木内 |
あとひとつだけ聞かせてください。
日本だと、劇場に男性客がなかなか来てくれません。
他の国もそうでしょうか。
それはなぜなんだろう?
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ルヴォー |
欧米でも、どの演目を観るかを選ぶのは女性、
とは言われているんですよ。
やっぱり男性の仕事の忙しさを考えると、
1日働いて、その後劇場に行くっていうことが、
なかなかできないのかもしれないですね。
たしかに日本よりはイギリスやアメリカの
演劇人口における男性の比率は高いですけどね。
でも、やっぱりどこでも
女性に受けなければ成功できないっていう法則はある。
今、何でもそうですよね。映画もやっぱり。
売れるかどうかを推進するのは女性である。
秘密の権力を握っているのは女です。
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木内 |
そういうことですね(笑)。
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ルヴォー |
でも、女性に媚びてるものを女性が喜ぶとも限らない。
そこは、すごく女性は厳しく見ていますよ。
目が肥えているから。
そして女は他の女を好まないっていう、
複雑さがあるから。
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▲舞台『昔の日々』からの一場面(撮影:源 賀津己) |
木内 |
たいへんむずかしい真実です(笑)。
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ルヴォー |
「女としてひとくくりにされた」
っていう気持ちにさせないように、
すごく気を付けないといけない(笑)。
いっぽう、男は男同士で
くくられるのが好きじゃないですか。
女性が男に、「男って」って言うのを、
男はそう言われて密かに喜んでるんじゃないか(笑)。
でも男に、「女って」「女はこうだ」とか言われたら、
女性はみんな嫌ですよ。
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木内 |
そのとおり!
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ルヴォー |
女性は他の女と一緒にされると、
「あ、自分も女なんだね」ってなるという矛盾があって。
もちろん女性の権利がまだ足りないっていうことを
主張したい時は、やっぱり女性同士で集まって、
そこで政治的発言権を得たりするけど、
発言権を得るためにはつるまなきゃいけないっていう
必要性はわかっていても、
本質的につるむっていうことをよしとするところが
あまりない。
だから、複雑なんです、女性は。
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木内 |
本当ですね。
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ルヴォー |
「女性がいちばん、世界を左右する力を持つべきか?」
と聞かれたら、ぼくはこう答えますよ、
「そうあるべきだ」。
女性は男性よりも、
人間であるということのすべてのふり幅を、
あらゆるふり幅を恐れない。
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木内 |
ハァ‥‥(笑)!
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ルヴォー |
深いため息だね(笑)。
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木内 |
(笑)
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── |
ルヴォーさん、次が映画で、
さらに舞台のご予定はあるんですか?
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ルヴォー |
パトリック・マーバーの『クローサー』です。
ナタリー・ポートマンやジュリア・ロバーツで
映画にもなった戯曲です。
ロンドンで上演します。来年の初めです。
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── |
ぼくらはルヴォーさんの『ナイン』を観て、
『人形の家』を観て、
それを超える舞台に出会えないでいる、
っていうトラウマがあるんです(笑)。
何を観ても比較しちゃう。
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ルヴォー |
ぜひ『昔の日々』を観に来て!
でも『ナイン』を楽しんでいただいて、
本当によかったです。
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木内 |
ルヴォーさんにとって、
ミュージカルとストレートプレイは、
どんなふうに異なるものですか?
あるいは同じものですか?
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ルヴォー |
同じように考えています。
技術的に違うアプローチをすることはあっても、
本質的には、歌っていうのは場面だから。
歌を演出する時に、どういう状態で突入し、
どういう状態で出てくるかっていうのを
考えないといけないのは、普通のお芝居の場面と一緒。
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── |
すいません、こんな質問、変なんですけど、
ルヴォーさんが自分の作品以外で
好きなミュージカルとか好きな芝居はあるんですか?
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ルヴォー |
いっぱいありますよ!
ミュージカルなら、
スティーヴン・ソンドハイムの大ファンです。
そしてアンドリュー・ロイド・ウェバーの
『ジーザス・クライスト・スーパースター』。
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スティーヴン・ソンドハイム
アメリカの作曲家・作詞家。代表作に
『ウエスト・サイド物語』『スウィーニー・トッド』など。
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アンドリュー・ロイド・ウェバー
イギリスの作曲家。代表作に
『ジーザス・クライスト・スーパースター』
『エビータ』『キャッツ』『オペラ座の怪人』など。
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ルヴォー |
『ジーザス・クライスト・スーパースター』は
初演を観ているんですよ。
自分はまだ15歳で、叔母さんの家に遊びに来てて、
チケットを自分で買って、行ったんです。
晴れた夕方で、オトナはみんなバーでお酒飲んでて、
そんなロンドンの街を、『ジーザス』を観に行くために
歩いた時のことをよく覚えてる。
なんかカッコいいなって。
もう70年代だったけど、
まだ60年代が続いていた。
ヒッピーの価値観がまだ残ってた。
ぼくはお金をたくさん持ってなかったから、
安い、天井桟敷の席から観ていました。
カッコいい連中が出てきて、
舞台がね、光る十字架だけだった。
当時はそんなに技術も発達してないから、
ただ単純に十字架が光ってた。
舞台上にバンドがいて、
本当のヒッピーみたいなジーザスがいて、
ユダも本当のヒッピーみたいだった。
そしてぼくはマグダラのマリアに恋をした。
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木内 |
すごい、15歳で(笑)。
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── |
早熟。
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ルヴォー |
その後に観たのが、初演の『エクウス』でした。
主演はアンソニー・ホプキンス。
アンソニー・ホプキンスを誰かも知らなかった。
というよりも、まだその時、
彼はアンソニー・ホプキンスでもなかった。
けれどもすごく存在感のある役者だなと。
でも、ウエスト・エンドなんだから、
役者はみんな存在感があると思って観てたんです。
そうそう、全裸の場面があるんです、この舞台。
でもぼくはそんな、まさか全裸になるなんて、知らなくて。
女性のキャストも、「あ、きれいだな。きれいな子だな」
と思って観ていたら、脱ぐものだから驚いて、
こんないいもの観たことないって(笑)!
なんだかよくわからないけれども、このお芝居は、
裸になって馬に乗って、目を潰すという行為をしないと、
性的に解放されたことにならないって言ってるんだな、
と思って観てました。
だから、終演後、歩きながら、
「俺、つまんないやつ!」みたいに思ってね。
「そこまで俺の性生活はドラマチックじゃないなぁ」
と思って歩いてました。
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『エクウス』
イギリスの劇作家
ピーター・レヴィン・シェーファーの戯曲。
1973年初演。馬の目をつぶした少年と精神科医の話。
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木内 |
最高(笑)。
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ルヴォー |
俺イケてるかな? なんて思ってたのが、
何? 馬の目まで潰さなきゃいけないの(笑)?
でも、よかった、それで「そうだ」と思わないでよかった。
10代は、1人っきりで、ずいぶん冒険をしました。
ウエスト・エンドで。
ロンドンの叔母っていうのがすごくリベラルな、
自由な人だったから。
叔母はあのミュンヘンオリンピックの、
水泳の金メダリストの娘で、
『デイリー・テレグラフ』っていう有力紙の
スポーツジャーナリストでした。
叔母さんの家だったら
ロンドンに遊びに行っていいって言われていて、
叔母も、「あなたが何をしようといいから、
ただ迷子にだけはならないで」って。
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木内 |
素敵すぎる! いいなぁ、いいなぁ。
ぼくにとっては、その叔母さんはルヴォーさんです。
tptでルヴォーさんに出会って、
もらった言葉から新しい世界を感じて、
ここまで冒険を続けることができてるんです。
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ルヴォー |
そんな、そんな。
でも、木内さんが自分の道を切り開き、
自分が吸収したことを自分の仕事に使って、
突き詰めていったことは、
本当によかったと思います。
いろんな若い人に出会うけど、
なかなか独立して「何か」になれる人っていなくて。
そもそも木内さんがtptに来ることを
選ばれた理由までは知らないのだけれど、
そこで必要な体験をして、
それを自分の道に生かされたっていうのは、
すごくいいことだと思う。
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木内 |
ぼくがルヴォーさんのワークショップに
参加することができたのは、
当時、離婚したところだったからですよ。
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ルヴォー |
知らなかった!
それね、少数派なんだ。なぜかっていうと、
「ワークショップに参加しました。
それの影響で離婚しました」
という人はいっぱいいるから(笑)。
‥‥ジョウダンヨ。
でも、ワークショップではないけれど、
演劇にかかわって離婚をしましたっていう人は
本当に多いんですよ。
なんか、みんな『人形の家』のノラになる(笑)。
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木内 |
(笑)自分だけじゃなくて、
デヴィッド・ルヴォーという人に出会って、
演劇を初体験し、革命を感じた人は、
すっごくたくさんいると思います。
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── |
ぼくらもそうです。
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木内 |
そういう意味でも、ぼくにとってはやっぱり、
先生なんです、本当に。
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ルヴォー |
ありがとう。
すごい後になって、そんなふうに、
「いや、実は」って聞くんです。
案外、すごく後になってしか、
影響されたっていうフィードバックってないんですよ。
すぐ言ってほしいですよね!(笑)
でも、そう聞くたびに、
なんだか1つ年取った気持ちになるな。
もちろんいい意味でね。
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木内 |
舞台、観に行きますから。
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ルヴォー |
ありがとうございます。
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木内 |
ルヴォーさん、ありがとうございました。
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ルヴォー |
ありがとうございました。 |