第2回 帰ってきたワールドチャンピオン。

『クーザ』の芸術監督のアダム・ミラーさんは
「アーティストは61人いて、
 全員大好きです」
とおっしゃっています。

そこで、今回はアーティストのおひとりに
焦点をしぼってみたいと思います。
『クーザ』で、ソロ・トラピスを演じ、
シャリバリでも出演をしていた、ユリアさんです。


ユリアさんです。
右はシルク・ドゥ・ソレイユ班の
「ほぼ日」菅野。

「実は、2日ほど前に
 モントリオールのトレーニングから
 帰ってきたばかりなんです。
 トレーニングの目的はもちろん、
 あたらしい技を自分のアクトに取り入れるため。
 いま、どういうふうにその技を入れ込むか、
 ずっと考えています。
 あの技が入ったら、私のトラピスは
 すごく難しい演目になると思う。
 世界でも、あれをやる人は‥‥
 ひとりかふたりじゃないかな?
 しかも、それをショーでやるというのはすごく難しい」

ステージで行われている
ユリアさんの練習を
見に行きました。


布のブランコのようなものに
乗っているのがユリアさん。



ステージの左下には
練習用の命綱を握ったコーチが
ユリアさんを見守っています。
ふたりは相談しながら
演目を組み立てていました。

ユリアさんは、このソロ・トラピス以外に
シャリバリという団体演目でも
『クーザ』に出演しています。
また、これまで
海外公演の『サルティンバンコ』でも
団体のアクロバットに出演していました。

「私は、いままで
 団体の演目ばかりに出ていました。
 そこで、いちどシルク・ドゥ・ソレイユを出て、
 個人的に勉強をして、戻ってきました。
 『クーザ』ではじめて
 単独のパートをいただいたのです。
 だから‥‥いまでも
 このトラピスの本番がはじまる数分前から、
 鳥肌が立って、ドキドキしてしまいます。
 これはもう、ずっとなくならないんじゃないかな?
 何年経っても、変わらず緊張すると思います。
 自分は、すごくベストを尽くします。
 だけど、確実に成功するかわからない、
 ギリギリのところにいつもいます。
 そのドキドキ感が、やめられないんですよ」


シルク・ドゥ・ソレイユを
いったん出て、戻ってきたユリアさん。
もともとは、器械体操の選手でした。
オリンピックにも2度出場しました。

ユリアさんは、日本に行くことを
とてもたのしみにしているようです。

「実は16歳のときに
 1度だけ、日本に行ったことがあります。
 たった2週間でした。
 そのときにはじめてお寿司を食べたんだけど‥‥
 もう、受け入れられない、ありえないものでした(笑)。
 私がこの『クーザ』に残っている理由のひとつは、
 日本に行くということがわかっていたからです!
 1年半も滞在できるんだから、
 まったくちがう体験ができると思って
 いまからたのしみにしています」

おいしいお寿司に出会えるといいのですが‥‥
ツアーショーにいると、
ずっと旅する生活ですね。

「お寿司、いまは好きですよ!
 私はあんまり、旅したり
 写真を撮ったりするようなことが
 好きなほうではありません。
 ツアーショーでも、観光で訪れても、
 山を観たり自然を観たりすることはもう、
 2、3時間で充分です。
 日本に行って私がしたいことは、
 人に会うことです。
 その国の人たちと話して、文化に触れて
 その国を知りたいと思っています。
 だから、日本人が英語をしゃべれるといいな。
 日本語は難しいから、私はできなくて、
 だから英語ができる人がいるといいな」

『クーザ』および
シルク・ドゥ・ソレイユに
ユリアさんが所属しつづけているのは
もちろん、日本に行くことだけが
理由ではないようです。

「私はシルク・ドゥ・ソレイユのショーが
 大好きだから、
 70歳まででも‥‥一生、ショーに出て
 シルク・ドゥ・ソレイユというサーカスの中で
 働けるようにしたい。
 そのために体を維持したいと思っています。
 私が器械体操でやってきた経験は、
 サーカス業界で働くための
 準備段階だったんじゃないかと思います。
 器械体操は1年間で5回ほど試合があって、
 そこで競争をして闘わなくてはいけませんでした。
 だけど私は、
 1年間みっちりやって強気で試合に出るというよりは、
 どちらかというと
 常に一定のレベルを保って
 いつもどおりにやることが
 得意なタイプだったんです。
 闘うよりは、毎日ショーでベストを尽くすほうがいい。
 そのときのトップを狙うというのではなく、
 毎日のワールドチャンピオンでありたいのです」


毎日のワールドチャンピオンが
いっしょに「足上げ」をやってくれました。


開演前、メイクをして
キッチンで夕ごはんを食べるユリアさん。

「日本のキッチンもたのしみです。
 キッチンについて、ときどき
 おいしくないとか何とか言ったりする人たちも
 いたりするんですけど、
 その人たちは、料理をするっていうことが
 どういうことかすっかり忘れてるんじゃないかしら。
 何人もの料理を毎日準備すること、
 それだけで感謝します。
 すごくおいしいですよ。
 自分はキッチンをたのしんでいます。
 日本食でいちばん好きなもの?
 とりあえず、そうですね、
 “わさびとびこ”ってありますね?」

わさびとびこ。
(取材陣全員、「?」)

「知らない? もし知らなかったら
 おすすめの食べものです。
 わさびとびこです。わ・さ・び・と・び・こ。
 マヨネーズとわさびをまぜた、とびこの。
 知らない?
 えーっと、友達の意見では、
 日本のコーヒーのようなもの、つまり、
 たいへん目覚めがいいものというものです」

子持ちこんぶかしら‥‥
わさび漬けかしら‥‥
もし、何か「こうじゃないかな?」と
思われる方がいらっしゃいましたら、
postman@1101.comまでメールをください。
ユリアさんにお伝えしたいと思います。
(つづきます)

※みなさま、「わさびとびこ」について
 たくさんのメールをありがとうございました。
 みなさまのおかげで、
 日本にはなじみはないけれども
 アメリカやヨーロッパではふつうに存在するもの、
 ということがだんだんとわかってまいりました。
 ひきつづき調査をすすめます。
 いただきましたメッセージは英語にして
 ユリアさんに届けますね。

 ありがとうございました!


2011-01-28-FRI




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