ネコ視聴率ナンバーワン?

ゆーないと
いつも『世界ネコ歩き』観てます。
フジタ
「ほぼ日」内にも番組のファンが多いんですよ。
村松
ああ、うれしいです。
吉成
ありがとうございます。
(左)村松秀さん(NHK『岩合光昭の世界ネコ歩き』のチーフ・プロデューサー)
(右)吉成康道さん(株式会社ジーズ・コーポレーションのプロデューサー)
ゆーないと
番組がはじまって、どれくらいですか?
村松
4年ですね。
ゆーないと
4年!
フジタ
何ヵ国ぐらい行かれたんですか。
吉成
30ヵ国くらい‥‥でしたっけ。
村松
撮影場所の数でいうと、もっとですね。
たぶん40ヵ所くらいは行かせてもらってます。
ゆーないと
かなり制覇されてますね。
フジタ
この番組は、ただネコが出てくるんじゃなくて、
ネコの目線で風景が流れていますよね。
そういう番組って、これまで
あまり観たことがなかったんですけど、
どんなふうに番組がはじまったんでしょうか。
村松
もともとは、10年ほど前に
前任のプロデューサーとぼくが
中国のパンダを番組で取り上げたことがあって、
そのとき動物写真家の岩合光昭さんが
ゲストで出てくださったんです。
それからだいぶ経って、
そのプロデューサーが
久々に岩合さんと会ったときに、
「岩合さん、今、何に興味ありますか」と訊いたら、
「実は、ネコに興味があって」とおっしゃるので、
「じゃ、ネコ(の番組)やりますか?」と。
ざっくり言うと、そんな感じで
番組がはじまったんですよ。
フジタ
パンダの番組がきっかけで。
村松
はい。そのときに岩合さんから言われたのが、
「ネコの野生をちゃんと撮りたい」ということでした。
岩合さんって、もともと世界中で
野生の生きものをお撮りになっている方なんです。
だから、ネコを撮るにしても、
「愛玩動物」という感じではなく、
あくまで、野生を感じられる番組にしよう、と。
吉成
岩合さんが野生動物を撮るときの基本は、
「目線の高さに合わせてカメラを構える」
ということなんだそうです。
ネコの撮影の時も同じ、と話していました。
フジタ
はじめて観たときはびっくりしました。
岩合さんが地面に這いつくばった状態で
ネコを撮ってらして。
▲這いつくばって撮影する岩合さん。
吉成
岩合さんとお会いしてから、
写真展にもよく足を運んできましたが、
岩合さんの写真を見ていたら、
ネコって、下から撮ったほうが
表情が魅力的に見えるんだって気付かされたんです。
これは、ぜひ番組にしたいな、
岩合さんを知らないネコ好きの方たちにも
見ていただきたいな、って思いました。
フジタ
ちなみに、お2人はネコはお好きなんですか。
村松
それが‥‥ぼく、動物アレルギーなんですよ。
ゆーないと
ああ、アレルギーはつらいですよね。
私もそうなんです。
村松
ええ。でも、ネコはかわいいな、とは思いますよ。
昔は、実家に半野良みたいなネコが
遊びに来ていたんですが、
家族みんながアレルギー持ちなので、
家には入れられなくて、
いつもガラスの向こう側に座っているネコと
向き合ってるような感じだったんです。
『世界ネコ歩き』でも、
ぼくはプロデューサー側なので、
ロケには行かず、客観的なスタンスで
映像を見せてもらっていますが、
ネコと距離を置いて関わっている感じが
当時とちょっと似ているんですよね。
吉成
ぼくはネコ好きです。
うちの奥さんもネコが好きで、
一時、うちのマンションには
5匹のネコと1匹の犬がいました。
フジタ
すごい。
あの、この番組が放送されると、
ネコ好きな人だけでなく、各家庭のネコたちまでもが
テレビの画面にくぎづけになっていると
うかがいました。
村松
そうなんです!
オンエアしている時間帯に
ツイッターで、
「ネコ歩きを観るネコ」っていう写真が
ものすごくたくさん投稿されているんですよ。
フジタ
「ネコ視聴率ナンバーワン」かも?
村松
ちゃんと調べたわけじゃないから
公式には言えませんが、
まあ、内輪ではそういうふうに言ってます(笑)。
ゆーないと
うちもネコがいるんですけど、テレビに関しては
あまり関心はなさそうです‥‥。
でも、この番組って、静かできれいな風景のなかに
ネコだけが動いていますよね。
そこがネコも気になって観ちゃうのかなあと思います。
村松
そうかもしれませんね。
テレビ番組を作るときには
「試写」という、ディレクターが編集したものを、
観る時間があるんですけど、
『ネコ歩き』の場合、
なんというか、衝撃的な試写になるんですよ。
ゆーないと・フジタ
衝撃的な試写?
村松
ぼくがこの番組を担当することになって、
はじめて試写を見せてもらったときのことです。
普通の番組だと、
まずはディレクターが台本を読み上げ、
「今、世界では‥‥」みたいな感じの
ナレーションがはじまるんですが、
この番組は、映像がはじまっても、
ディレクターが一言も発しないんです。
ただ、延々とネコが映っている。
ゆーないと・フジタ
(笑)
村松
数分経ってから、
ぼそっとした声で
「‥‥このネコは、メスです」と。
「何だろう、これは」と思いましたよ。
ああ、そういう試写なんだ、みたいな。
時間の流れ方が、
いままでの番組の作りと全然違うんです。
ネコも人間も心地よくなれるような
ゆったりしたテンポの番組になってるのかなぁと。
ゆーないと
なってます、なってます。
フジタ
あと、岩合さんの、ネコへの接し方が
とにかくやさしいなぁって思います。
ネコに向かって、よく「いい子だねえ」って
声をかけているのも印象的で。
吉成
岩合さんは、ネコに会ったら
まず最初に挨拶をするんですよ。
村松
そうそう。現地の言葉でね。
フジタ
現地の「こんにちは」みたいな言葉ですか?
村松
そう。まず挨拶して、
あとは日本語で、「いい子だねえ」みたいな(笑)。
とにかく会話をするんです。
ゆーないと
通じてそうですよね。
村松
そうなんです。不思議なことに。
吉成
技術のスタッフが言うには、
岩合さんとネコの間隔が詰まっていくと、
一瞬、膜に包まれたような雰囲気になるんだそうです。
それは、やっぱり岩合さんとネコの
意志の疎通みたいなものが表われてるように思うと。
フジタ
あの、それで思い出したんですけど、
いつの回だったか、
岩合さんがじーっとネコを撮ってると、
別のネコが寄ってきて、
岩合さんの頭の上まで乗ってきて‥‥。
村松
ああ、沖縄の回のシーンですね。

▲これが、その瞬間。
フジタ
ああ、これです。かわいい!
この子、頭の上に登った瞬間に
ニャーって鳴いてましたよね。
奇跡のような一瞬でした。
村松
岩合さんは他のネコを撮ってるんですけどね。
吉成
岩合さんいわく、
ネコはやきもち焼きなんだそうです。
フジタ
ネコはやきもち焼き。
村松
そう。普通にネコを撮ってると
つれない感じなのに、
他のネコを撮影しはじめると、
急に気になりだして、
カメラの前をわざわざ横切る‥‥(笑)。
吉成
そういうことがわかったのは、
やっぱり番組をはじめてからですね。
まぁ、でも、実際のロケでは
ネコに逃げられることもありますよ。
そんなときも、岩合さんは
「ネコ様しだいだからね」と言って、
無理に追いかけたりはしません。
ネコに対して、
ストレスを与えずに撮影することを一番に
考えているんだと思います。
ゆーないと
そういえば、坂本美雨ちゃんが
この番組の「瀬戸内編」のゲストに呼ばれたそうで。
村松
あ、はいはい。お世話になりました。
ゆーないと
『ネコ歩き』に声かけてもらった!
って、喜んでました。
あとで写真も見せてもらったんですけど、
すごく楽しかったそうです。
▲坂本美雨さんが出られたときの一コマ。
吉成
坂本さん‥‥野良ネコだろうが、
飼いネコだろうが、
かまわず「吸う」んです(笑)。
ゆーないと
そうですよね。
たまに心配になるときがあります(笑)。
(※坂本美雨さんは、
 ネコを愛するあまり、ネコを吸います。
 『ネコの吸い方』という本も出されています。)
村松
「瀬戸内編」は、いい雰囲気でしたね。
あの土地の、ゆったりとした時間の流れに
沿うような感じで。 
ゆーないと
美雨ちゃんも
「スタッフの皆さんも、岩合さんも、
 ネコにすごくやさしくて、ほんとうに
 ネコを大事に思っていることが伝わってきた」って。
吉成
でも、番組も最初のころは
けっこう岩合さんに怒られましたよ。
ぼくらは少しでも早くセッティングしたいから、
慌てるし、急ぐじゃないですか。
そうすると、岩合さんにぴしゃっと言われるです。
「急ぐな、ゆっくり動け」。
よく小声で叱られました。
ゆーないと
小声で(笑)。
フジタ
ネコが逃げちゃいますもんね。
村松
ここまで「ネコだけ」を徹底してるのも、
なんとも可笑しいですよね。
岩合さんがイタリアで撮影していたら、
「おまえは何撮ってるんだ」と訊かれて、
「ネコ撮ってるんだ」と言ったら、
「イタリアまで来て、なにネコ撮ってるんだ。
 日本にネコはいないのか」
なんて言われたそうです(笑)。
フジタ
歴史的な建築物とか撮らないでネコばっかり。
村松
そうなんです。
たとえばベルギーのブリュージュという
世界遺産の街へ行ったときも、普通だったら
「これが世界遺産の街です」って
お見せするじゃないですか。
わざわざそういうところへ行ってるのに、
ネコしか撮らないんです。
延々とネコの映像だけ(笑)。
でも、じゃあ、ブリュージュのネコは
単なるネコかっていうと、そうでもない。
観てるうちに、ちゃんと
「ブリュージュのネコ」になっていくんです。
歴史あるヨーロッパの香りを放ちながら
しっとりと暮らしてるネコ、
というイメージが浮かび上がるんですよ。
それは岩合さんが、
そこで生まれ育ったネコの生きざまを
岩合さんの感性で切り取っているからだと思います。
(※本文4.5.6枚目の写真:坂本美雨さん提供)

(後編へつづきます)

2016-02-22-MON

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