ダーリンコラム

糸井重里がほぼ日の創刊時から
2011年まで連載していた、
ちょっと長めのコラムです。
「今日のダーリン」とは別に
毎週月曜日に掲載されていました。

弱勝強敗。

得意なものごとっていうのは、
やがては必ず弱点になる。

「おれは、○○が得意だから、
 彼女は、おれから離れられないのさ」
なんてセリフが、マンガのなかにあったりするけど、
そう発言した男は、
その「おれ」よりも「○○」の得意な男の登場を、
戦々恐々と待っていることになる。

つまり、彼女という人が、
「おれ」その人、ではなく「○○」を求めているのなら、
より「○○」のあるところに行ってしまうのは、
当然のことと言えるだろう。

○○のなかに、「金儲け」を入れても、
「才能」を入れても、「おもしろさ」を入れても、
「いい顔」を入れても、「親切」を入れても、
「筋肉」を入れても、「若さ」を入れても、
なんでもいいんだけどね。

得意を、得意と意識して、
それに頼ったり、それを磨いたりするのは、
いいこととされている。
それは、個人の場合だけでなく、
組織の生き方としても、
そうするべきだとされていることだ。

ぼくも含めてだけれど、たいていの人も組織も、
得意なこと、他者より優位に立てることに
できるだけ集中して、力を増していくものだ。

だけど、その優位は、
いつでも劣位になる可能性があるんだよなぁ。
個人の肉体をフルに使った格闘技とか、
見てるとわかると思うのだけれど、
最強の王者が、10年君臨するというだけで奇跡だ。

「若いんだから、若さを誇り、若さを磨き、
若さを武器に戦っていくんだ」
なんて、まったくまちがってないと思うけれど、
その「若さ」というやつは、
誇っているうちにも磨いている間にも、衰えていく。

なにが得意かがわかっていたほうが、
機能として理解しやすいし、
売り物として売りやすい、
武器として使いやすいとは思うのだけれど、
これだけだと、危険なんだよなぁ。
土地の養分が枯渇するということなのかなぁ。

「○○」はすごいけれど、
それだけで語れないなにかがある。
というふうな人や組織は、どういうふうにできるのか。
その重要な問題の答えを、
ぼくなんかがわかってるはずもないのだけれど、
あえて言えば、最初に書いた
「得意なものごとっていうのは、
やがては必ず弱点になる」ということを、
覚えておくことなんじゃないかなぁと思っている。

例えば、よく言われるような「スーパーマン社長」は、
その「スーパーマン」ぶりが、優位だし、武器だ。
しかし、同時に、それが弱点だ。
「技術じゃ負けない」会社も国も、
それが同時に弱点だ。
どうしてか説明なんかできなくてもいい、
これは、鉄則なんだから。

長所があったら、それはそのまま
弱点だと思ったほうがいい。
ぼくは、そういう風に考えている。
だから、長所でないところに、
なにか育たないものかなぁと、
たえず考えたり、遊んだりしている。

ま、もともと、ぼくの場合は、
あんまり得意なことがなかったから、
こんなことばかり考えるようになったのかもしれない。

恐竜絶滅後の哺乳類の歴史とかを、
ドキュメンタリーで見てて、
なんともうれしいのは、
「弱さ」の側がこそ、
生きのびるからではないだろうか。
自然界の歴史については、まちがいなく、
「弱勝強敗」だからねー。

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