糸井 |
あなたにアドバイスをしてくれる
先生のような人はいますか?
あるいは、影響を受けた人物、
なにかを教えてくれた本などがありますか?
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ギー |
とくにこれというものはありませんが、
人からの影響は常に受けていると思います。
カナダのケベック州には、
おもしろい人たちが
ほんとうにたくさんいるんです。
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糸井 |
(笑)
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ギー |
アーティストはもちろん、
ビジネスマンだったり、政治家だったり‥‥。
ほんとうにさまざまな業界に
おもしろい人たちがいて、
私はそういう人たちとお茶を飲んだり
食事をしたりしながら話をすることを
とってもたのしみにしているんです。
そういった場で自分のアイデアを話すと、
さまざまな反応が返ってきます。
その反応を受けて、自分が進むべき方向を
判断したりということはありますから、
特定の誰かというわけではなく、
いろんな人からの影響というのは、
かなりあるように思います。
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糸井 |
なるほど。
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ギー |
そうそう、
いまも継続して行っている集まりがあるんです。
年に4回、4人の友人たちと食事をするんですが、
その4人というのはシルク・ドゥ・ソレイユと
まったく関係のない人たちなんです。
私は、その集まりを
「ファントム・アドバイザリー・コミッティ
(Phantom advisory committee
=まぼろしのアドバイス委員会)」
というふうに呼んでるんですけど。
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糸井 |
ははははは、いい名前ですね。
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ギー |
彼らは、私に、アドバイスをくれる仲間です。
そういう関係を私は非常に大切にしています。
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糸井 |
いや、いまの話で、またひとつ、
シルク・ドゥ・ソレイユのことが
わかったような気がします(笑)。
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ギー |
ああ、そうですか(笑)。
私もいま、糸井さんから
ほんとうにいい質問をしていただいたと思います。
やはり、私にとっては
人との関係というのが非常に重要で、
また、シルク・ドゥ・ソレイユを
こころから信じているというのは、
人との関係からくるものでもあると思います。
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糸井 |
シルク・ドゥ・ソレイユに、
ぼくが「すばらしいサーカス」以上の
興味を持っているのは、
そういったバックボーンが
感じられるからかもしれません。
サーカス以外のところで
新しいことをつぎつぎに考えて
実現させていくというのは、
いまおっしゃったような
「まぼろしのアドバイス委員会」のような関係を
シルク・ドゥ・ソレイユ全体が
大切にしているからかもしれません。
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ギー |
ええ、そうですね。
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糸井 |
たとえば、本部を、モントリオールの
ゴミ捨て場のある地域に建てて、
周辺に住む人を雇用する、みたいなアイデアは、
サーカスのことだけを考えている人たちには
思いつかないと思うんですよ。
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ギー |
そうかもしれません。
成功をおさめている企業の本部として考えるなら、
一等地に建てるのがふつうだと思います。
実際、そういった選択肢もあったんですが、
シルク・ドゥ・ソレイユとしては、
社会とのつながりや、大きな集合体の一部として
果たすべき役割を非常に重要視しますので、
私たちは、カナダでは2番目に貧しい地域に
本部を設けることにしました。
おっしゃったように、職を得る人も増えますし、
緑地を増やすこともできます。
企業としては少しチャレンジングな選択でしたが、
それだけやりがいも感じましたので、
あの地域に本部を設けたのです。
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糸井 |
もちろん責任者としての
きちんとした判断もあるんだと思いますが、
ギーさんは個人として、
ひとつの場所に安住するよりも
変化することが好きなんでしょうね。
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ギー |
ああ、そうかもしれません。
やはり、パフォーマーとして、
つねに変化を与えるということを
とても重視しているように思います。
変化すること、革命的なこと、
そういったことを常に意識しています。
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糸井 |
つまり、自分たちの一部分を否定しながら
つぎの新しいことをはじめていく。
その連続なんですね。
だからこそ、たのしくもあり、難しくもあり。
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ギー |
そうです、そうです、
おっしゃる通りです。
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糸井 |
その、ギーさんの性質に、
組織も似ていくんでしょうね。
シルク・ドゥ・ソレイユが
サーカスだけでなく、
社会的な影響をすごく大事にしているのも、
ギーさん個人の思いが溶けているというか。
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ギー |
そうですね。
シルク・ドゥ・ソレイユと私は、
25年の間に、ほんとうにもう、
一体になっているように感じます。
いま、私は、ひとつのショーが
成功するかどうかというだけはなく、
シルク・ドゥ・ソレイユという組織が
いかにうまく前進していくかということを
たいへん重視しています。
社会的な影響を考えることは、
シルク・ドゥ・ソレイユが前進するうえで
欠かしてはならないことだと考えています。
現在、シルク・ドゥ・ソレイユは、
ストリートチルドレン用の基金と、
水に関する基金を設立して、
慈善活動にも積極的に取り組んでいます。
こういった活動は、
成功している企業の義務だと思っています。
私たちが運よく成功する一方で、
チャンスを得られない人々もいる‥‥。
私は、社会を取り巻く大きなめぐり合わせを
「サークル・オブ・ライフ」という
ことばで表現しているんですが。
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糸井 |
サークル・オブ・ライフ。
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ギー |
はい。たとえば私が
何かをやることが相手のためになり、
ほかの誰かのやったことが私に巡ってくる。
人間の関係というのは、
つねにそういった大きな円を
描いてるんじゃないかと思っているんです。
ですから、シルク・ドゥ・ソレイユは
そういった活動に対して積極的なんです。
(つづく) |