身近な医者の底力シリーズ かかりつけ医だから できること。

ほぼ日 思えば、子どものころって、
親もわたしも、同じ病院に行っていて、
先生のようなかかりつけのお医者さんに、
お世話になっていたんです。
お話をうかがっていて思い出しました。

育った場所を離れてからは病院って‥‥
もう東京に来てずいぶん経ちますけど、
いまだに病院って、どこに行ったらいいのか
わからないんです。
松村 うん、そうかもしれませんね。
ほぼ日 だから、どこか具合がわるくなったときには、
とりあえず大きな病院に行こうか、
ということになるんですね。

でもそうすると、
すっごく混んでいて、先生も忙しそうだし、
待つ時間も長いじゃないですか。
2時間以上待って診察時間は一瞬だったりして。
ほんとはもうちょっと
聞きたいことがあったんだけど、
なんだか聞きづらくて、
結局聞かないまま帰ってきたりとか。
松村 それが「近さがない」ということですね。
ほぼ日 子どものときに診てもらっていたような、
こういうお医者さんが
今もいるんだっていうのが、
お話をうかがっていてすごくうれしくて。

知らないかた、多いと思うんですよ。
松村 どこの町にもかならずいます。
昔からある商店街の人に訊けば、
きっと教えてくれますよ。
町の世話好きなおばちゃんとかね。
まぁ、そういう地域のコミュニティが
なくなってきてるのが、
いちばんの問題かもしれないですけど。
綿貫 あぁ、そういうことか。
松村 たぶん薬局とかで訊いたら
教えてくれるんじゃないかな。
あと、高齢者がいる家庭だったら、
各地域に「健康づくり課」のようなところが
かならずあるので、
そういう窓口に行くと教えてくれます。
ほぼ日 どんな町にもあるものですか?
たとえば、新宿とか千駄ヶ谷とかにも?
松村 あるある。
綿貫 あります。
本田 絶対あると思う。
ほぼ日 そうなんですね。
綿貫 でも、むずかしいなあ。
診療所にすら、まっすぐかかれないんですね。
どこに行っていいのか、わからない。
ほぼ日 そうなんです。
綿貫 それを教えてくれるおばちゃんがいなくて、
八百屋さんがなくなって‥‥
これ、むずかしい問題ですね。
ほぼ日 だから、あとは誰かの紹介ですよね。
同僚に「あそこの病院いいよ」と
聞いたりとか。
松村 そうですね。
職場の人からの紹介っていうのは、
うちなんかでもよくありますよ。
ほぼ日 そうですか。
でもほんとに、自分の生活のこととか、
前にこういう病気にかかったことがあるとか、
みんなわかってくれていて、
なんでも相談できるお医者さんが
近くにいたら、すごくいいだろうなーって、
こころから思いました。安心ですよね。
本田 そうでしょう?
だから、何かあったら
まずかかりつけの先生に相談して、
その先生がね、自分じゃないほうがいいと考えたら、
次の道を、かならず紹介してくれますから。
ほぼ日 それは、専門の病院を紹介してくれる
ということですか?
本田 そうです、そうです。
ほぼ日 そういうネットワークというか、
大きな病院とのつながりって、
どのお医者さんにもあるものなんでしょうか?
松村 ありますよ、もちろん。
だから、先端の医療と患者さんを結ぶ
架け橋みたいな役割もあるんですよ。
ほぼ日 じゃあ、この病気だったら、
どこに紹介して、とか。
松村 そうですね。
この病気でこの人の、この性格だったら、
あの先生、みたいな(笑)。
まぁ、そこがいちばん
むずかしいところでもありますが。
本田 へええ、そこまで考えていただいているなんて
すばらしいと思います。
松村 だって、患者さんとお医者さんの相性も
やっぱりありますからね。
キャラとして、こう、スパッとした先生もいるし、
やさしげな先生もいるじゃないですか。
で、スパッとした先生がいい人には
やっぱりスパッとした先生で、
逆に、この患者さんのこの性格だったら、
あの先生とはちょっと合わないだろうな、とか、
ある程度はわかりますよ。
まぁ、ある程度ですけどね。でも
長く地域で診療していると、
そういうこともうまくなっていきますよ。
ほぼ日 そこまで考えるのはたいへんそうですが、
とてもありがたいですね。
松村 いや、みんな普通にやってることですよ。
タナカ医院とかスズキ医院の先生って、
だいたいみんなそうしていると思います。
ほぼ日 へええ。
松村 よく、患者離れ、医者離れって言いますけど、
そういう意味では、
患者離れがいい医者のほうがいいですよね。
本田 いつまでも自分のところで
患者さんを抱え込まない、という意味ですね。
松村 そうです。
ただ、その加減は地域にもよるので、
いちがいには言えませんけどね。
それこそ、ヘリを呼ばなくちゃ
大きな病院にいけないようなところだと、
診療所のお医者さんが
できるだけ何とかしないといけないだろうし。
綿貫 ぼくは新島の診療所に
赴任していたことがあるんですけど、
やっぱり大きな病院は
ヘリや飛行機を使わないと行けなかったです。
あそこは遠方なので‥‥
松村 うん、そうですよね。
だから、地域によって違いますよね。
ほぼ日 よく、親が具合が悪いなんて聞くと、
「専門の先生にちゃんと診てもらったほうがいいよ」
と言ってしまうことが多かったんですが、
お話をうかがっていて、認識をあらためました。

まずはじめに、近くのお医者さんに
診てもらったらいいんですね。
その先生が専門の病院で診てもらう必要があると
判断したら、次の病院を紹介もしてくれて‥‥
それはとてもいいですね。
松村 医者の仕事にもいろんな在りかたがあって、
心臓の病気で心臓の弁を治すというような、
珍しい病気を瞬時に見分けるとか、
特別な技術をもつお医者さんっていうのは
絶対に必要なんですが、
一方で、こういう、誰でもできるといえば
誰でもできることなんだけど、
そういうことを一生懸命やるお医者さんが
それぞれの地域に
たくさんいないといけないんです。
本田 ほんとにそうですね。
松村 少なくとも、ひとつの町の
1丁目、2丁目、3丁目とあったら、
そのひとつずつにいなきゃいけないと思う。
ほぼ日 近くに知ってる先生がいたらいいですね。
そうじゃないと、
ちょっと体調が悪いことがあっても、
そのうちそのうちって、つい我慢しちゃうので。
松村 我慢してすごく具合が悪くなってからだと、
治療も大変なんですよ。

だから、ほんとうはその病気になる前に、
少なくとも病気を早いうちに見つけられるように
たとえば子宮がん検診を2年間やってないんだったら、
「2年間やってないんじゃないですか、
すぐやったほうがいいですよ」って
教えてくれるような先生がいちばんなんです。
本田 「やったほうがいいですよ」って、
ひとこと言われるだけで違いますからね。

(つづきます)



2010-04-09-FRI