HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN https://www.1101.com/home.html   「大坊珈琲店」 大坊勝次さんの38年            書籍『大坊珈琲店』刊行記念対談

第7回 もうお店はやらないんですか?
糸井 なにしろ大坊さんとは、
「あ、どうも」「こんにちは」の関係ですから、
きょうはどうなるかと思いましたが、
いやぁ、おもしろかったです。
大坊 ありがとうございました。
糸井 こちらこそです。
山下 コーヒーを淹れていただいて。
福田 飲ませていただいて。
糸井 何回も聞かれていることだと思うんですが、
もうお店はやらないんですか?
大坊 それは‥‥(長く考える)‥‥。
糸井さんも原稿のなかで、
「またどこかで顔を出すことを待っている」
ということを書いてくださいました。

「またやる」ということは、
自分の中にすごくこう、あるのですけれども‥‥。
まず、同じことは実現しないだろうということが、
ひとつ、あります。

じゃあ、すこし形を変えるなり、
時間を変えるなり、
別な方法もあるかもしれませんけれども‥‥。
そうしてやることが、
今まで店を支えてくれた人たちを、
がっかりさせてしまうのではないか、
という危惧も、ないことはないのです。
糸井 なるほど。
大坊 それと、
もう一度ああいう緊張感の中でやっていくとして、
あと何年耐えられるだろうと考えます。
体力的にも。

簡単には決められないといいますか‥‥。
糸井 はい。わかります。
大坊 すみません。
「もう一回やります」と言えなくて。
糸井 いや、そのとおりだろうなぁと思いますよ。
今、どのようにお暮しになってるのか
ぼくは知りませんけれど、
現在が楽しければ、
お店を開かなくたっていいと思います。
物足りないとお思いでしたら、
物足りないものをまた探せばいいと思うんです。

そうですね‥‥
大坊さんは、人にサービスすることを
やめちゃって構わない気がします。
ここまでずっと約束を守ってきた人ですから。
もし、この先なにかを始めるなら、
次はものすごくゆるい約束でいいですよね。
2度目なんだから、
好きなようにおやりになる権利があるというか。

引退後に何をするか、みんなが考えてますけれど、
その意味では
コーヒー屋の店長だった人が、
引退後にコーヒー淹れるのを趣味にして、
「たまに誰かに会うんですよ」
くらいのことで、すごくいいのかもしれませんね。
大坊 まさしく今は、そういう感じなんです。
「これは趣味だな」と思いながらやっています。
趣味で、焙煎したりコーヒーを淹れたり。
あとは、
「うちのリビングでのコーヒータイムですが、
 よかったらいかがですか?」と、
知り合いをお誘いすることもあります。
これも、趣味です。
糸井 ああー、そうですか、それはいいですね。
大坊 ですから、私がコーヒーを淹れることを
望んでくださるのであれば、
こちらにお邪魔して
また今日のようなことを‥‥。
もしもやってもいいというお気持ちが
あるのであればですが‥‥。
山下 え‥‥ほんとうですか?!
大坊 あくまで、趣味の感じで。
山下 そんな光栄なお話を‥‥。
ありがとうございます。
もちろん大歓迎です!
糸井 「大坊珈琲店」が青山通りを横断して、
ほぼ日にやってきた(笑)。
福田 いいですねー。
糸井 ‥‥あ‥‥というよりも‥‥
もっといいことを思いついた。
山下 なんでしょう?
糸井 大坊さん、うち、もうすぐ、
お店を出すんですよ。
大坊 お店?
糸井 そう。
いろいろなことをやっていくお店です。
たとえば、
作家さんの展覧会を兼ねてなにかやるとか、
ダウンジャケットの試着会とか、
その都度のことをやっていく実店舗です。
大坊 はい。
糸井 それが、あのね、いい場所にあるんですよ。
表参道をまっすぐ行って、
「根津美術館」にぶつかりますよね。
天ぷら屋さんのある交差点。
大坊 ええ、わかります。
糸井 あそこを左に曲がると橋がありますよね。
その橋のちょっと手前に
クリーニング屋があったでしょ?
大坊 ありました。
右側に。
糸井 そう、右側に。
あそこをぼくら、借りたんです。

どうでしょう、大坊さん、
もしもなにかやろうかなと思ったら、
そこでやりませんか?
大坊 ‥‥あの、
そこの場所はですね、
「こんな所で店をやりたい」って、
ずっと私が思っていた所です。
一同 ええーー!
糸井 ほんとう?!
山下 ほんとですか?!
大坊 お店をやっているあいだに
何度か立ち退きの交渉がありまして、
そのたびに、代替え地を考えるんです。
いつも頭のなかで思うのが、その場所なんですよ。
「店を移すなら
 あのクリーニング屋のあたりがいいな」と。
糸井 へええーーー。
ちょっと、うれしいかも(笑)。
大坊 すこし町はずれで。
あそこの位置を、ずっと検討してました。
糸井 ちょうどいい場所ですよね。
大坊 ちょうどいいです。
糸井 じゃあ、大坊さん、
そこでやってみませんか。
大坊 趣味の範囲でよろしければ。
糸井 もちろんです。
ご自分の心の準備もあるでしょうから、
好きな時でいいんです。
ぼくらは何も要求するものはありません。
大坊 そこで焙煎もしていいんですか?
糸井 大丈夫でしょう、問題ないと思いますよ。
もうすぐ工事が終わりますから、
見に行ってみましょう。
大坊 そうですね‥‥‥‥。
糸井 できそうじゃないですか。どうやら。
大坊 ただ、やはりお客様の前でコーヒーを作るのは、
やはりまた慣れませんので‥‥。
糸井 もう、お好きなようにしてください。
大坊 隠れた場所で淹れるのであれば
大丈夫だと思うのですが。
糸井 隠れて淹れる場所をつくりますよ。
大坊 そうですか。
山下 この絵を飾りましょう。
お客さまは、コーヒーを淹れる大坊さんの
絵を見ながら、できあがりを待つとか。
糸井 あぁ、それもうれしいんじゃないですか。
福田 役に立てればぼくもうれしいです。
糸井 ですよね、
みんなよろこぶと思うんですよ。
具体的なお店のやり方とか、
お客さんをどうするかとか、
また話し合いましょう。
とにかく、大坊さんのやりやすいように。
ぼくらからは、何も制約ないですから。
大坊 それは‥‥できるかもしれません。
糸井 やりましょう、やりましょう。
大坊 いいですね。
継続的にやれるかどうかは、
考えなくてはなりませんけども‥‥。
糸井 はい。ほんとうにお好きなように。
しつこいようですが、制約はなにもないので。
山下 なんだか、すごい展開に。
福田 はい。
糸井 あ、忘れてた‥‥
そういえば、制約がひとつだけありました。
山下 ‥‥なんですか?
糸井 ぼくをかならずお客にしてください。
一同 (笑)
大坊 わかりました、お待ちしています(笑)。
  (対談は終了です。
 最後までお読みくださり、ありがとうございました。
 なんとなんと、「大坊珈琲店」が、
 ほぼ日のお店で、復活するかもしれない?!
 すごい展開になりました。
 詳しいことが決まりましたら、
 なんらかのかたちでお知らせいたしますね。
 それでは!)
2014-07-25-FRI

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