|
|
── | 「ボタニカル・ダイ」って、 いわゆる思い描いていた 伝統的な草木染めとは、 ずいぶん違う印象でした。 もうすこし、くすんだ、というか、 沈んだ感じの渋い色味を想像していたら、 とてもあざやかで、しかも複雑で、 なんだか元気になるような色に仕上がって、 私たちもとてもうれしくて。 |
菱川 | ありがとうございます。 元気が出るような色というのは じつは、そういうふうにつくった色なんですよ。 その話は、あとでするとして、 色の印象の話ですが、かんたんに言うと、 この染めかたで仕上げると、 光が乱反射するので、 色が複雑に見えるんです。 |
── | ああ! 乱反射の話は、 以前、写真のコンテンツで扱ったことがあります。 桜の花びらは、光を乱反射させているので 人の目にはうつくしく見え、 しかも写真には写しにくいという(*)。 *「写真がもっと好きになる。」より |
小川 | しかも、ひとつに見える色のなかに、 じつは、200くらいの 色素が混じっているんです。 化学的な染料では、赤なら赤で、一色ですが、 ボタニカル・ダイは、 黄色、緑、青、ベージュ‥‥、 いろいろな色が入っていて、 それが総合して赤に見えるんです。 |
菱川 | おもしろいものなんですよ。 化学的に出した赤と、 ボタニカル・ダイで染めた赤を並べて、 どちらがお好きですかとたずねると、 ほとんどのかたが、 ボタニカル・ダイのほうを選んでくださいます。 |
小川 | 「見えない色」が入っているのも 逆説的な言いかたですが、 複雑に見える理由かもしれないですね。 |
── | 見えない色? |
菱川 | これは科学技術の雑誌に 発表されていることなんですが、 自然物に入っている色素でも、 人の目に見えるものと、 たとえば虫の目に見えるものは、違う。 その複雑さもあるんです。 さらに、光も一日の中で変わりますし、 人の思いも、変化します。 朝元気に見る色と、 夜ねむくて見る色は、 同じはずでも、ちがった印象になる。 そんなこともありますよね。 |
── | なるほど。 |
菱川 | しかも、植物はそれ自体が 色を変えていきますよね。 ちょっと難しい話をしてもいいですか? |
── | はい、ぜひ。 |
菱川 | 植物の中には、たんぱく質とか、 そういうふうなものが色素を持って、 植物中を回ってるんですよ、 グルグル、グルグル。 たとえば藍は、藍草を取って、 ムロでお酒吹っかけて置いておくと、 色素が回っていって濃くなる。 原理はすごく簡単で、 芽が出ると白になるんですけど、 そこに光が当たって、フラボノイドになる。 フラボノイドに光が当たって、 クロロフィルっていうグリーンになってくる。 それがやがて、 だんだん黄色っぽく紅葉していくんです。 それがポリフェノールの中の フラボノイドの特性です。 紅葉してオレンジになると、 ニンジンなんかと同じで、 カロチノイドが増えてくる。 さらにもっと紅葉すると、 アントシアンって赤になる。 葉っぱが落ちると、アントシアンが タンニンになって、 茶色くなっちゃうんです。 |
── | あぁー! たしかに難しいんですが、 おおまかに、わかりました。 そうか、紅葉するということは、 植物自体にいろんな色素があって しかも変化しているってことなんですね。 |
菱川 | それが植物の基本類型なんです。 ほとんど植物の中にはそれらが全部入ってる。 |
小川 | ですから私たちの仕事は、 そこから色素を選んで、 リクエストに応じて、 あたらしい色をつくることなんですよ。 |
菱川 | そのとき「思い」が 大事になってくるんです。 最初に言った 「元気になる色」というのは ひとつの思いですよね。 |
── | はい、ぜひその話を くわしく聞かせてください。 ─────────────────────────── 次回「HAPPYになれる色。」につづきます。 |
2012-08-22-WED