HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

カッパとウサギの コーヒーさがし

第18回「大吉くんがやってきた!」編コーヒーを飲みましょう。
山下 さあ、福田さん、
いろいろやらかしていますが、
コーヒーがおいしければ万事オーケーです。
福田 はい。
山下 ここはひとつ、よろしくお願いします。
福田 よっしゃ(真顔)。

山下 そのあいだに吹石さん、
もっとうさぎの話をしましょう。
吹石 そうですね、せっかくの機会ですから。
うさぎのなにをお話ししましょう?
福田 お湯を‥‥(真顔)。

山下 たとえば‥‥「足ダン」のこととか。
吹石 はいはい、足ダン。

山下 あれは最初、びっくりしますよね。
福田 なんですか? 足ダンって。
山下 うさぎはですね、怒ったときとかに、
後ろ足をこう‥‥ね?
吹石 ダーンって。
山下 たたきつけるんですよ、床に。
それが思いのほか大きな音なんです。
後ろ足の力はすごいんで。
福田 へえーー。
山下 けっこう知られていない習性だと思います。
吹石 あと、かわいいのは、
寝るときに、こうクルンって。
山下 そうそう! 空中で回転してね、
柔道の受け身みたいに、
ステーンって、横になる。
吹石 あれ、なんででしょうね?
「せーの‥‥ヨイショ!」って横になる(笑)。

山下 ねえ‥‥。
それと、ほら、顔を洗うでしょ?!
吹石 そうそう! かわいーですよねー。
山下 ネコみたいにね、顔を洗う。
耳もきれいに洗いますよね。
吹石 うちのコはたぶんふつうのうさぎより
ちょっとだけ顔が大きいみたいで、
耳の先まで手が届かないんです。
でも一所懸命先っちょまで洗おうとして‥‥。
そういうところが、ぜんぶ愛おしい(笑)。
山下 それは愛おしい(笑)。
うちのは耳が垂れてるから
耳を洗っていると、
まるで女の人が髪を洗ってる姿のようでした。
吹石 愛おしい〜(笑)。
山下 (笑)
吹石 パンクちゃんは、
焼きもち焼かなかったですか?
山下 焼きもち、それは誰にですか?
吹石 大吉は、わたしが長電話をしてるだけで、
ダン! ダン! って。
山下 あー、怒るんだ(笑)。
愛されてますねー。
吹石 あと、うさぎは夜行性なので
夜遅くなるにつれて
絶好調になってきますよね?
山下 そう、目がぱっちりしてきて。
吹石 でも大吉には、
「わたしがリビングの電気を消して
 ベッドの部屋に行ったら、
 あなたがたとえ夜行性でも
 もう遊ばないよ」って教えてあるんです。
山下 へえー。
吹石 だからリビングが真っ暗になれば、
大吉はシーンと静かになるんですよ。
山下 いいコですねぇ。
吹石 ただし、となりの寝室で
わたしが起きてて本を読んだり
テレビをみている気配がすると‥‥ダーン!
山下 (笑)
吹石 もう、怒る怒る(笑)。
「起きてるんだったら遊んでよ!」って。

山下 いいなぁ(笑)。
吹石 朝もそうなんです。
わたしがベッドの中でぐずぐずして、
ちょっとメールしたりしてると‥‥。
山下 ダーン!
吹石 「起きてるんなら、あいさつに来て!」
山下 かわいいなぁ(笑)。
吹石 山下さんのパンクちゃんには、
なにかそういう怒りのポイントがありました?
山下 うちのはねぇ、鍋がきらいでした。
吹石 鍋?
山下 鍋。
ル・クルーゼの鍋があるじゃないですか。
あれに「おたま」が刺さった状態で
床に置いておくと、
もう、怒る怒る(笑)。
吹石 へえー、なんでだろう‥‥?
山下 なんかこう、
動物っぽくみえるらしいんですよ。
「おたま」は、しっぽなんでしょうね。
吹石 へえー。
山下 たしかパソコンに写真が‥‥。
ええと‥‥あったあった、これです。

吹石 わーーー!
山下 へっぴり腰で近づいてるでしょう?
ぎりぎりまで鍋に近づいて、
わーっと小屋に戻ってから‥‥ダン!
吹石 かわいーー(笑)。

山下 ずーっとそれを繰り返すんです。
吹石 ほかの動物だと思ってるんだ(笑)。
山下 そう、自分のなわばりに入ってきた敵。
吹石 かわいいー。
ほんと、それぞれのうさぎに、
それぞれのおもしろい話がありますよねー。
山下 そうですね、
個性はかなりあると思います。
吹石 ‥‥なんか、ごめんなさい福田さん。

山下 放ったらかしにして。
福田 や、そんなことないです。
ぼくはコーヒーに集中してるので。
どうぞ思い切りうさぎの話をしてください。
山下 すみません、ありがとうございます。
‥‥きょうの大吉くん、調子はどうですか?
慣れない環境で緊張してるんじゃないでしょうか。
それがいちばん心配で‥‥。
吹石 大丈夫です。
なんかずっと落ち着いてるみたいです。

山下 ほんとうに、おとなしい‥‥。
吹石 のんびりしたコなんですよ。
山下 ‥‥‥‥。

山下 ‥‥‥‥吹石さん。
吹石 なんですか?
山下 ‥‥大吉くんの、頭をなでてもいいでしょうか。
福田 どうぞどうぞ。
山下 いいですか。
‥‥それでは‥‥(はいつくばる)。

山下 ‥‥‥‥こんにちは。
吹石 キーちゃん、
山下さんが、こんにちはって。
‥‥あ。

吹石 いま、大吉のほうからグイッと近づいた。
山下 ‥‥きみはいいこだね。
人見知りをしないんだ。
吹石 よかったねぇ、大吉、
いいこいいこしてもらって。
山下 ‥‥‥‥‥‥。
吹石 ‥‥‥‥‥‥。
福田 ‥‥‥‥あ、あのぉ、すみません。
恍惚の人になっている山下さんに、
水を差すようでほんと申し訳ないんですが。
山下 ‥‥はい。
福田 コーヒーがはいりました。
山下 あ! こちらこそすみません!
ありがとうございます、できましたか。
‥‥おおー。
吹石 わあー。

福田 入魂の、ドリップコーヒーです。
吹石 いい香り‥‥。

山下 ちょっと、あれですね、
西日が入ってきたので明かりを変えますね。
(ブラインドをおろす)
‥‥大吉くん、フラッシュをたいても
大丈夫でしょうか?
吹石 ええ、怖がらないと思います。
山下 じゃあ、カメラの設定も変えて‥‥と。
では、吹石さん、
どうぞ召し上がってください。
福田さんが淹れたコーヒーを!
吹石 はーい。

福田 ‥‥‥‥(固唾をのむ)。
山下 ‥‥‥‥(固唾をのむ)。

吹石 ‥‥んー。
あ、おいしい、おいしいです。

福田 ‥‥ありがとうございます。
山下 ‥‥よかったぁ。
吹石 コクがあるけど、
苦みが、いやな苦みがなくて‥‥。
福田 そうですか、大丈夫ですか。
吹石 はい、飲みやすいです。
福田 いい豆をていねいに淹れると
たいがいはブラックでも大丈夫じゃないかと。
吹石 はい。
味見でちょっとだけ
ブラックを飲んだことはありますけど、
カップ1杯をこうして
最初から自分でいただくのは初めてです。

福田 そうなんですか。
でも無理はなさらないでくださいね。
吹石 でも、これだったら飲めます。
福田 ありがとうございます。
吹石 ‥‥おいしい。
なんか、コーヒーに対して
ちょっと前向きになれました。
苦いと思わずに、飲めるものなんですね。
山下 ‥‥福田さぁん、よかったねぇ!!
福田 よかった、ほんまによかった(笑)。

(福田さん、面目躍如!
 あしたにつづきまーす)

2010-11-28-SUN
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