- 引っ越し仕事は苦手かもしれないけど
事務手続きとかは、
まほちゃんは得意だよね。
- 大丈夫なほうです。けっこうコツコツやりますよ。
何回も役所に行って、
「今日はここまで進んだ」みたいなこと、
そんなにできなくない。
姉と違って、私のほうが大丈夫。
- あ、お姉さんは、逆だね。
まほちゃんはどちらかというと旅人で、
お姉さんは定住して、
最高のユートピア作ってる、みたいなタイプ。
だって、お姉さんがやってる
猫の避妊手術の範囲はすごいよ。
あれ、そうとうなエリアでしょう?
- うん。網で取ってますもんね。
客観的に見るとすごいです。
- あそこまで広くするのは、
定住人じゃないとできないね。
- 2階で寝たきりだった、母が。
- 「よその猫が来て食べちゃうと困る」
と言って、巨大水鉄砲で
ベシューッ! って
猫めがけて放水してるのを見て、
ほんとうにすごいなと思いましたね。
- はぁぁ(笑)。
- あれはもう、いいとか悪いとか、
近所迷惑とか、
いろんなこと言えない状態で。
「おばあさんなんだから、やめなよ」
と言いたくなるような
カラフルな水鉄砲なんですよ。
それでブシューッて猫を追い払ってる。
そんな家の中になってた(笑)。
- 定住も極まれり、みたいな。
- ほんとに‥‥ただ、その絵づらがすごかったんです。
- 一同
- (笑)
- なんか(笑)、姉は姉で、
夕方になると
なまり節の大きいやつを
ボーンボーンって
壁の向こうのお墓に向かって投げてて。
- すごいなぁ。
- お墓に向かって
なまり節を投げるという
そのビジュアルが、
「これはすごいわ」と。
- あそこはやっぱり
ふたりしか国民のいない国だったのかもね。
- そうですね。
私はちょっと、そういう大胆さは持ってない。
私はどちらかといえば、
そういうことだけはほそぼそ悩みます。
「ちょっと、悪いんじゃない?
墓の上になまり節が乗ったら、嫌なんじゃないの?」
とか思って、ぐずぐずするタイプ。
あんな思い切ったことはできない。
- あのふたりの大胆さは、
言葉の端々に出てましたよ。
いつも発言ひとつひとつが
先の先の結論を出してました。
それは一貫してましたね。
- そうなんですよね。
- どっちでもないのが吉本(隆明)さんですね。
お父さんも、お母さんが水鉄砲打ったりしてるのを
見てたわけですか?
- あるところから、
しかたがないと思ったみたいです。
- 吉本(隆明)さんは、
その「ふたりだけの国」の
1階という出島に移民した人、ですね。
- うん。間借りしてた人ですね。
- お父さんは、そのへんまとめて
「距離の問題」という言い方で語っていたなぁ。
猫との距離をどう取るかは、絶えず動いている。
人が「モテるかモテないか」という問題も
距離の問題で話していました。
お母さんとの間柄も、距離の問題だったんでしょう。
- うん。
- 俺が直系として、お父さんから学んだのは
そこじゃないかな。
さんざん考えて出した答えだろうから、
教えてもらってよかったなぁ。
ああいう人がいて、よかったね。
まほちゃんのこの本も、お父さんの直系。
お母さんからも、学んでる?
あの「ま、いいんじゃない?」という思い切り。
- うん。
だって、お母さんは死に方もすごかった。
- 食わなかったんでしょ?
- いや、最期のほうはすごい食べてました。
- 最期は食べたんだ。
- うん。エンジョイしてました。
薬をお酒でのんでたし、
最期までタバコもバリバリに吸ってた。
- で、寝るようにして、起きてこなかった。
- うん。貫いたなぁ。
私なんかは、
「少しは運動したら」
「お酒とかは飲まないほうがいいんじゃないの」
とか、平凡なことをつい言っちゃうんだけど、
全部貫いたまま、けっこう楽しそうにして、
死にざまも自然だった。
- あの人にはぴかぴか光る玉のような
魂みたいなものが1個あってさ、
それが守られていれば、あとは全部OKだったよね。
- もうなんでもいい、って感じ。
すごいですよ、ほんとうに。
「いろいろたいへんだし、きっと苦しむんじゃ」
と思ったけど、ぜんぜん苦しまなくて。
おそろしい、おそろしい、人物たちに育てられて、
1冊の本を書きました(笑)。
- 姉も含めて、吉本家は
四者四様にものすごいわけでさ(笑)、
誰も割食ってないとも言えるんですよね。
- そうですね。
- そこの、荒波しかないような海でね、
とれた牡蠣ですよ、この本は。
- ほんとうにそうですね。
- 獲りにいくには大変だけど、
まほちゃんが自分で持ってきてくれたから、
5回でも6回でも読めばいいと思う。
- なんか、適当なことばっかりしゃべっちゃったけど、
大丈夫かなぁ。
- とてもおもしろかった。ありがとう。
- ありがとうございました。
- ありがとうございました。
(おしまいです、ありがとうございました)
2015-12-17-THU