シルク・ドゥ・ソレイユからの招待状6  ZEDがはじまる。  〜稲垣正司への取材〜

第3回 シルク・ドゥ・ソレイユに入る運命。
糸井 稲垣さんがバトンをテーマに
自分のスキルをどんどん上げてきた道筋って、
きっと、ひとりで目標を設定しては
それを超えることによって
自分を伸ばしていったわけでしょ。
稲垣 そうですね。
糸井 いってみれば、宮本武蔵が修行して
強くなっていくみたいなものですよね。
稲垣 はい。
糸井 そのときは、自分で自分を
そうとう厳しく追い込んでいくんでしょう?
稲垣 そう、そうですね。
ぼくがバトンをはじめてから
大学を卒業するときまで、
ずっとついてくれたコーチが
そういうタイプの人だったので、
ぼくにとってはそれがふつうでした。
糸井 ああ、そういう方がいらっしゃったんですね。
つまり、一種の英才教育というか、
稲垣 そうですね、小さいころから
そういうことをやってきたので、
キツいとかたいへんだというのは
あんまり感じなかったですね。
糸井 そういうときって、
具体的な目標に向かってがんばるわけですか。
稲垣 そうですね、やっぱり、
世界選手権で優勝するとか、
そういうことが目標になってました。
糸井 それが、ここに来たら、
勝ち負けのない世界ですよね?
稲垣 ああ、そうですね。
糸井 以前、『O(オー)』に出ている
シンクロをやっていた方に
インタビューしたとき、
それまで競争としてやってきたものに
勝ち負け以外の価値があると知ったとき、
ショックも受けたけど、
すごくうれしかったということを
おっしゃってたんですよ。
そのあたり、いま、稲垣さんは
どう感じていますか?
稲垣 うーん‥‥そうですね‥‥。
ぼくは、シルク・ドゥ・ソレイユに
入る少しまえ、ある時期を境に、
自分とバトンの関係、
競技に対する考え方っていうのが
変化してしまったんです。
なんていうんですか、
ぼくは、バトンがあったから
いろんな経験ができたんです。
学んだこと、教えられたこと、
そこにはつねにバトンがあったんです。
ほんとうにそうだなって痛感したときから、
なんていうか、競技とか、結果は、
もういいんじゃないかって思えたんです。
こう、バトンといっしょに
充実した時間が送れてるだけでいいというか、
誰かと出会ったり、何かを経験できたりすれば、
べつに結果はいいのかなっていう
気持ちになったんです。
糸井 ああ、それはもう、
シルク・ドゥ・ソレイユに入る
運命みたいな気がしますね。
稲垣 そうでしょうか(笑)。
糸井 ショーで演じるという道は
考えのなかにあったんでしょう?
稲垣 そうですね、なにかこう、
バトンの演技をする、
そういうパフォーマンスをする
場があればいいなというのは思っていて。
そんなとき、2000年のことでしたけど、
ぼくはシルク・ドゥ・ソレイユを
はじめて観るんですけど、
やっぱり、それがすばらしくて、
「こういう場所で、
 バトンがシルク・ドゥ・ソレイユによって
 料理されたらどんなふうになるんだろう?」
ということに対して、純粋な興味を感じました。
糸井 ああ、なるほどねぇ。
稲垣 で、ええと、その後、
ラスベガスでやっている
『KA(カー)』というショーに
高橋典子さんという
バトントワラーが参加して、
そのステージを観て、
「ああ、いいなぁ」と。
糸井 確信を持つんだ。
稲垣 はい。
糸井 やっぱり、うかがっていると、
シルク・ドゥ・ソレイユに入る
運命だったみたいですねぇ。
稲垣 (笑)
(つづきます)


2008-10-03-FRI



(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN
The trademarks ZED and
Cirque du Soleil and Sun logo are owned by Cirque du Soleil and used under license.