シルク・ドゥ・ソレイユからの招待状6  ZEDがはじまる。  〜稲垣正司への取材〜

第4回 無理なくらいの水準。
糸井 ショーに出演するのは
今回がはじめてじゃないんですよね。
稲垣 ええと、2006年に「ブラスト!」
(ブラスバンド、マーチングバンドの
 エンターテイメント性を高め、
 ショーアップしたアメリカのショー)
というショーに出てました。
糸井 それと、今回のシルクのショーは
違いがありますか?
稲垣 全然違いますね。
糸井 ああ、そうですか。
稲垣 まぁ、やってる気持ちというか、
真剣さはもちろんいっしょなんですけど、
やっぱりいろんなことが違います。
技術的な話でいうと、この
シルク・ドゥ・ソレイユ シアター東京は
すごく天井が高いので
バトンが高く投げられるんです。
糸井 うん、うん。
稲垣 まえのショーは、
いわゆるふつうの舞台で行われてたので、
ここまでの高さはなかったんです。
ですから、まあ、
高くバトンを投げないぶんだけ、
楽といえば、楽なんですよ。
糸井 あ、そうか、そうか。
高く投げられないというのは、
不自由ではあるけれども‥‥。
稲垣 技術的には易しくなりますからね。
でも、このシアターは、
ご覧のようにすごく天井が高い。
糸井 この高さですもんねぇ(笑)。
稲垣 はい(笑)。
また、演出側からも、
「このシーンで絶対高く上げてくれ」
というような要望もあったりするので、
技術的なレベルはそうとう高いんです。
糸井 非常に高いパフォーマンスを
つねに要求されるステージなんですね。
しかも、ハードルは下げられない。
稲垣 はい。
ですから、プレッシャーのかかり方も、
まえのショーよりずっと大きいですね。
糸井 それって、慣れてくるんですか。
稲垣 慣れないんですよ(笑)。
糸井 慣れないですか(笑)。
そうはいかないものなんだねぇ。
やっぱり、それだけ
難しいことを要求されてるんですね、
「ZED」では。
稲垣 そうですね。
「うわ、これ、毎日やるのは
 たいへんだろうな」っていうのは、
振り付けが決まっていく段階でも
思ってたんですけど、
やっぱりたいへんでしたねぇ(笑)。
糸井 でもまぁ、けっきょくは、稲垣さんが自分で
「やります」って言っちゃったわけですよね。
稲垣 そうですね。
糸井 言わなきゃよかったじゃないですか(笑)。
稲垣 ほんとですね、ほんとに、はい(笑)。
糸井 稲垣さんくらいの技術があれば、
お客さんが気づかない部分で
演技の水準を下げてごまかすということも、
やろうと思えばできますよね?
稲垣 と、思いますね、はい。
糸井 「これだったら毎日、楽に続けられるぞ」
というところまでね。
でも、「ZED」では、
「今日、ちゃんとできるだろうか?」
という水準でやっているわけですね。
稲垣 はい(笑)。
糸井 けっきょく、それだけ水準の高い
パフォーマンスが観られるという意味では、
お客さんが得をするだけ、ってことですね。
稲垣 (笑)
糸井 シルク・ドゥ・ソレイユの人たちって、
全体に、そういうところがありますよね。
稲垣 ありますね!
それは、ほかの人のパフォーマンスを
見てても思いますね。
糸井 稲垣さんの目から、ほかの人の演技を観て、
「あいつらはあいつらなりに
 無理なことをやってるぞ」と‥‥。
稲垣 はい。けっこう、あると思います。
糸井 ああ、だからこそ、
やめられずに続けられるし、
お客さんもまた観に来ちゃう、
というのもあるのかもしれませんね。
稲垣 ああ、なるほど。
糸井 やっぱり、毎日やるショーって、
そういう緊張感がなかったら
続かないんじゃないですかね。
できるに決まってることばっかりやってたら、
ロングランを続けるうちに
「ゆるみ」みたいなものが
きっと、出ちゃいますよね。
稲垣 そうかもしれませんね。
その点、「ZED」は大丈夫です(笑)。
糸井 水準が高いから(笑)。
稲垣 はい。毎日これをやるって考えたとき、
いまだに「うわー!」って
ちょっと感じますから(笑)。
(つづきます)



2008-10-06-MON



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