ネコノヒーやスキウサギといった、
かわいいキャラクターを描く。
あるいは、深夜、作者の部屋に
郵便ポストやオムライスがやってくるような
シュールで不条理な話も描く。
本格的なレシピが公開される
ちょっと変わった料理漫画も描くし、
ボスのうさぎの願いを子分のうさぎが
叶えようとがんばる絵本も描く。
いろんなジャンルの作品を
それぞれ異なる作風で発表する
キューライスさんだけど、
総合的にいえば、独特の作品を描く人、
という認識があるんじゃないかと思う。
つまり、ちょっとヘンな漫画。
ユニークで、シュールで、
マニアックで、エキセントリック。
じわっと怖かったり、不気味だったり。
そういったふつうじゃないところ、
従来の価値観に収まらないとんがったところは、
キューライス作品の大きな魅力だ。
しかし、その一方で、
キューライスさんの作品は、
大衆性を大いに持ち合わせている。
作品をもとにしたグッズは大人気だし、
新作をTwitterで公開するとあっという間に
たくさんの「いいね」がつく。
つまり、キューライスさんは、
マニアックだけど大勢の人に愛されていて、
シュールだけどポップで、狭いけれど広い。
それって、ものをつくる人なら誰しも憧れる
最高の立ち位置なんじゃないかと思う。
その「キューライスブレンド」ともいえる
絶妙の配合がなぜ成立するのか。
それは、キューライスさんが
自身のクリエイティブの根っこのところで、
古典や王道をまっすぐに
リスペクトしているからではないか、
とぼくは思っている。
長く作品を読んでいる人ならご存知のように、
キューライスさんの作品には
しばしば作者の好みがてらいなく反映される。
たとえば、『すず色のモーニャ』のなかにも
こんなふうに。
▲ドロシーの回想シーン。『アベンジャーズ』リスペクト。
「メタルマン」は「アイアンマン」ですね。
「メタルマン」は「アイアンマン」ですね。
▲ジャッキー・チェン主演の「木人拳」の
特訓シーンへのオマージュだと思います。
特訓シーンへのオマージュだと思います。
▲そしてもちろん『すず色のモーニャ』全体が
「オズの魔法使い」をモチーフにしています。
「オズの魔法使い」をモチーフにしています。
キューライスさんに限らず、
ものをつくる人のなかには、
先人たちがつくったさまざまな作品が溶けていて、
生み出されるものには
その影響がいろんなかたちでにじみ出る。
それは、オリジナリティとはまったく別の話で、
唯一無二の個性を発揮するような作家も、
過去のマスターピースへの愛情をたっぷり込めた
オマージュをしばしば表現したりする。
ぼくは、そういう、
作家がそのジャンルへの愛情を
自身の作品のなかについつい表現してしまうことが
とても好きである。
述べたようにキューライスさんは
作家としてはとても多作で、
さまざまな作品をさまざまな作風で生み出す。
そしてそのなかには、
自分が大好きな作品のエッセンスが
いろんなかたちで表れる。
ぼくは、『すず色のモーニャ』は、
キューライスのなかにある「物語への愛情」が
とても幸運なかたちで結実した作品だと思う。
この物語は、終わる。
おかしな言い方だけど、
その「終わる」ということに、
ぼくはキューライスさんの強い決意を感じる。
おそらくキューライスさんが好きな、
尊敬すべき物語がしっかりと終わるように、
この『すず色のモーニャ』も終わりに向かって進み、
目指した場所でついに終わる。
なんというか、それは、あらすじではない。
終わることへ向けて、
作家が編み上げたものだ。
辻褄や、意外性や、伏線といった
細かい収支ではなく、
海流のようなおおらかな力によって
しかるべきところへ運ばれていくような帰結だ。
そういう大きな物語へのリスペクトが、
この『すず色のモーニャ』には凝縮している。
いってしまえば、この凝縮は、
多作なキューライスさんが
たまたま生み出した偶然だとぼくは思う。
ものをつくっている人は、
何かについての思いや愛情を、
そんなに簡単にかたちにできるものではない。
好きであればあるほど、尊敬すればするほど、
それを素直に表現することは難しくなる。
きっと、作家が長く考え込んでいたら、
『すず色のモーニャ』は生まれなかっただろう。
いろんな作風で、大小さまざまな作品を
どんどん生み出しているキューライスさんだからこそ、
「大きな物語」へのまっすぐな表現が、
なにかに押し出されるように生まれたのだと
ぼくは思う。
たくさんバットを振っているバッターが、
あれこれ考えることなく自然にスイングして
ジャストミートした打球が
ものすごくきれいな放物線を描いて
飛んでいくみたいに。
たくさんのユニークな作品を
どんどん生み出すキューライスさんが、
ついに描きあげたこの愛と魔法の物語を、
ぜひ、たくさんの人に読んでもらいたいです。
ずいぶん長く書いてしまってすみません。
本には、オモコロで連載された本編を完全収録のうえ、
描きおろしの後日談である
「トトの大作戦」も掲載しています。
物語を豊かに補完するこの描きおろしは、
連載を読んでいた人もきっと満足すると思います。
『すず色のモーニャ』を
どうぞよろしくお願いします。
ほんと、いいですから。
2021年11月 永田泰大