先輩、後輩、そしてなかよし。
たのしい仲間といっしょに一泊だけ、
緑あるところに出かけてみましょう。
おなじものを食べ、火をたいて、
終わりのない夜をむかえます。
ふだんとちがうおしゃべりが花開き、
いつの日か、
「そういや、あんなこともしたよね」と思い出す
時間になるにちがいありません。
- 南
- 俺には収集の趣味はないと思ってたんだけど、
子どものころに、どういうわけか火薬をね。
- みうら
- 火薬?
- 南
- 集めちゃったんだよ。
- 糸井
- それは怖いね。
- 南
- 連発の、クルクルって巻いてあるやつでね。
- みうら
- はい、はいはい。
- 南
- 運動会でピストルで鳴らすやつとおんなじ。
黄色や緑や赤の、
いろんな色がついてて、
子ども心に気に入ってたんだろうね。
火薬を入れる袋を
母親に作ってもらってたくらい。
- みうら
- 火薬の袋?
- 糸井
- そりゃ危ないよ。
- 南
- そうだよね、お袋も、
危ないと思わなかったんだろうか、と
大人になってから考えたんだけど。
- みうら
- そうですよね。
- 糸井
- さすが伸坊んちのお袋さんだ。
- 南
- 実際に危ない目に遭ったんだよ。
色別に分類しなおしたときに発火して。
爆発まではいかないけど、
バーッて燃えるじゃん。
やけどもした。
それで、集めるのは
よくないと思っちゃったんだね。
- 糸井
- そうかぁ。
- 南
- 俺にはそういう傾向があるんですよ、
ひとつの経験で、そうと決めちゃう。
- 糸井
- 伸坊、踏ん切りがいいんだよ。
- 南
- そうなのかもしれないけど(笑)、
それでまぁ、ずっとものを集めることはしてなくて、
美学校に行って、
赤瀬川原平さんの生徒になった。
赤瀬川さんはいろいろ集める人だった。
台所マッチがおもしろいなんて言うんだ。
マッチを道で拾ったらしくて、
トラが糸巻きにじゃれてる絵でね。
- みうら
- はい、はい。
- 南
- その話を聞いた生徒が
どこかからマッチを持ってくると、
赤瀬川さんが「交換してあげるよ」という。
というより、さらにもっと
強制的な感じで集めててさ。
- みうら
- はい、はい(笑)。
- 南
- 俺は別にマッチなんか必要でもないし、
先生だからということで
いくつか持っていくと
「じゃあ」って、違うのをくれる。
するとなんだかマッチが増えるわけだ。
増えてくると、
「違う模様も欲しい」なんてことになってくるのね。
集めるのって、不思議だよね。
- みうら
- 増えてくるとね。
それはすごくよくわかります。
- 南
- 台所のマッチに関しては、
現行で出てるデザインはある程度決まってるから、
あるところまで行くと、
頭打ちになるんだよ。
- 糸井
- あぁ、精一杯になるんだ。
- 南
- ちょっと田舎のほうに行ったりすると、
「同じ図柄だけどこんなマークが入ってる」とか、
そういうことになってくる。
- みうら
- デザインの細かいところが違ったり。
- 南
- そういうことをみんなが言い出して、
ほとんど同じに見えるものを
どんどん増やしていって、
そのうちマッチ会社に
買いつけにいったりするやつも出てきた。
- 糸井
- あぁ。
- 南
- 新しいマッチがあると聞いて
慌てて買いにいく夢まで見てた。
だから、みうらさんがヘビに対して言うように、
数が集まったところで変化する感じは
よくわかります。
- みうら
- 化学変化するんですよね。
マッチだったら、
アイドルのマッチにいったりすることも、
あるじゃないですか。
- 糸井
- 近藤真彦ね。
- 南
- うん、それもわかる(笑)。
- みうら
- そっちいったときに、
「あ、きたきたきたきた」と、
自分でうれしいんです。
- 南
- いまみうらさんが集めているものは
なんですか?
- みうら
- 打ち出の小槌です。
よく田舎の家の床の間に置いてあるでしょ?
前から「要らねぇな」って思ってたし、
うちの家に1個でも要らないのに、
3個だったらもっと要らないんだろうなと思って
集めだしたんですよ。
- 南
- あぁ、あぁ、いいですねぇ。
- 糸井
- はははは。
- みうら
- 好きじゃないけど、
集めだしたら気になります。
いろんなものが打ち出に見えてきて、
最終的に地下鉄で、
なんだか打ち出のポスターが
貼ってあるような気がして、
振り向いたらドライヤーだったんですよ(笑)。
- 糸井
- わはははははは。
- みうら
- それは赤いドライヤーの広告でした。
「きたきた」と思って、ビックロ行ったら、
打ち出の小槌だらけのコーナーがありまして。
- 南
- ドライヤーの。
- みうら
- その中でもとりわけ、
ダイソンのが似ていました。
真ん中に支柱が入ってて、
まさに打ち出の小槌なんですよ。
それが喉から手が出るほど欲しいんだけど、
6万くらいするんです。
さすがに手が出せない代物なので、
店頭のお姉さんのデモンストレーションを
休憩時間までじーっと見て、
終わった途端にすぐ手にとって、
自撮りしました。
- 南
- そうそう、写真を撮らなきゃね。
- みうら
- 打ち出の小槌持ってる写真を1枚撮って、
あわてて帰っている自分にどこかから
声が聞こえてきました。
「じゅん、やった、よくやった」って(笑)。
(帰り道もおしゃべりがとまらない。
でも終わりはもうすぐ。明日につづきます。)
2019-12-29-SUN
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN