糸井 |
しりあがりさんの
『真夜中の弥次さん喜多さん』、
いまの『弥次喜多 IN DEEP』って、
すごいマンガですよねぇ・・・。
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しり |
イトイさんが最初の頃に
電話をくれたの、ほんと嬉しかったなぁ。
人気なかったし。
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糸井 |
謙遜で言ってるのかと思ったけど、
あれ、ほんとに人気がなかったんですか?
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しり |
ほんとに人気なかったんです。
好きな人はいてくれたんですけど、
あのイトイさんから電話があったとなれば、
みんなに吹聴しましたし、
編集者もそうかと言ってくれて。
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糸井 |
ぼくは、一も二もなく、
「この馬券は、オトーサン、
お守りにするから、買っといてくれ」
みたいな気持ちでしたねぇ。
そんな気分で。
ぼく、素敵だなぁと思って
電話をかけることって、
一生のうちに何度かあるんですけれども、
そんなにたくさんは、ないんですよ。
弥次さん喜多さんを見た時に電話をしたのは、
「誰もほめないとは思わないけど、
本人は、どこまでやっていいんだろう、って
悩んでいる可能性もなくはない」
って感じたんです。
勢いがつけば、どこまでも遠くにいけそうだし、
どうなるか楽しみだなぁ、という気持ちで
電話したんですよ。
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しり |
いや、ほんとにまさに迷ってました。
「こんなこと、してていいのかなぁ・・・」
って。
でも、イトイさんが電話くれたなら
してていいに決まってる、って思いました。
はじめの本が出た時で。うれしかったぁ・・・。
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糸井 |
しりあがりさんって、
そういう名前じゃなかったら、
まったく違う運命を辿ったでしょうねぇ。
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しり |
そうですね。
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糸井 |
名前って、おおきいですよ。
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しり |
いま、しりあがり寿がなじんじゃって。
昔は笑ってもらえたら嬉しかったんです。
「あ、受けた!」って。
でも、今は「変な名前」って言われると、
ちょっとムッとしちゃいますもん、
なじみすぎて。
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糸井 |
(笑)ハハハ。
すごい進歩ですよ。
知りあいの女の人で
ホームページをやってる人が
「自分の名前を刻んだネームプレートが
宇宙に打ち上げられてまわっていたら、
自分がまわっているみたいな気持ちになるだろう」
って書いていたんですよ・・・。
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しり |
なるほどねー。
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糸井 |
「しりあがり寿」って、
ものすごくクッキリと
銅板か何かに刻んであって、
月ロケットかなんかで飛んでいったらどう?
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しり |
それ、イイ。
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糸井 |
名前って、
ものすごいことですよねぇ・・・。
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しり |
まず、自分の名前で
墓をたてられたらいやですもん。
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糸井 |
墓に自分の名前があった時の恐怖って、
すごいだろうねぇ・・・。
だからそこから一皮むけるために
生前にお墓をたてるんだね。
そのストレスを、
「どんと来い」って言って、待つんだね。
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しり |
待つんだー・・・。そうかも。
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糸井 |
それで、自分の名前をくっきり刻んだあとに
「俺は、死ぬんだ・・・」って思うんだ。
・・・死ぬの、まだ意識しないでしょ?
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しり |
いやぁ、でも怖いですよ死ぬの。
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糸井 |
思うことあります?
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しり |
ありますよ。
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糸井 |
へぇー。
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しり |
飲みすぎて、どこか痛くなった時に
「あ・・・ガンかも?」と思うし、
やせたね、って言われると「ガンかも?」って。
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糸井 |
死ぬリアリティって、
このあいだはじめて持ったような気がする。
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しり |
なんか、あったんですか?
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糸井 |
何にもない。
寝る時、いつものように
パジャマに着替えて歯を磨いて、
落語を聞こうと思ったその前に、
「あぁー・・・そうかぁ」って。
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しり |
内容とも関係なく?
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糸井 |
うん。
ちょっと、しりあがりマンガみたいなんですよ。
何の理由づけも連鎖もなくて。
「俺がいなくなる、ということが、
死ぬ、っていうことなんだなぁ・・・」と。
「無だ」と思ったんですよね。
となりにツマが寝てるじゃないですか。
こいつがいて、俺がいないんだ・・・。
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しり |
自分だけスポッといなくなる世界。
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糸井 |
その世界が、いつ来るのかという
無な感じが・・・。
他人の死として最初に思ったのは、
オヤジなんですよ。
オヤジが死んだのが12月で、
そのあと正月に帰った時に、
「あ、もう来ないんだ」って思ったの。
酒を飲んでてぶつぶつ言ってるのが
オヤジの姿のはずなのに、
永遠に、それがない。
死って、死の瞬間じゃなくって、
「あと」なんだなぁと思った。
そして、その役割が
自分にもまわってくるんだと思って、
「あ・・・いない・・・んだ」と。
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しり |
こわいですか?
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糸井 |
いや・・・ちょうどいい(笑)。
こわい、って言いたいんだけど、
正直に言うと「そういうことか」って。
残念という気持ちはちょっとあります。
でも、それよりも何よりも、
「何にもないって、すごいなぁ・・・」
と思います。ここでつりあいがとれるんだ、と。
あればあっただけ、ないが強烈になる。
これはもう、しりあがりさんの
『弥次喜多』の世界ですよ。
その1日だけはそういうことを思ったんです。
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しり |
ぼくはいまだにこわいですね。
ケチで欲があるんでしょうね。
あれもやりたい、これもやりたいと思うと・・・。
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糸井 |
そりゃ、ぼくもケチで欲がありますよ。
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しり |
でも、びっくりするほど
確かに何にもない、というか。
今まで40年とか50年生きてきて、
いろんなことを考えてきて、
いろんなことを残したり残さなかったり、
それがスパッとなくなる。
そうなると、何を外に置いたか、といっても、
それも関係ないですよね。
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糸井 |
ない。
誰も自分を待ってない、というのが
すごいですよねぇ。
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しり |
お年寄りの人たちを見ていると、
天国とかあの世を信じられたら
幸せなんだろうなあとは思います。
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糸井 |
そうねー。
「ない」に耐えられないんだろうねぇ。
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しり |
そうそう。
すごいよねぇ、人間の想像力って。
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糸井 |
戦国の世の中で、
みんながひどいめに遭っている時に、
「人間は、生まれ変わらないんだよ」
って言った宗教が、人気出たんですよね。
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しり |
へぇー。
「こんな世の中に生まれ変わりたくない」んだ?
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糸井 |
うん。
「君はもう、二度とこんなところに
生まれてこなくても、いいんですよ」
と言っただけで宗教がアピールしたっていうことは、
今の人が死にたくないとか
生まれ変わってハッピーに、って言ってるのは、
幸せだからなんでしょうね。
「時代はどんどん悪くなってきている」とか
「混乱の世の中だ」とか言うけど、
生まれかわらなくていいんだ、って言われて
よろこんでいた世の中と比べてみろよ、っていう。
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しり |
(笑)なるほどねー。
そっかぁ。
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糸井 |
悪くなるだのいいだのって、きっと、
贅沢病みたいなところがありますよね。
さっき、トマトがうまいって話を
していたんですけど、
それがなんでうまいかというと、
ギリギリまで水をやらないからなんですよ。
持っているチカラ、取り入れるチカラを
出させるために、水も肥料もあげない。
カラカラの土地に、ものすごい根が張って
吸い上げて、でも水分のほとんどない
水に沈むようなかたいトマトができる。
そこにすごい甘味がのっかるというか。
それとなんか近くって、
取り入れようとするチカラみたいなものを、
俺たちも、取りかえしたいんだろうね。
ほうれんそうなんかも、過栄養で
毒素ができてしまう、というか・・・。
生きていくためのチカラは
自分で持たないと、過栄養で死ぬぞというか。
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しり |
あぁー。
教育みたいなのにおきかえると、
水をやりすぎてもよくないし、
やらなさすぎてもだめだし、その加減ですよね。
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糸井 |
おおむね「やりすぎ」なんですよね(笑)
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