身近で親しい、デザインあ展 佐藤卓×糸井重里
日本科学未来館で開催中の
企画展「デザインあ展 in TOKYO」の会場で、
グラフィックデザイナーの佐藤卓さんと
糸井重里がトークをしました。
閉館後の館内を卓さんにガイドしていただき、
わくわくするような展示を体験したり、
デザインの概念にまで話をひろげたり。
みんなに喜ばれているデザインは、
佐藤卓さんが見つめる「あたり前の日常」に、
どうやらヒントがありそうです。
第5回 うちにあるものを見に行こう
写真
糸井
こういう展覧会は、
いいクリエーターと出会うチャンスだし、
おもしろいですね。
佐藤
すごく刺激を受けるんです。
「あ、こういう考え方があったか」と。
糸井
「この子はどういう道筋で育ったんだろう?」
と思うだけでもおもしろいですね。
佐藤
いや、おもしろいですね。
ぼくもちょっと、年を取ったのかな(笑)。
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糸井
子どもを育てる感覚ですね。
佐藤
本当にうれしいんです。
触発されますね。
糸井
相手が遊んでくれるうちが花ですよ。
佐藤
なるほど。
糸井
若い人を使うんじゃなくて、
若い人が遊びにつき合ってくれて、
ありがたいことですよ。
佐藤
ああ、本当にそういう感じです。
『デザインあ』という
プラットフォームを作ることができて、
そこで優秀な方々が、いろんなことを起こしている。
いろんな仕事してきましたが、
自分もやっと、その大切さを感じています。
糸井
選手として忙しすぎると、
その役ができないんですよね。
佐藤
本当にそうですね。
それでもやっぱり、
選手としてのデザイナーも続けたい。
糸井
選手を辞めたらダメなんでしょうね。
辞めてしまうと体感が揃わないというか、
カルチャーが変わっちゃうんだと思うんです。
佐藤
なるほど。
糸井
ぼくが書くことを辞めていたら、
実業家の人とつきあってばかりに
なっているかもしれませんから。
佐藤
わかります、わかります。
鉛筆で「0.1ミリ右にしようか、左にしようか」
みたいなやりとりも続けながら、
「社会のために、デザインは
何をしなきゃいけないのか」とか、
「これからの世の中のために
デザインを有効活用できるんじゃないかな」とか、
そういう俯瞰した視点も両方持っていたいというのは、
ここ最近、すごく思いますね。
写真
糸井
これだけのことをやると、
じぶんの中にも
だいぶ収穫があるでしょう?
佐藤
思いがけないことも起きるし、
収穫は計り知れません。
糸井
会場の什器はどう考えたんですか?
実は大変なことですよね。
佐藤
それは僕も考えるし、みんなとも話し合って決めます。
最終的には設計してくれる人にも
参加していただいているんですけどね。
「観察のへや」の構成には縦軸と横軸があって、
縦軸として5つのテーマにわかれています
(お弁当、マーク、容器、からだ、なまえ)。
もうひとつ、横軸としてわけていて、
手前から「みる」「考える」「つくる」という、
ステップで展示しているんです。
この手法は、5年前に開催したデザインあ展の手法です。
子どもたちが見るという前提で作品のレイアウトをして、
それぞれの作品の大きさ、高さを考えています。
糸井
ぼくたち大人が見ると、
けっこう低い場所にありますもんね。
それは子ども向けにしているんだなぁと思ったし、
あと、冷たすぎないようにもしていませんか。
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佐藤
そう、それは重要なことです。
糸井
整理されすぎている空間だと、
馴染めないですよね?
佐藤
糸井さんは、さすがですね。
すごく気をつけたところなんですよ。
ミニマムにして冷たくすると、
きれいなんだけど近寄りがたいものになります。
糸井
見事に、ちょうどよく
バランスを取っている気がしますね。
これをもっと手仕事っぽくすると、
法則性を見せたかったはずなのに、
そっちが見えなくなってしまう。
佐藤
はいはいはい。
糸井
そういう意味では、
名字が並んでいる展示なんて、
すごく効いてますよね。
あれっていわば、俗なものじゃないですか。
感想を持つのも簡単だし、
もしあれがなかったらと考えると、
部屋全体の冷たさがもっと出ちゃうと思います。
佐藤
あぁ、そうかもしれないですね。
写真
糸井
展示の並べ方は見事です。
入り口に野菜とか食べ物とかで
ユーモアを出しておいて中に行かせる。
いやぁ、時間をかけたお仕事だと思いました。
佐藤
ありがとうございます。
みんなと一緒に準備をしてできたことですね。
ことしの3月から5月まで
富山県美術館で展示をしたものを
東京に巡回させているんです。
糸井
あぁ、そうですか。
佐藤
富山県美術館の時に人気のあったコーナーは
倍のスペースにしたりとか、
巡回しながらいじったりしています。
糸井
編集していったんですね。
佐藤
巡回展の新しい形もちょっと模索したくて、
たとえば、この展覧会を海外に持っていった時に、
海外のコンテンツに入れ替えられたら
すごくおもしろいだろうなって思っていまして。
糸井
ああ、そうですね。
「あ」は、「A」になるんですか?
ひらがなの「あ」なんですか?
佐藤
そこは問題ですね。
言語が国によって違いますから。
糸井
「あ」って海外の人から見たら、
ただのおもしろい形に
見えるんでしょうね、きっと。
写真
佐藤
まったくそうですね。
ふしぎな造形だと思います。
糸井
お客さんがちゃんと来ているのも
素晴らしいですね。
佐藤
うれしいことに、
たくさん来ていただいてるようです。
ここには名画があるわけでもないし、
デザインの名作があるわけでもありません。
置いてあるものは、ごく日常のものばかり。
身近なものだから、親しみやすいんでしょうね。
特別なものを見に行くというよりも、
「なんか、うちにあるものが置いてあるぞ」
という、親近感があるのかもしれません。
美術館とか博物館ってやっぱり、
今でもまだ敷居が高いんじゃないかと思うんです。
糸井
日本科学未来館で展示しているのもいいですよね。
美術の「美」の字もないから。
佐藤
そうですね(笑)。
糸井
おもしろい、おもしろい。
佐藤
いやいや、今日は本当に、
お忙しいところをありがとうございました。
糸井
とんでもないです。
ありがとうございました。
佐藤
ありがとうございました。
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(おわります)
2018-09-11-TUE
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企画展「デザインあ展 in TOKYO」
2018年7月19日(木)ー10月18日(木)

日本科学未来館
会場
日本科学未来館

1階 企画展示ゾーン(東京・お台場)

開館時間
10:00ー17:00

※入場は閉館時間の30分前まで
ただし、土曜日、祝前日(9/16、9/23、10/7)は
20:00まで開館、常設展は17:00に終了

休館日
火曜定休

>公式サイトはこちら



山梨、熊本への巡回も決まったそうです!
<山梨会場>

会期
2019年4月から

会場
山梨県立美術館

(山梨県甲府市貢川1-4-27)


<熊本会場>

会期
2019年6月から

会場
熊本市現代美術館

(熊本県熊本市中央区上通町2番3号 びぷれす熊日会館3階)