第30回 這いつくばって見えてくる、
虫の世界。

対談 海野和男×糸井重里〜その1

糸井重里は、
虫に詳しくはないけど、
虫の話が大好きです。
こそっと、珍しい虫の名前を
知っていたりもします。
そして、今はカメラもお気に入りです。

そんな糸井重里と虫博士チームに、
昆虫写真の第一人者、海野和男さんが、
写真や映像とともに、たっぷりと
虫の世界を見せてくださいました。

海野さんの見せてくださる、
虫たちの写真や映像が面白くて、
その場にいる全員が、
「へ〜!」とか「すごい!」とか、
先生の話を夢中で聞く子ども状態に。

小学校の教室のように、
にぎやかな時間になったこの対談。
どうぞいっしょに、毎週少しずつ、
お楽しみくださいね。



対談:海野和男さん×糸井重里


海野さんのプロフィールは、こちら

●3Dの絵を持つガ
海野 (擬態のガの画像を見せながら)
糸井さん、この写真、
不思議じゃない?
何があるかわかりますか?


糸井 ‥‥ミノムシ?
海野 ミノムシじゃない。
何かいるんです。
糸井 え、これ全体が虫とか?
海野 でもこれ、まるで虫じゃないですよね?
葉っぱですよね、
丸まってますよね?
糸井 へへへへぇ! え〜?
海野 これ、こうやって、
ここ(赤い丸で囲んだ部分)以外を
削って見てください。
まだ、丸まった葉っぱに見えますか?


糸井 丸まった葉っぱに見えます‥‥
(きょとん)。
海野 でも、
「丸まってない」と見てください。
糸井 ‥え! これ模様だ!
おっもしろいな〜!
海野 模様です(笑)。
チョウの翅のようなものがあるでしょ。
これ、実は「ガ」なんですよ。
ガがね、枯れ葉の上に止まってるわけ。
ここ(赤い丸で囲んだ部分)が、
実は出っ張ってて胸なのね。



あとは、ただの1枚の翅(はね)に、
模様を描いたの。
糸井 3D!
海野 3Dですね。
3Dの絵を、ガが描いた。
これは、ガが枯れ葉に留まってる形。
このガは、翅に模様を描いたの。
糸井 立体視できるように模様が!
ははははは! え〜?!
ほぼ日 うそ〜?!
海野 上から光が来ると、
当然影が入りますよね。
そういう影の模様もつけてる。
糸井 これも海野さんが
お撮りになったんですか?
海野 うん。これね、日本にいるの。
実は僕ね、知らなかったんですよ。
糸井 この生物を?
海野 標本では普通に展示しているんで、
普通に翅を広げたものは
見たことあるんだけど、
標本からでは、分からないんですね。
それに最近は、
ガの写真を撮る人も多いんだけど、
昔はこんなガの写真を
誰も撮らないじゃない?
糸井 あ〜、なるほど。
海野 それで、生きた写真で
枯れ葉に留まっているのなんて、
見たことがなかったわけ。
この写真を撮ったのは、
15年ほど前なんですけれども。
糸井 う〜ん、面白い。
‥‥「まるまりくん」、
「マルマリガ」、
「ヤマトマルマリガ」。
ほぼ日 糸井さん、
そんな名前ではないと思いますが‥‥。
海野 ムラサキシャチホコというんですよ。
ガの仲間です。

●「THE PLANET OF INSECTS 虫たちの惑星」
海野 これ、随分昔に
自分で唯一作った自費出版の本。
ちょっと作ってみたくなって、
作った本です。

「THE PLANET OF INSECTS
 虫たちの惑星」


糸井 あ、いいですね。
そんなに虫マニアじゃないんだけども、
さっきのガみたいな話は、
面白いですねー。
海野 うん。
今みたいな話はね、面白いよね。
糸井 (海野さんに頂いた写真集を見ながら)
本当に神秘ですよねー。
あ、有名なやつが時々いますね。
自分も知っているようなやつ。
こいつこいつ、みたいな。
これ、武蔵丸たち(笑)。


ほぼ日 ジンメンカメムシですね。
武蔵丸さん限定ではないと思いますが、
確かに力士の顏に見えて、
初めて写真を見た時は、
じっと見入ってしまいました。
糸井 くくく! これ!


海野 これは、20年ばかり前に撮った写真。
一同 でかい(笑)!
海野 今、デジカメになってから、
こういう写真は流行ってるんだけどね。
昔は全然流行ってなくて、
ぼくがこの写真を撮ってね、
写真展に出したんですよ。
そしたらさ、
年寄りの先生にね、落とされちゃった。
「これはつまらない」って(笑)。
昔の人って、科学写真だったら
科学的な撮影じゃないといかん、
っていうのがあるのでね。
糸井 いや〜、これは科学的じゃないけど、
最高ですよね(笑)。
海野 いやいや。
科学的ですよ、これは(きっぱり)。
ほぼ日 これは、どこで撮影なさったんですか?
海野 このバッタを写したのは、
タイの山の中なんだけど、
この人たちはバッタを
見ているんじゃないんですよ。
この人たちは、僕を見てるわけね。
僕、寝っ転がって撮ってるから。
糸井 何をしてんのよ、と(笑)。


「この人」たちは、海野さんを見ております。
ほぼ日 バッタよりも、
地面に這いつくばって、
写真を撮る日本人が、
珍しかったんでしょうね。
糸井 あ、スカラベ(にこにこ)。


ほぼ日 フンコロガシですね。
お正月に
縁起の良い虫として
登場しました。
海野 この写真集は、
自分の写真展をやったときに作って、
会場で売ってみたの。
でも、あまり売れなかった(笑)。
糸井 これだけの写真を撮るだけでも、
相当な時間が、かかってますよね。
海野 そうですね、
この頃はデジカメじゃないからね。
今は、行けば、
デジカメだからすぐ撮れるわな。
ははは。
糸井 いやいやいやいや。
ほぼ日 写真集の最後に、
撮影年と撮影地が書いてあるんですが、
現地に行って撮影するだけじゃなく、
虫を探すところからですもんね。


日本全国はもとより、オランダ、パナマ、ラオス、
コスタリカ・オロシ渓谷、スマトラ島などなどなど。

海野 そうね。
体力と気力が続かなくなってきたので、
昔ほどは、撮れなくなっちゃったね。

(対談は次週につづきます)

小さな虫、素早い虫、辺境の地にいる虫。
今まで海野さんが撮られた虫たちの数を思うと、
その労力がどのくらいのものだったか、
想像することができないほどです。
そして、今も虫を撮り続けている海野さん。
糸井の言葉、
「撮られた昆虫たち、良かったね。」
というのも、しみじみ心にしみてきます。

次週は、海野さんに「撮られた虫たち」を、
さらにたくさん、ご紹介していきますよ。
また日曜日に、のぞきにきてくださいね。
では〜!



今回登場した虫たちをご覧になりたい場合は、
こちらをクリックしてどうぞ。

(検索エンジンgoogleの
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ムラサキシャチホコ
ジンメンカメムシ
 

2006-02-26-SUN



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