- まほちゃんが
「年をとってよかったなぁ」と思ってるのは、
何かを得たからでしょ?
失ったからじゃなくて、得たから。
- ええ、得たからですね。
何を得たんでしょう?
‥‥贅肉?
- 一同
- (笑)
- うーん‥‥なんとなく、あるときから急に
いろんなことがどうでもよくなったんですよ。
だから、わりと客観的なことが
言えるようになったのかもしれないですね。
- 年をとると、鈍くなっていくこともふくめて、
自分の道具の数が
ものすごい分量になっちゃうでしょ?
昔のものを「捨てた」と思っていても
それがある場所はやっぱり知ってる、
みたいなところがある。
- たしかに「いましかないもの」って
そんなにないかもな、と思います。
「人生はいま、いまの瞬間しか」
ということがあったとして‥‥
まぁ、それはほんとうなんです。
だけど、その瞬間に
いままでの全部が入ってるから
「いましかない」のであって、
「瞬間」というものは
その「ちいさいもの」でしかないわけではない、
ということを、年をとればとるほど感じます。
- ほんとうにそうですね。
海辺の恋人たちが
「これが世界のすべてで、時間のすべてだ」
というふうに思っているのは、
間違いじゃないわけ。
でも同時に、そこからちょっと離れたところに
イカを焼いてる人がいるわけだよね。
イカを焼いてる人側にあるものは、
「恋人たち」からは排除されてるんだけど、
でも事実は、含んでいます。
- 必ず含まれてます、
匂いとかしてくるし。
- 両方ある。
俺は海辺の恋人にもなろうとすればなれるけど、
「それは通路をコンクリートで固めてるだけなんだよ」
ということがわかってしまっている。
おとなになればなるほど
「増えてる」というのはほんとうです。
この頃は特にそう思うようになったんですよ。
だから、増えた状態の
「イカがわかってる」人でないと、
まほちゃんみたいな本は書けないと思うんだよ。
『おとなになるってどんなこと?』は、
悩みに悩んでいる高校生が読むのと同時に、
「この子は、何を悩んでるんだか」
と言ってる親も読みます。
なぜなら、親が読んでも
大丈夫な書き方をしてあるから。
- どちらかと言うと‥‥親に。
- 読んでほしいですよね。
- うん。
ゆるめてほしいなぁって思う。
やっぱりね、マンガみたいなことが多いんで。
「みんな、気がつこうよ」
「それってマンガじゃん?」
と言いたい。
「日焼け止めを塗るきまりだから塗ろう」
「不潔だから、雪触っちゃだめ」
「インフルエンザウィルスが飛び散るから、
ごはんを食べたまましゃべっちゃだめ」
とか、みんなほんとうに守ってるのかな?
そんなことがあまりにも多い。
そういうのを守らないのが
「子ども」だったんじゃないのかなぁ。
- 親がまず、管理者の役を与えられるんだよね。
管理者として優秀になることが
親として優秀になることだと錯覚させられてて。
- でもそこで、真っ向から
「それは違うと思います!」
と言うんじゃなくて
「抜け道がいっぱいあるからね」
というようなことを、
この本で言いたいなと思っていました。
- そうですよね。
真っ向からぶつかったとしても
答えは出ないんだよ。
それから、さらに、
真っ向からぶつかることが本業になっちゃう。
- あぁ、「真っ向からぶつかる業」でしょ。
- そう。
「真っ向からぶつかる業」の
プロがやってくるんだよ。
- うん(笑)。
- 「私に任せておいてください」とかいってね。
- 「私たちの組合に入って、
世の中の仕組みを変えるために
真っ向からぶつかるセミナーを
やり続けませんか?」
って。
- 「世の中の人って、ほんとうに
真っ向からぶつからなくて、腹が立ちますよね」
と言われて、心まで支配されちゃうんだ。
すると、向こうのほうでマンガ読んでる人のこととか、
だんだん腹が立ってくる。
でも、こういう話は、
吉本(隆明)さんがずっとしてた話だね(笑)。
- ほんとうですね、そうかも。
- 同じことをまた、
娘と、近所のオッサンが。
- はい(笑)。
- こういうことについて、お父さんは
「苦しむのにはきっと理由がある。
そこをちょっと考えると抜け出られるかもね」
といって、いろんな抜け道を考えてたよね。
「解決するには技術を磨くやり方もあるよ」
「水泳ができたら、あそこは
川渡って逃げられるよね」
みたいなことも言ってた。
- そうですね。
- そうすると、
「単なる技術論じゃないか」って
怒ったりされるんだけどね。
- また、真っ向から来られちゃう。
- 人がいつどこで、何をしていようが、
「感じ悪く真っ向からせめる」なんて、
誰もできないんだよね。
- その人の人生だからね。
でも、真っ向から来る人たちも、
個別に会えば、わりとみんな
楽しそうに暮らしてますよ。
- そうだよね。
人がそういうことを「言う」ってことはわかるんです。
ぼくも18歳くらいのときに学生運動を経験して
人をせめがちな場所にいましたから。
若い頃って
むずかしいと意識しないで、むずかしく生きてたなぁ。
やるせなかったね。
- いまの時代の若者は
さらに、気が遠くなるくらい大変そうですね。
でも、たとえば、デモに行ってる人もいれば、
ゴロゴロしてる人もいる、
まったく関心がない人もいる──、
その隙間に何かが生まれるわけです。
隙間をとにかく奪っちゃいけないと思ってます。
(つづきます)
2015-12-15-TUE