ダーリンコラム

糸井重里がほぼ日の創刊時から
2011年まで連載していた、
ちょっと長めのコラムです。
「今日のダーリン」とは別に
毎週月曜日に掲載されていました。

吉本隆明リナックス化計画(前編)

前回の<耳からの理解。耳のたのしみ>の続きです。

吉本隆明リナックス化計画‥‥。
冗談じみたタイトルに見えるかもしれないけれど、
これは、実現することを本気で考えている計画だ。

「ほぼ日」のなかや、よその媒体で、
ときどき言っていることなので、
知っている人もいるだろうけれど、
ぼくらは、吉本隆明さんの講演の録音素材を、
すべてデジタルアーカイブにすることから仕事をはじめた。

劣化したり、破損されてしまう可能性のある
磁気テープの音源を、デジタル音源として残し、
保存や編集ができやすいようにした。
講演の回数は170にもなっていたが、
デジタル化の作業は、すべて完了した。
また、音量の極端なばらつきなどは、
この段階で調整された。
ライブ感を損なわないよう、編集は最低限にした。

そこまではいいのだ。
そこまでは、ある意味ではやればできる仕事だった。
しかし、この後が問題だ。
この吉本隆明講演アーカイブは、
ただ保存するだけで満足していいものではない。
音源は、ある。
聞く人がいれば、その講演はいつでもスタートして
聞くことができるのだ。
聞く人と、どうやって出合うのだ。
ここからが簡単ではない仕事なのだ。

「ほぼ日」でダウンロード販売する、
ということが最初に考えられることだった。
原価が抑えられて、流通の問題もほとんどない。
この販売方法を前提にして考えはじめたら、
このプロジェクトはすぐに手がかからなくなりそうだ。

しかし、多少なりとも
音楽のダウンロード販売について経験のあるぼくらは、
この方法では、多くの聞き手を集めることがむつかしい
ということもわかっていた。
たしかに新しい方法かもしれない。
軽くて、速くて、現在らしいやり方ではあるのだが、
さて、自分が200近い講演名を見て、
どれをダウンロードしようかなどと考えはじめたら、
ずいぶん面倒なことに思えてくる。

次には、DVDのかたちで、
ネットからのダウンロードでなく、
音の盤として販売し、
ここからiTunesなどにダウンロードしてもらい、
iTunesやiPodで聞いてもらうということも考えた。
これだと、面倒はだいぶん省ける。
しかも、ひとつの講演ごとにダウンロードしていくという
手間がなくなって、まとめていくつもの講演を
自分のパソコンに保存することができるわけだ。
この販売方法は、基本的にいきることになる。
しかし、ディスクをパソコンに入れて、
ダウンロードしてから聞く、という作業は、
なれてない人にとっては、これもまた
なんだかずいぶんややこしいことに思えるだろう。
誰かに手伝ってもらえば、結局のところ、
いちばん便利な方法なのだけれど、
吉本隆明講演アーカイブが、いかにもデジタルな
たった一枚のディスクになってしまうだけでは、
なんとなくもの足りないような気がする。

やっぱり、「ここにあるんだ」という存在感のある
どっしりしたセットがほしい。
コンピューターというようなものに縁がなくても、
聞こうと思ったら聞けるようでないと、
吉本隆明さん自身も、聞けないものになってしまう。
そういうわけで、50回分の講演を、
115枚のCDにして2冊の特製バインダーに入れ、
さらにボックスにした『吉本隆明 五十度の講演』という
「商品」をつくることになった。
先述のDVD-ROMも付けてあるので、
それをパソコンに取り込むこともむろん簡単にできる。
各講演の内容を掲載したパンフレットがついて、
価格が50,000円という豪華版ができた。
お気付きの人もいるかもしれないが、
50,000円といっても115枚のCDで割り算すると
一枚が500円弱ということになる。
「高いといっても安い」などと言われたいという
ぼくらの意思が、いちおう汲み取ってもらえたらうれしい。

さて、そこからが考えどころだった。

ここからが、タイトルにつながるのですが、
(つづく)にさせてください。
ま、おそらくあなたの想像に近い展開になります。

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いちおう、自分用のメモの意味も含めて、
次回の概要などを‥‥。

・DVDの貸し借りについて、お目こぼし?
・もともと、どうしたかったんだっけ?
・でも、利益を考えないような仕事はダメだよ。
・いや、どっちも納得の考え方があるぞ!
・「お金持ちは、宝石をジャラジャラさせて」
・首都高速は、どうして?
・監修者の意思を聞いてみよう。
・吉本隆明リナックス化計画。
・すこし心配、おおむねたのしみ。

こんな感じで書く予定です。

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