吉本ばなな&糸井重里 対談
ほんとうの
おとなになるために。
糸井
まほちゃんが出した
『おとなになるってどんなこと?』
読んだんだけどね、
読みやすいし、最高だった。
吉本
ありがとうございます。
糸井
あれ、学校とかで配ればいいのにね。
うちでも、ふだんは本を読まない社員が読んでたよ。
これ、読めるもんなぁ‥‥読めるように
書いてあるのもいいよ。
まほちゃん、これは、頼まれて書いたの?
吉本
出版社から依頼があって、書きました。
「高校生から読める新書のシリーズで、
 いまの子どもたちに向けて、書きませんか」
糸井
そうか‥‥読んでると俺はやっぱり、
お父さん(吉本隆明さん)を思い出すね。
吉本
そうですか?
糸井
お父さんを彷彿として、ほろりとしちゃって、
泣きゃあしなかったけど、泣きそうになったなぁ。

お父さんは、
自分の書きたいことを書く、という人だったけど、
途中から、
「生き方」について話すというジャンルの
仕事をはじめたよね。
それはきっと、ご自身がからだを
悪くしてからのことだったと思う。
吉本
溺れてからでしょうね、やっぱり。
(註:1996年8月、毎年夏に海水浴に訪れていた
 伊豆の海で、吉本隆明さんは溺れました。
 71歳のことです)

そのあと目が悪くなっていって‥‥。
糸井
そうだね。
きっとその前は、生き方について
お父さんが何かを人に言う、なんてことは
なかったと思うんだ。
吉本
うん。しゃべってないと思う。
糸井
吉本隆明さんと『悪人正機』という本を
作らせてもらったのも、ちょうどそういう時期だった。
いま、こうしてまほちゃんが自動的に、
「あのジャンル引き継いでるんだ!」と思ったよ。
読んで楽になるし、真剣にもなれる。
隆明さんとそっくりだよ。
吉本
それはぜんぜん、
自分では思ってなかったです。
糸井
そうなの?
「お父さんに言われたことと同じだなぁ」
とか思わなかった?
吉本
思わなかったです。
たぶんお父さんは
私が何を考えてるかを
ほんとうにはよく知らなかったし、
深いところでは知っていても
わからなかったような気がする。
糸井
そうだね。
邪心のないひとつの純粋な魂として、
「子どもにこう言われたんだ」
「びっくりしたことがあります」
という話はしてたけど‥‥。
吉本
うん、そうですね。
糸井
でも、この本のうしろのほうに出てくる話なんて
「吉本さんも、すっかり同じこと言ってたぞ」
と思ったよ。
吉本
ほんとうですか?
それはまず私がお父さんの書いたものを
そんなに読んでない‥‥‥‥‥‥っていうのが
どうなんだろうか(笑)。
一同
(笑)
糸井
ぼく自身が吉本さんから直接聞いていたからこそ
同感した部分も、もちろんある。
だけどそれよりももっと自分の実感として
「まほちゃん、それは俺も同じ気持ちだよ!」
って思うことも多々あったんだ。
吉本
あぁ、それはよかった。
糸井
「ほぼ日」やぼくの書くものを
読んでる人だったら
「糸井さんが言ってることとダブりますね」って、
誰でも言うと思う。
ただし、ぼくのほうがまほちゃんより奥手だから‥‥
吉本
奥手?
どう奥手なんですか?
何が?
糸井
おれはやっぱりずっと、子どもだった。
吉本
そうですか? ははぁ‥‥。
糸井
まほちゃんは自分がおとなになった瞬間を
はっきりと覚えてる、って本に書いてたよね。
もし自分にああいうことがあっても、
見すごしてたと思う。
吉本
そうですか?
糸井
ちいさくいろんな段階はあったんだろうけど、
ぼくがおとなになったのは
50すぎてからです。
吉本
50‥‥。
糸井
まほちゃんは、もうすぐ50になる?
吉本
いま、51歳です。
糸井
あ、なってる!
吉本
うん、いつの間にか。
糸井
50までいくと、年齢的には、
おとなにならざるを得ないですね。
「子どもが生まれたら、おとなになりました」
という人がよくいるけれども、
そうなっても、おとなにはなれないよね。
親だから自動的におとなになるってことは、
ないと思う。
吉本
うちのお父さんは
私が48歳になったときに、
「48歳ですよ」
と言ったら、
「君も立派なおばあさんになったな」
って(笑)。

「昔だったら、48は
 もう立派なおばあさんだ」
と言われて、
「すいませんねぇ」
と応えたのをよく覚えてます。
糸井
(笑)そうかぁ、可笑しいね。

まほちゃんがこの本で書いていることの全体に
1本通ってる筋は、
ふた文字で言えると思います。
それは「自由」です。

どこまで行ってもまほちゃんは、
「自由」の話をしてるんです。
吉本
うん、うん。
糸井
最晩年の吉本(隆明)さんも
「いちばん言いたいのは、やっぱり
 『自由』ってことでしょうかねぇ」
って、絞りに絞って、言ってた。
吉本
へぇ‥‥。
糸井
だから、ぼくには
のりうつってるみたいに見えて(笑)。
吉本
のりうつってない、ない(笑)。
(つづきます)

2015-12-10-THU