── | 菱川さんって、 どういう経緯で このお仕事をなさっているんですか? |
菱川 | 僕は、本田技研のF1のウェアとか、 ライダーの身の安全の革のつなぎとか、 そういう車関係の仕事をしていたんですよ。 そこでは、一番重要なのが、コストダウンです。 いくらで、何枚やれば、分率いくらで、 工賃はいくらっていうのを全部割り出します。 当然、きびしい世界で、シビアなんです。 知識が間違って、もしクレームになったらいけないし、 そういうことがいろいろと 僕みたいないい加減な人間にはストレスで。 そのストレス解消に、家で、毛糸を染めてたんです。 |
── | ストレス解消に、糸染めを! |
菱川 | 忙しくて時間がないし、 ゴルフでも、歌っても、気分は晴れないし。 それで、毛糸をいろんな植物で染めてたんです。 素人だから、何でもかんでも、 ものすごい種類を染めていたんですね。 それが、おもしろくなって。 そもそも、僕、すごく植物に興味があって。 いろいろな本を読んでみると、 東洋哲学の中に、 「人間や動物は、植物によって生かされている」 というものがあったんですね。 陰陽の考えかたです。 そうか、人間は植物によって生かされているなら、 植物をもっと調べたいなって。 そんなふうに思い立ったのが40年くらい前かな。 同時に染色も面白くなったので、 藍染めのプロのかたに教えを乞うたりして、 すこしずつ覚えていきました。 |
── | はい。 |
菱川 | つまり、生活の中に自然物を 新しい形で入れ込みたいっていう思いだったんです。 だって、室町にできた日本の文化って、 お茶もそうですし、華道もそうですし、 それから庭もそうですよね。 ほとんどが自然物を家の中に入れてるんですよ。 グチャグチャな人間関係が、 もう嫌で嫌でしょうがない、 だから心の優しい人は、自然物を愛した。 月がきれいだなぁとか、 花を植えてみようかなって。 今もそうですけれど、なんとなく殺伐として、 なんか嘘言ったりして、もう愛情もなくて、 っていう中に、自然物の中に真実があるとしたら、 そっちの感受性のほうが未来的だなぁと。 そういう感覚で捉えているんですね。 だったら、自然物を生活の中に取り入れる 新しい技術があれば、 そういう感性のある人たちが活躍できるだろうなと。 そういうふうに思っているんです。 |
── | なるほど‥‥。 |
菱川 | だから「ほぼ日」さんが、 BEGINNINGという思いをもって いらしてくださったのは、 うれしかったですよ。 普通のアパレルってね、思い、ないんですよ。 |
── | えぇっ。 |
菱川 | もちろんすべてがそうではありませんよ。 けれどもたいていは 「どこかのこれが売れてるよ」みたいなので、 じゃあいくらでとかっていう、 信号みたいになってるんです。 しかも、うちに出すことで 「エコです!」っていうふうに商売をしたり‥‥。 ちょっと寂しいです。 それよりも、ゼロから好きなものを、 なんでもいいと思うんですけど、作ってほしい。 こういうふうに私はやってみたいっていう 思いでつくったものを、 足りない部分をうちが自然物で対応する、 っていうふうにしたいわけです。 |
──────────────────── 最終回「それぞれの色に込めた思い。」につづきます。 |
2012-08-27-MON