天才バカボン

祖父江慎さんのお話 3赤塚不二夫の名前は要らない。

祖父江 赤塚さんのところには
『天才バカボン』文庫版の
お仕事がきっかけで行ったんです。
そこで言われたことがね!
すごかったんですよ!
(机をバンバン叩く)
ほぼ日 へえぇえ!
何だったんですか?
祖父江 「デザインをやる祖父江です」
って言ったら、
「……デザイン???」
ほぼ日 いきなり疑問ですか?
祖父江 そう。
「マンガはね、デザインなんて要らないよ」
って言われたの!
ほぼ日 でも、それまでの赤塚さんの単行本は
ブックデザインは、されてますよね。
祖父江 きっと、
出版社の編集者がやってたりすることが
多かったんじゃないかな。
ほぼ日 あ、そうか‥‥、
雑誌の扉や、書籍の表紙も昔は
編集者の方や印刷所の方が
やったりしてたんですよね。
祖父江 そう。だから、
「デザインなんて、やるとこはないよ」って
赤塚さんに言われたんです。
デザインってのが何なのか、
それはちょっと謎なんだけどもね。
「漫画は安くないといけないし
 たくさん刷ればいいだけだから、
 デザインは要らない」
ほぼ日 ヒィエェェ。
祖父江 「バカボンの絵があって
 バカボンって字が書いてあれば、
 それだけでいいの」
ほぼ日 ガーン。
祖父江 「だから『赤塚不二夫』という
 名前だって要らない」
ほぼ日 なんと。
祖父江 シェーッ! でしょ? 
でね、
「『赤塚不二夫』ぐらいは
 入れさせてくださいよ」
と言ったらね、
「うーん。だって俺、描いてないもん」
「え? 描いてるじゃないですか」
「でも、この絵は高井(研一郎)だし、
 これは古谷(三敏)だし……」
って。
ほぼ日 フジオプロの、
当時アシスタントだったみなさん。
祖父江 全部を自分ひとりで描いたわけじゃないからね。
「それにね、
 赤塚不二夫っていっても
 いまの人は誰も知らないでしょ?」
ですって!
ほぼ日 知ってます知ってます。
祖父江 「だけどみんなバカボンは知ってる。
 バカボンって入ってれば、
 俺の名前なんて入れなくていいんだよ」
って。ね? おもちろいでしょう?
ぼくね、はじめてだったんです、
そんなこと言われたの。
ほぼ日 それは第1巻の制作のときですか?
祖父江 奥付を見ればいいんだ。
どれだ!
ほぼ日 1994年頃。
祖父江 ばっちこーん。
ほぼ日 15年ぐらい前‥‥だけど、
15年前というと、
エディトリアルデザインというのは、わりと
あたりまえなものになってましたよね。
祖父江 そうなんだけどねぇ。
そういえば
その2〜3年前に、ぼくは
石ノ森章太郎さんと打ち合わせしたことがあるの。
結局、その仕事はなくなっちゃったんだけど。
ほぼ日 『仮面ライダー』の。
祖父江 石ノ森さんは、トキワ荘で
赤塚さんとすごく仲がよかったんです。
赤塚さんがギャグ漫画を出すきっかけも、
石ノ森さんに勧められたことが
きっかけだったらしいんですが。
で、それは、お・い・と・い・て!
ほぼ日 お・い・と・い・て(笑)。
祖父江 ぼくが、いちばん大切にしていた
石ノ森章太郎さんの作品は、
虫プロから出てた
『ジュン』っていうマンガなの。
本文用紙が全編グレーの色上質、
上製本で函入りだったんです。
ほぼ日 豪華ですね。
祖父江 そのブックデザインが、
すてきだったんですよ。
最初に石ノ森さんにお会いしたときに、
「グレーの本文用紙に印刷された『ジュン』は、
 高かったけど、お小遣い貯めて買いました。
 いまでも宝物です」
と言ったら、すごく喜んでくださって、
そのときに石ノ森さんが言ったことが、
赤塚さんと正反対の逆だったの。
ほぼ日 正反対の逆?
祖父江 そうそう。
「マンガというのは、たくさん刷って
 読み捨てられるような文化ではないと思う。
 マンガもひとつの芸術だと、ぼくは思ってる」
ほぼ日 それは、また、逆ですね。
祖父江 反対の賛成くらい、石ノ森さんもすごいんです。
でも、石ノ森さんと
とても仲のよかった赤塚さんは、
「漫画は、安くたくさん
 読んでもらえばいいんで、
 芸術でも何でもないよ」
って言う。
そのギャップがおもしろいなぁって!
‥‥感動でしょう?
ほぼ日 「名前も要らないし、アートじゃない」
という人と
「アートとしてちゃんと出版してほしい」
という人と。
祖父江 おもしろいんだジョ〜。
(つづきます)
キャラクター紹介

目ン玉つながりのおまわりさん

『天才バカボン』の連載当初、
おまわりさんはいろんなキャラクターが
いたのですが、
徐々にこの「目ン玉つながり」に
集約されていきます。
ピストルの弾丸消費量は、きっと日本一。
目もだけでなく、足も手も
ズバババとつなげて
「タイホする!」と叫んで撃ちまくる、
とても凶暴な性格です。
『天才バカボン』だけでなく、赤塚作品に
幅広く登場します。

2009-08-24-MON