢には、アザラシ3姉妹がよく登場するらしい。
それほどアザラシを大事にしているはなさんですから、
日誌に向かう表情はマジでした。

日が暮れ、アザラシの水槽に戻ると、やっと満タン。
きれいな水になって3姉妹もうれしそうでした。
「ほんじゃおやすみ」と、
3姉妹に話しかけているはなさんの目は
水槽をすみずみまでチェックしています。
アザラシは体調が悪いと、
はなさんが帰宅するとき必ずサインを出すそうなんです。
「お腹いたいよー」とかね。
いや、ほんと生き物を飼育するって大変そうです。
お疲れさまでした。

18時30分、ロシア村を出ると、外は暗闇。
地元の街にある居酒屋で
はなさんをはじめとするスタッフのみなさんと、
ビールをしこたま飲みました。
あ、新潟の(ロシア村の)女性はお酒が強かったぁ。

(後編につづく)

1999-10-06-WED

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