第35回 虫好きじゃない人も、寄っておいで。
対談 海野和男×糸井重里〜最終回

虫が苦手な人たちも、
見てくれるといいなと思っている、
日曜日の「虫博士たち。」。
同じように、海野さんも、
虫好きではない人たちにも虫を見て欲しい、
という思いを持たれて、
写真を撮ったり、本を作ったり、
幅広くお仕事をされています。

そんな海野さんが、
今、昆虫の博物館を香川県に作っています。
今回は、その昆虫博物館について、
詳しくお話しをうかがいました。
でも最後の最後は、やっぱり、
大好きな「擬態」の話になりますよ。
では、最後までお楽しみください!



対談:海野和男さん×糸井重里 最終回


海野さんのプロフィールは、こちら
TV番組 「地球は虫の惑星だ
 〜知られざる虫たちと海野和男の映像世界〜」で
 第47回科学技術映像祭(ポピュラーサイエンス部門)
 文部科学大臣賞を受賞されました。おめでとうございます!


●もうすぐ「せとうち夢虫博物館」が
 オープン

糸井 昔、北杜夫さんの
「どくとるマンボウ昆虫記」
を読んで、
面白いなあと思ったんですよ。
そこから、虫好きな人っていうジャンルが
明らかにあるなあって思ったんです。
養老孟司さんとか、小檜山賢二さんとか、
奥本大三郎さんとか、
黙って虫にコストを、
かけてらっしゃいますしね。


海野 そうですね。
特にその3人は虫を好きですから。
僕みたいにそれを仕事にしちゃうと、
少し違ってきちゃう。

虫好きなジャンルっていうのは明らかにあって、
奥本さんに言わせると、
人間は、虫好きと虫嫌いの
2種類に分かれるんだそうです。
だけど、好きな人ばっかり
相手にしていたらだめなんで、
好きじゃない人に少しでも、
「寄っておいで」
というのが僕の仕事なんです。
糸井 うまくいってますね。
海野 そうですね、うまくいってます。
サイト(「海野和男のデジタル昆虫記」)を
1998年に作って、99年に小諸日記を始めて、
今年で7年目になりますね。

ただ、今はインターネットが見られる人は、
虫の情報とつながっていて知っているけど、
ネットを知らない人は、
ほとんどわからないと思います。
ものすごく情報の格差があるかもしれません。
糸井 今までたくさん見せていただいた映像も、
大きい画面で見せていただくと迫力が違いますよね。
これは先生と知り合わないと見られないんですね。
海野 4月末にオープンする、
香川県の「せとうち夢虫博物館」では、
こういう映像や写真を見ることができるんです。
僕も顧問として博物館の立上げに携わっているので、
ちょっと宣伝させてもらっちゃおうかな?
糸井 どうぞどうぞ、ぜひ聞かせてください(笑)。
海野 博物館というとさ、暗いイメージがあって、
それはそれでまたいいんだけど、
そうじゃない博物館があっても
いいだろうということで作っているんです。
糸井 確か群馬にも矢島先生()がやっている
自然を利用した博物館ありますよね?

「ドクトル・ムッシー」という愛称をお持ちの、
 昆虫学者の矢島稔さんが園長をされている
 「ぐんま昆虫の森」
海野 ありますね、あれは真面目な博物館。
糸井 あ、あれは真面目なんですね(笑)。
海野 「せとうち夢虫博物館」は、私費用なんですよ。
矢島さんのところは、
たしか建設費72億円、年間維持費3億円と、
聞いたことがあります。
糸井 赤城山の一部分を、
昆虫館にしちゃったらしいですね。
海野 「せとうち夢虫博物館」も、
実は山の一部分なんですが、
バブル時代に作った美術館なので、
結構きれいで広いんですよ。
そこで、昆虫の映像を
大型スクリーンで見られるんです。
150インチとか200インチの大型のスクリーンが
5つくらい入って、
小さいスクリーンも12個くらいあるかな。
見所のひとつに、
モルフォチョウの翅でできた五角形の塔もあります。


製作中のモルフォタワー。
糸井 企業の仕事なんですか?
海野 香川県のレオマワールドっていう、
バブルの時に700億円ぐらいかけて作った
テーマパークがつぶれたんですが、
再生したいという地元の希望があってね。
そこを、うどんの加ト吉が、
香川県のために買ったんです。
でも、そこにうどん工場を
作ったわけじゃなく(笑)。
作ってもいいんだけどね。

とりあえずそこの、ホテルと管理会社を経営して、
あとはテナントを入れているんですね。
その中に、おもちゃ博物館があって、
そこが割と人が入っているんです。
まだ、新しくなってから、2年ほどなんですよ。
そこに、もうひとついい建物があるから、
何かできないかということで、
最初水族館を考えたらしいの。
ほぼ日 水族館の案が出るほどの、
広いスペースだったんですね。
海野 それで、日プラっていう、
北海道の旭山動物園の水槽や、
沖縄美ら海水族館
でかい水槽とか作っているメーカーの本社が、
香川県にあるので、
そこの社長に相談してみたんです。
そしたら、立地的に水族館は、
排水とかいろいろな問題で無理だろうということと、
その問題はクリアできるようにしても、
予算的に難しいということで、
なぜか突然、昆虫館をやりたいと思いついたみたい。
昆虫好きな人でもないのに(笑)。
70才くらいの方ですがものすごく元気がいい。
それで、僕にお声がかかって顧問をしているんです。
今は、おおわらわで4月末オープンに向けて、
手作りで作ってるところです。
糸井 すぐですね、もう。
海野 そうですね、とりあえずはともかく、
虫嫌いの人にも見てもらおうと考えています。
虫が好きな人だけを相手にしていると、
とても民営では無理だし。
とりあえずさ、虫ってちょっと面白いね、
と思ってもらって、人が入ってくれればいい。
年間20万人くらい見込んでいるんです。
糸井 その博物館はちょっと、つくば博というか、
科学博みたいになるんですね。
海野 そうですね、映像中心になりますからね。
なんでも僕の映像が使えるからね。
ただ、長くは見せられないので、
40秒とか、いちばん長いので10分というのを
作ったりしています。
大型スクリーンで見られるというのは
ちょっと、みそですね。

以下のような映像が大画面で見られます!
 それぞれクリックしてみてくださいね!
アカエリトリバネアゲハのおしっこ
トノサマバッタのジャンプ(超スロー映像)

ほぼ日 拝見したような映像を、
大型スクリーンで見られるのはいいですね〜!
きっと迫力が違いますよね。
糸井 見せていただいた、
カエルがトンボを捕まえる映像
あるんですよね?
あれは長いほうですね。
海野 うーん、あの辺はね、
どうしようかと実は悩んでいて。
女の人なんかが、
キャーっと嫌がるんじゃないかと思ってね。
ぼくは面白いと思うんだけどね。
糸井 いや、面白いですよ。
だから、
「カエルがキャーだからちょっと気をつけてね」
って、あらかじめ書いておくといいんですよ。
「キャー」ものと「しっとり穏やか」ものと分けて。
ほぼ日 それはいいですね。
絶対「キャー」は、人気だと思います。
海野 「せとうち夢虫館」には関係ないけど、
隣に、本物そっくりに作られた
タイの古い寺院があったり、
ドーム型のモスクがあるの(笑)。
寺院は借景ですが、すごくいい。
モスクは使えるので、
「昆虫写真」の拠点にしょうという案もあります。
糸井 維持費がかかりますよね。
海野 かかりますよ〜。
海野 裏が山なのでカブトムシいっぱい放して、
子どもに捕らせようかとか、
外で飼育してそのまま放そうと思っています。
糸井 そうすると鳥も来ますね。
海野 鳥も来ますね、カブトムシ食べにね。
おがくずを積んで、
カブトムシの幼虫を育てるんですけど、
そうすると地下からモグラが来るんですよ‥‥。
あ! そうだ、そうだ! 連絡しなきゃ。
ほぼ日 ど、どうされたんですか?
海野 網を張らなきゃと思っていたんです。
下にはモグラが来ないように、
網を張らないといけないんですよ。
網を張ったはった上に腐植土を積むんです。
ほぼ日 モグラはカブトムシの幼虫を、
食べるんですか?
海野 そうそう、モグラは、
カブトムシの幼虫が大好物だからね。
糸井 栄養価が高そうですもんね、
捕まえやすいし。
ほかにも、生の虫って置くんですか?
海野 生の虫も置きたいですね。
ただ、温室もあるけどそんなに大きくないんです。
植物やコストの問題もあってまだ決まっていません。
一応、今、温室内に植物植えたりして、
コンディションを整えているところです。
沖縄のチョウチョを飛ばすのは、
簡単ではあるんですが、それも温室が、
でかければでかいほどいいのができるんですけど、
温室が小さいのでチョウを飛ばすかは、
考え中なんです。
本当はそこで擬態している昆虫がいて、
子どもが探せたりしたら面白いんですけど。
糸井 それはすごいですね。
海野 ただ、それは、植物防疫法というのがあって、
葉っぱを食べる虫は輸入するのに許可がいるんです。
熱帯魚とかだったらいいんですが。
クワガタとカブトムシはだいたいOKになったけど、
それでも一応許可が必要。
生きているコノハムシも、この頃なんとか
博物館では展示できるようになったんですけど。
でも触ったらいけないとか、
二重にしなきゃいけないとか、
逃げちゃいけないとかで、いろいろあるみたい。
逃げたら死ぬんだけどね、コノハムシは。
冬は寒いから(笑)。
糸井 コノハムシは、
バッタみたいな種類なんですか?
海野 バッタとはまた違う仲間ですね。
ナナフシというのがいて、
そのナナフシの仲間になります。
ただ、チョウかバッタか、
どっちに近いかと言われれば、
当然バッタに近い仲間です。
バッタの祖先と考えてもいいわけですね。

●人間は、1種類なのに
 いろんな価値観がある。

糸井 でも、やっぱり、
擬態がいちばん面白いですよね。
海野 とてつもなく面白いですよ。
僕は、昆虫は擬態がいちばん面白くて、
大学の時から擬態をずっとやっているんです。
いろんな例を集めて、何なんだろう? って
考えるのが楽しいわけです。
考えてもわからないんですけどね(笑)。
糸井 鳥の雷鳥が、夏と冬で羽の毛色を変えるのも、
一種の擬態ですかね?
ほぼ日 そういえば、夏は岩肌に合わせて茶のまだら、
冬は雪に合わせて、白くなりますよね。
海野 ええ、夏毛と冬毛で違うのは、
擬態と言えるでしょうね。
糸井 昆虫みたいに精密な擬態はないですよね。
海野 でも、海の中の擬態もすごいですよね。
海と陸では擬態方法が若干違いますけどね。
糸井 そうそう、
ミミック・オクトパスもすごいですよ。
どんどん、色も模様も形も瞬時に変わる。
ほんっとに、擬態ってすごい面白いなあ。
だって、自分では見えないのに、
完成度高いですもんね。
海野 そう、完成度が高いんです。
ただし、やっぱり多くは、
自分の見える範疇で、
というのが多いですね。
目が見えるものは、仲間の色とか分かるんで。
あとは、素養ってものがあってさ。
ほぼ日 上手いと下手があるんですか?
海野 蛾がすごいよ。
蛾というのは、チョウの仲間と言われているでしょ?
で、チョウはね、昼間飛ぶんですよ。
だから、わりと広告ができるんです、模様で。
仲間同士のコミュニケーションなどに、
広告を使うんですね。
僕らの世界と非常に近いの。
だからチョウは何をしているか、
何をしたいかとか、すぐわかるんです。
ある島に行くと、
チョウがみんな似てきたりもする。
それは、目で見ているからその刺激が入ってきて、
そういうふうになっちゃうと思うんだけど。

蛾の場合には、
同じチョウの仲間なのにも関わらず、
昼間飛べないので
とりあえず隠れてしまおうとします。
それで、昼間は鳥に捕まらないようにという、
隠蔽色が発達したんですね。

もともと、翅にいろいろな模様を
つけられる素養があるわけです。
チョウと同じにもなれるわけだから。
そうすると、その目的は、
隠れる方の目的の模様もでるし、
普段見せていない裏翅なんかには、
理由のつかないきれいな模様が出たりするわけです。
生きるためじゃない、人間で言う芸術的な模様。
そういう素養があるもんで、
そこに模様がつけられるんですね。
模様つけられる場所があればつけたいわけです。


糸井 カブト虫といっしょですね。
角があれば、けんかしたくなるっていう(笑)。
声がいいと歌いたくなる、みたいなね。
海野 たださ、人間の場合は、
何にでもなれるわけですよ。
頭が良くなったんで。
それだけですよね。
動物の中で、人間ぐらいじゃないですか?
世の中には多様な価値観があると
本人たちが思っているのは。
実は何も変わってないんですけど、昔から。

だけど、それぞれの人が伝えるから、
いろんな考え方とか出てきますよね。
それが、昆虫ととっても似てるわけです。
昆虫は種類を増やすことによって、
いろんな価値観のものがいるんだけど、
人間は、1種類なのにいろんな価値観があるわけ。
とりあえず豊かな世界であれば、
いろんな価値観ができる。
これを大切にすれば、何にでもなれるわけです。
虫にはなれないですけど、
虫になった気分になる、カメラで撮る、とか
何でもできるじゃないですか。
ほぼ日 はあ〜(ため息)、そうですね。
糸井 自分が小学生になったような気分です。
今日は、ありがとうございました。
  (おしまい)

これで、海野和男さんと糸井重里の
対談は終わります。
この対談のご感想や
海野さんへのメッセージを、題名を「虫博士」として
ぜひpostman@1101.comまでお送りくださいね。

対談は終わりましたが、
「虫博士たち。」は、続きますよ。
みなさまからの虫話、お待ちしております!
また来週、日曜日にお会いしましょう〜。



海野さんが撮られた写真や動画が、
以下のサイトでご覧いただけます。

東京電力「海野和男先生の昆虫教室」

海野和男のデジタル昆虫記

BROBA コミュニティ「Nature & Image」
*「Nature & Image コミュニティ」は、
 2004年3月末日で終了致しました。


イラストレーターのはらだゆきこさんから、
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2006-04-02-SUN



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