宮沢 |
『海辺のカフカ』の主役の子は、
お芝居が初めてなんですね。
演出の蜷川幸雄さんにも、
「今のセリフ違う! もう一回。
こう言うんだよ! こう言うんだよ?!」って、
わたしたち「千本ノック」って言ってるんですけど。
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ルヴォー |
(笑)
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宮沢 |
わたしが今まで、素敵な演出家の方だったり、
共演者の人から教えてもらって気付かされた発見を、
彼にどう提供できるんだろう?
(胸のあたりに手を当てて、扉のしぐさをして)
もっとここを開くっていうこと。
彼は、その鍵がまだ開いていなくて、それを‥‥。
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ルヴォー |
それはむずかしいところですよね。
不安があったりすると、もっと扉が閉まってしまう。
それは当然ですよね、不安になったら人は扉を閉めるから。
そしてそれは初舞台の人に
限ったことでもないと思うんです。
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宮沢 |
そうですね。それはそうかもしれない。
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ルヴォー |
「あなたはひとりじゃない」
って言ってあげるのがいいかもしれない。
よかったら、彼にお話してあげて。
ぼくがブロードウェイで、
『ナイン(Nine)』っていうミュージカルを
演出したことがあるのだけれど、
稽古中にね、主演のアントニオ・バンデラスさんが、
やけに今日は頑張ってるな、
なんだか妙に力が入ってるなっていう日があったんです。
ぼくはこう言いました。
「あのね、アントニオ、
あなたは主演俳優でいて、いいんだよ。
その許可を貰ってるんだよ、君は」
すると、バンデラスは、「えっ?」って。
そんなこと考えたこともないっていう顔して僕を見ました。
あれだけの映画スターである彼でも、
「“俳優そのもの”でいてもいい」と
初めて思ったんだなと。
それまでは「“俳優である自分”を見せなきゃ」って、
どこか思ってたみたいなんですよ。
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宮沢 |
なるほど。
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ルヴォー |
「(俳優としての自分の価値を)示さなきゃ」って、
彼ほどの人でも考えるんです。
彼が思うんだったら、誰でも思うんじゃないかな。
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宮沢 |
もちろん。
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ルヴォー |
だって、誰にだって、
演じるって、とても怖いことだから。
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宮沢 |
そう。恥ずかしいし、今でもそうです(笑)。
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ルヴォー |
やればやるほど楽になるものでもないしね。
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宮沢 |
ない。もう本当に慣れない。
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ルヴォー |
やればやるほど、やっぱり自分をさらけ出すことへの
負荷が大きくなるばっかりでしょう?
でも、それって美しいことだと思うんですよ。
そういう時こそ“生きて”くるでしょ?
でもね、何かうまくいってないっていうのは、
自分がまずいんだって思うことが多いと思うんだけど、
それは何かが生きてるから、
うまくいかないということなんだと思います。
もう毎日、毎秒、失敗を許すっていうことですよ。
恐れるんじゃなくて。
失敗っていうものと、
仲良くやっていくっていうことも必要ですね。
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宮沢 |
いや、本当。
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ルヴォー |
だって、絶対に失敗しなくなる日は来ないから。
失敗と仲良くなれば、
失敗によって追いつめられることがなくなる。
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宮沢 |
そうですね。でも、なかなか仲良くはなれないなぁ。
歩み寄ろうという努力はするけど(笑)。
やっぱり失敗を見られるのは
恥ずかしいことじゃないですか。
でも、そこを通らなければ、
今まで自分も気付かなかった自分っていうものには
出会えないっていう。
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ルヴォー |
そう、やらなかったらね、出会えない。
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宮沢 |
そう。だから、わたし、優等生のお芝居は、
なんとなくはできるけれども、
なんかそれじゃ自分がつまらないし、
やっぱり、今までこんな自分を知らなかったっていう
自分に出会いたい。
でも、それをみんな、稽古場でみんながいる前で
やるっていうのは‥‥。
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ルヴォー |
そうだ。本当にその通りだ。
偉大な俳優ほど、常に屈辱っていうところに
自分を置いている時がある。
言ってみれば、凡庸な人ほど、
その恥ずかしさを感じてないことのほうが多い。
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宮沢 |
あぁ、なるほど。
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ルヴォー |
大昔、すごく若い演出家だった頃、
ロンドンのロイヤル・ナショナル・シアターで
演出をしていて、
正直言って、一緒に組みたいと
あんまり思っていなかった役者と仕事をしたんですね。
でも、ナショナル・シアターが「この役者で」
って言うから、やってたんですけど。
そのとき俳優は、
「こいつは若い演出家だから、この若造に教えてやらねば」
と思っちゃったらしいんですよ。
たしかに演出家は、俳優によって教えられるものですよ。
それはそうなんです。
ただ、彼の教えようとしていたことは、
あまりにつまらなくて(笑)。
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宮沢 |
(笑)どうしたんだろう!
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ルヴォー |
1日目で、すべてが裏目裏目に出てきちゃって。
「幕開けはこうしましょう」っていう提案をしたら、
その俳優が、「あのね」って。
「このセリフ、僕ならふた通りあると思うんだ」(笑)。
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宮沢 |
ふた通りしかないの?!
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ルヴォー |
そこなの、そこなんです!
でもね、彼は「この俳優という技を見せてやる」
くらいに思ってて、
「こういうふうにも言えるし、こういうふうにも言える」
みたいな(笑)。
で、座って見ながら、「そんなことをよく言えるよね、
この人(笑)。イマジネーション皆無じゃん」
と思って。で、なんかね、
自分でそんなつもりがないうちに
自分の声が聞こえてきて(笑)。
「もちろん、3つ目がありますよね?!」
思いより先に自分の声が先に出てきちゃった(笑)。
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宮沢 |
(笑)
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ルヴォー |
結局、「このままではだめだ」って思いました。
体験をする前に、もう自分の手で
コントロールしようと思っちゃってる人だから。
芝居は、そのコントロールしたい気持ちを
放棄しなきゃいけないでしょ、まず。
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宮沢 |
そうですね。
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ルヴォー |
それを1回放棄して、突入してから、
ちゃんと行くべき道を探すだけの、
俳優としての規律みたいなものを発揮する、
それが正しい順番じゃないですか。
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宮沢 |
本当にそう思います。
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ルヴォー |
目覚めた状態で、
コントロールというものを一旦放棄する。
そこからしか始まらない。
怖いですよ、それは。
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宮沢 |
本当に怖いです(笑)。 |
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(つづきます!) |