天才バカボン

祖父江慎さんのお話 7
「いまの赤塚さん」を
やらなくちゃ。

ほぼ日 『おそ松くん』も、いいマンガですよね。
祖父江 ジーンときちゃう作品が多いですね。
『おそ松くん』の作品は、
笑いのなかに感動がありますね。
イヤミもチビ太もいいやつなんですよ。
ほかにも独特なキャラクターがいっぱい。
主人公「おそ松」と同じ顔が5人もいて、
どれが誰だかわかんない。
あれは面倒だと思うでしょ?
ほぼ日 はい。
同じ顔、同じポーズを6人、
毎回描くのが。
祖父江 コピー機とか使ったほうが
楽じゃんって思うでしょ?
ほぼ日 思います。
祖父江 赤塚さん、
ちゃんとコピーを使ってたんですよ。
ほぼ日 あの時代に。
祖父江 「6人も描くなんて、たいへんだったでしょう」
って訊いたら、
「コピーも使った、使った」
と言ってました。
コピーで複写した顔を
ペタペタ原稿に貼って
体だけ描いたりしてたんだよ。
でも、大きさとか角度を
合わせるのがものすごく難しくて、
「結局描いたほうが早かった」
ほぼ日 ははははは。
祖父江 だからね、一瞬だけ
コピーの時代があるんです。
それが『おそ松くん』コピーづかい時代!
ぼくが会場デザインを担当した
松屋銀座の「追悼 赤塚不二夫展」では
その時期の原稿も展示してます。
ほぼ日 それは、パッと見たんじゃわかんないですか?
祖父江 ううん、わかる、わかる、
すぐわかる。
昔のコピーって、すごく変色しちゃうから
コピーの顔だけ真っ黒になってます。
おもしろいよ。
ほぼ日 ところで、その松屋銀座の
「追悼 赤塚不二夫展」、
会場デザインのご進捗は順調ですか。
祖父江 ずんつぉー。
ほぼ日 ずんつぉー‥‥ですか。
祖父江 はい。いつもよりずんつぉーですよ。
なんだか、展示したいものが
多過ぎて困っちゃってるの。
結局、ものすごい点数になっちゃって
普通の1.5倍ぐらいあるんじゃないかな。
入りきらないから
縦3段で展示してるとこもあります。
見るところが多すぎて
帰れないかもしれないよ〜(笑)。
ほぼ日 そんなに‥‥。
祖父江 ゆっくり読んでたら、きっと出られないよ。
ほぼ日 出られないんですか。
一周忌ということもあるし、
ファンのみなさんも待ち焦がれていますよね。
祖父江 うん。一周忌ですものね。
赤塚不二夫展やるってことで──
あのね、こういう展覧会ってね、
ともすれば「懐かしもの」に
なりがちなんです。
でも、それじゃダメでしょ。
いまの赤塚さん展を、やらないと!
ほぼ日 いまの。
祖父江 いまの。
懐かしんでくださいじゃ、
赤塚さんは、きっとOKしてくれない。
山田一郎だった時代もあるし、
社長先生と呼ばれた時代もあるんですが、
赤塚さんは、いろいろ変わっても、
まだまだ、やってるんですよ。
ほぼ日 赤塚さん、亡くなったと思ってたけど‥‥
祖父江 そういえば、死んじゃったのだ。
だけど、まだ現役なのだ。
ほぼ日 そういうつもりで、
銀座に行けばいいですね。
祖父江 赤塚さんはね、
みんながしぼんでいくのは
「よし」としなかったはずです。
ほぼ日 それは、マンガを読めばもう、
ほんとうにわかる気がします。
祖父江 だから、懐かしんでほしいなんて
思ってないと思うんだ。
赤塚ダマシイが
いま、どう息づいてるのか、
見に来ていただいたお客さんが
どんな影響を受けちゃうのか。
そんな展示がいいんだと思うんです。
とにかく、まわりの誰かがやるにしろ、
赤塚さんご自身がやるにしろ、
「こうでなくちゃいけない」ってことは
まず言わないで、
「これでいいのだ」ですもの。
だからこそ、時代が変わったり
赤塚さんがこの世でないところにいても
展開していけるパワーがあるんだよね、きっと。
ほぼ日 それは、昔から
自分をあまり前に出さない
赤塚さんの性格も、関係しているんでしょうか。
祖父江 そうだよねぇ。
自分の存在なんてどっちでもいい、
ってくらいまでいけちゃったことが、
死んでても、生きてても
どっちでもOK!ってくらいの
すごさにつながってるってことなのかなぁ。
(つづきます)
キャラクター紹介

おそ松

おそ松は「おそ松くん」に登場する
六つ子のうちのひとり。
六つ子の名前は、それぞれ、
おそ松、一松、カラ松、
チョロ松、トド松、十四松。
どれがおそ松なのか、見分けはつかない。

2009-08-29-SAT