『すず色のモーニャ』について。 『すず色のモーニャ』について。
キューライスさんの最新作、
『すず色のモーニャ』に
こころをぎゅっとつかまれた者として、
この傑作をすこしでも多くの人に知ってもらいたい。
興味を持ってもらうきっかけになればと思い
ほぼ日の永田が紹介と感想を書いていきます。
キューライスさんがついに描きあげた
愛と魔法の大冒険活劇をぜひ読んでください。
#2 この物語を描ききりたかったのだと思う。
たとえば、愉快な四コマ漫画が、
連載が長くなるにつれて
ひとつの大きな物語をかたちづくっていくことがある。
読む人たちは各回のエピソードと
全体の大きな流れの両方をたのしむことができる。



キューライスさんの作品のなかでも、
『チベットスナギツネの砂岡さん』や『悲熊』など、
そういう傾向があるものは多いと思う。



基本は毎回のエピソードをおもしろがりながらも、
だんだんキャラクターが増えていったり、
過去や設定が明かされたりすることをたのしむ。



『すず色のモーニャ』も
そういう感じなんだろうとぼくはうっすら思っていた。
けれども、連載がはじまってからわりと早い段階で
「いつもの感じ」ではないことに気づいた。



抽象的な言い方になるけれど、
『すず色のモーニャ』はどことなく
「物語が先を急いでいる」のだ。



といっても、
びゅんびゅん話が進むというわけではない。
キューライスさんならではの独特の間や、
そんなところにたっぷりコマをつかいますか、
というような場面はもちろんある。



とりわけ、ドロシーの飼い犬のトトがしゃべりだすと、
コマの無駄遣いが加速するのがたまらない。
トト、ほんと、おもしろい。
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しかし、そういう雑談をたのしみながらも、
作者にはおそらく目的地が
見えているのだということが
読みながらはっきりと伝わってくる。
気を抜くとその道すじを外れてしまうから、
横道や行き止まりのおかしさを表現しつつも、
目指す場所に向かって歩を進めることを
いつも意識しているように感じられる。



『すず色のモーニャ』の底には、
物語がずっとあるスピードで流れている。
キューライスさんの作品を読んでいる人ほど、
なにかこれはいつもと違うぞ、とうっすら感じる。



そしてそれは、展開の多さや進行の速度ではなく、
たとえば切なさの表現となってにじみ出る。
大きく流れる物語特有の、ちょっと切ない感じが
『すず色のモーニャ』という物語の
あちこちにアクセントをつける。
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たぶん、キューライスさんは、
この物語を速く描ききりたかったのだと思う。
息継ぎせずに泳ぎきりたかったのだと思う。
つい寄り道したくなる自分をおさえて、
モーニャとドロシーの運命を
最後まで導いてあげたかったのだとぼくは思う。



そういった、物語の根っこのところに流れる、
ある種の性急さのようなものが、
この『すず色のモーニャ』という物語を
かけがえのないものにしているのだ。
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『すず色のモーニャ』は、
キューライスさんの作品にしてはめずらしい
「長編」の漫画なのだけれど、
そうはいっても、この1冊で完結する。



ほかの漫画に比べれば、
短いとさえいえるかもしれない。
だから、これ以上、先の話は具体的にはもう書かない。
(ていうか書けない)



かわり、ひとつ、エピソードを。



連載中、物語が思わぬ方向へ展開していって、
ぼくはどきどきしながら更新を待っていた。
そして、ある回の最後のところで、
びっくりしてしまった。



ぼくは以前、キューライスさんに
お仕事をお願いしたことがあったので、
連絡先を知っていた。



それで、漫画の読者としては
ちょっと反則だと思うのだけれど、
思わずキューライスさんにメールを出した。
反射的なメールだったから
「驚きました」という程度の短い文面だった。



ほどなくして返ってきた、
キューライスさんからの返事も短かった。
「辛いです。」とそこには書いてあった。



そういう物語を、
キューライスさんは描ききったのだと思う。



長くなってしまって、すみません。
もうすこし語りたいことがありますので、
あと1回分、続けますね。
(次回につづきます)
2021-11-25-THU
すず色のモーニャ
キューライス
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11月30日発売
定価 1540円(税込)

ほぼ日ブックス

ISBN 978-4-86501-605-5

※ほぼ日ストア購入特典

「すず色のモーニャ特製蓄光シール」




引っ込み思案の魔女モーニャと
元気な女の子のドロシーが
思いがけない運命に巻き込まれてく‥‥。

『スキウサギ』『ネコノヒー』といった
数々の人気キャラクターを生み出した
キューライスさんが
ついに描きあげた愛と魔法の大冒険活劇、
『すず色のモーニャ』が本になります!

オモコロで連載された本編を完全掲載し、
描きおろしの後日談「トトの大作戦」も収録。
一般書店とほぼ日ストアで11月30日同時発売。
どうぞおたのしみに!