●もうすぐ「せとうち夢虫博物館」が
オープン
|
糸井 |
昔、北杜夫さんの
「どくとるマンボウ昆虫記」を読んで、
面白いなあと思ったんですよ。
そこから、虫好きな人っていうジャンルが
明らかにあるなあって思ったんです。
養老孟司さんとか、小檜山賢二さんとか、
奥本大三郎さんとか、
黙って虫にコストを、
かけてらっしゃいますしね。
|
海野 |
そうですね。
特にその3人は虫を好きですから。
僕みたいにそれを仕事にしちゃうと、
少し違ってきちゃう。
虫好きなジャンルっていうのは明らかにあって、
奥本さんに言わせると、
人間は、虫好きと虫嫌いの
2種類に分かれるんだそうです。
だけど、好きな人ばっかり
相手にしていたらだめなんで、
好きじゃない人に少しでも、
「寄っておいで」
というのが僕の仕事なんです。 |
糸井 |
うまくいってますね。 |
海野 |
そうですね、うまくいってます。
サイト(「海野和男のデジタル昆虫記」)を
1998年に作って、99年に小諸日記を始めて、
今年で7年目になりますね。
ただ、今はインターネットが見られる人は、
虫の情報とつながっていて知っているけど、
ネットを知らない人は、
ほとんどわからないと思います。
ものすごく情報の格差があるかもしれません。 |
糸井 |
今までたくさん見せていただいた映像も、
大きい画面で見せていただくと迫力が違いますよね。
これは先生と知り合わないと見られないんですね。 |
海野 |
4月末にオープンする、
香川県の「せとうち夢虫博物館」では、
こういう映像や写真を見ることができるんです。
僕も顧問として博物館の立上げに携わっているので、
ちょっと宣伝させてもらっちゃおうかな? |
糸井 |
どうぞどうぞ、ぜひ聞かせてください(笑)。 |
海野 |
博物館というとさ、暗いイメージがあって、
それはそれでまたいいんだけど、
そうじゃない博物館があっても
いいだろうということで作っているんです。 |
糸井 |
確か群馬にも矢島先生(※)がやっている
自然を利用した博物館ありますよね?
※「ドクトル・ムッシー」という愛称をお持ちの、
昆虫学者の矢島稔さんが園長をされている
「ぐんま昆虫の森」。 |
海野 |
ありますね、あれは真面目な博物館。 |
糸井 |
あ、あれは真面目なんですね(笑)。 |
海野 |
「せとうち夢虫博物館」は、私費用なんですよ。
矢島さんのところは、
たしか建設費72億円、年間維持費3億円と、
聞いたことがあります。 |
糸井 |
赤城山の一部分を、
昆虫館にしちゃったらしいですね。 |
海野 |
「せとうち夢虫博物館」も、
実は山の一部分なんですが、
バブル時代に作った美術館なので、
結構きれいで広いんですよ。
そこで、昆虫の映像を
大型スクリーンで見られるんです。
150インチとか200インチの大型のスクリーンが
5つくらい入って、
小さいスクリーンも12個くらいあるかな。
見所のひとつに、
モルフォチョウの翅でできた五角形の塔もあります。
製作中のモルフォタワー。
|
糸井 |
企業の仕事なんですか? |
海野 |
香川県のレオマワールドっていう、
バブルの時に700億円ぐらいかけて作った
テーマパークがつぶれたんですが、
再生したいという地元の希望があってね。
そこを、うどんの加ト吉が、
香川県のために買ったんです。
でも、そこにうどん工場を
作ったわけじゃなく(笑)。
作ってもいいんだけどね。
とりあえずそこの、ホテルと管理会社を経営して、
あとはテナントを入れているんですね。
その中に、おもちゃ博物館があって、
そこが割と人が入っているんです。
まだ、新しくなってから、2年ほどなんですよ。
そこに、もうひとついい建物があるから、
何かできないかということで、
最初水族館を考えたらしいの。 |
ほぼ日 |
水族館の案が出るほどの、
広いスペースだったんですね。 |
海野 |
それで、日プラっていう、
北海道の旭山動物園の水槽や、
沖縄美ら海水族館の
でかい水槽とか作っているメーカーの本社が、
香川県にあるので、
そこの社長に相談してみたんです。
そしたら、立地的に水族館は、
排水とかいろいろな問題で無理だろうということと、
その問題はクリアできるようにしても、
予算的に難しいということで、
なぜか突然、昆虫館をやりたいと思いついたみたい。
昆虫好きな人でもないのに(笑)。
70才くらいの方ですがものすごく元気がいい。
それで、僕にお声がかかって顧問をしているんです。
今は、おおわらわで4月末オープンに向けて、
手作りで作ってるところです。 |
糸井 |
すぐですね、もう。 |
海野 |
そうですね、とりあえずはともかく、
虫嫌いの人にも見てもらおうと考えています。
虫が好きな人だけを相手にしていると、
とても民営では無理だし。
とりあえずさ、虫ってちょっと面白いね、
と思ってもらって、人が入ってくれればいい。
年間20万人くらい見込んでいるんです。 |
糸井 |
その博物館はちょっと、つくば博というか、
科学博みたいになるんですね。 |
海野 |
そうですね、映像中心になりますからね。
なんでも僕の映像が使えるからね。
ただ、長くは見せられないので、
40秒とか、いちばん長いので10分というのを
作ったりしています。
大型スクリーンで見られるというのは
ちょっと、みそですね。
|
ほぼ日 |
拝見したような映像を、
大型スクリーンで見られるのはいいですね〜!
きっと迫力が違いますよね。 |
糸井 |
見せていただいた、
カエルがトンボを捕まえる映像も
あるんですよね?
あれは長いほうですね。 |
海野 |
うーん、あの辺はね、
どうしようかと実は悩んでいて。
女の人なんかが、
キャーっと嫌がるんじゃないかと思ってね。
ぼくは面白いと思うんだけどね。 |
糸井 |
いや、面白いですよ。
だから、
「カエルがキャーだからちょっと気をつけてね」
って、あらかじめ書いておくといいんですよ。
「キャー」ものと「しっとり穏やか」ものと分けて。 |
ほぼ日 |
それはいいですね。
絶対「キャー」は、人気だと思います。 |
海野 |
「せとうち夢虫館」には関係ないけど、
隣に、本物そっくりに作られた
タイの古い寺院があったり、
ドーム型のモスクがあるの(笑)。
寺院は借景ですが、すごくいい。
モスクは使えるので、
「昆虫写真」の拠点にしょうという案もあります。 |
糸井 |
維持費がかかりますよね。 |
海野 |
かかりますよ〜。 |
海野 |
裏が山なのでカブトムシいっぱい放して、
子どもに捕らせようかとか、
外で飼育してそのまま放そうと思っています。 |
糸井 |
そうすると鳥も来ますね。 |
海野 |
鳥も来ますね、カブトムシ食べにね。
おがくずを積んで、
カブトムシの幼虫を育てるんですけど、
そうすると地下からモグラが来るんですよ‥‥。
あ! そうだ、そうだ! 連絡しなきゃ。 |
ほぼ日 |
ど、どうされたんですか? |
海野 |
網を張らなきゃと思っていたんです。
下にはモグラが来ないように、
網を張らないといけないんですよ。
網を張ったはった上に腐植土を積むんです。 |
ほぼ日 |
モグラはカブトムシの幼虫を、
食べるんですか? |
海野 |
そうそう、モグラは、
カブトムシの幼虫が大好物だからね。 |
糸井 |
栄養価が高そうですもんね、
捕まえやすいし。
ほかにも、生の虫って置くんですか? |
海野 |
生の虫も置きたいですね。
ただ、温室もあるけどそんなに大きくないんです。
植物やコストの問題もあってまだ決まっていません。
一応、今、温室内に植物植えたりして、
コンディションを整えているところです。
沖縄のチョウチョを飛ばすのは、
簡単ではあるんですが、それも温室が、
でかければでかいほどいいのができるんですけど、
温室が小さいのでチョウを飛ばすかは、
考え中なんです。
本当はそこで擬態している昆虫がいて、
子どもが探せたりしたら面白いんですけど。 |
糸井 |
それはすごいですね。 |
海野 |
ただ、それは、植物防疫法というのがあって、
葉っぱを食べる虫は輸入するのに許可がいるんです。
熱帯魚とかだったらいいんですが。
クワガタとカブトムシはだいたいOKになったけど、
それでも一応許可が必要。
生きているコノハムシも、この頃なんとか
博物館では展示できるようになったんですけど。
でも触ったらいけないとか、
二重にしなきゃいけないとか、
逃げちゃいけないとかで、いろいろあるみたい。
逃げたら死ぬんだけどね、コノハムシは。
冬は寒いから(笑)。 |
糸井 |
コノハムシは、
バッタみたいな種類なんですか? |
海野 |
バッタとはまた違う仲間ですね。
ナナフシというのがいて、
そのナナフシの仲間になります。
ただ、チョウかバッタか、
どっちに近いかと言われれば、
当然バッタに近い仲間です。
バッタの祖先と考えてもいいわけですね。 |
●人間は、1種類なのに
いろんな価値観がある。
|
糸井 |
でも、やっぱり、
擬態がいちばん面白いですよね。 |
海野 |
とてつもなく面白いですよ。
僕は、昆虫は擬態がいちばん面白くて、
大学の時から擬態をずっとやっているんです。
いろんな例を集めて、何なんだろう? って
考えるのが楽しいわけです。
考えてもわからないんですけどね(笑)。 |
糸井 |
鳥の雷鳥が、夏と冬で羽の毛色を変えるのも、
一種の擬態ですかね? |
ほぼ日 |
そういえば、夏は岩肌に合わせて茶のまだら、
冬は雪に合わせて、白くなりますよね。 |
海野 |
ええ、夏毛と冬毛で違うのは、
擬態と言えるでしょうね。 |
糸井 |
昆虫みたいに精密な擬態はないですよね。 |
海野 |
でも、海の中の擬態もすごいですよね。
海と陸では擬態方法が若干違いますけどね。 |
糸井 |
そうそう、
ミミック・オクトパスもすごいですよ。
どんどん、色も模様も形も瞬時に変わる。
ほんっとに、擬態ってすごい面白いなあ。
だって、自分では見えないのに、
完成度高いですもんね。 |
海野 |
そう、完成度が高いんです。
ただし、やっぱり多くは、
自分の見える範疇で、
というのが多いですね。
目が見えるものは、仲間の色とか分かるんで。
あとは、素養ってものがあってさ。 |
ほぼ日 |
上手いと下手があるんですか? |
海野 |
蛾がすごいよ。
蛾というのは、チョウの仲間と言われているでしょ?
で、チョウはね、昼間飛ぶんですよ。
だから、わりと広告ができるんです、模様で。
仲間同士のコミュニケーションなどに、
広告を使うんですね。
僕らの世界と非常に近いの。
だからチョウは何をしているか、
何をしたいかとか、すぐわかるんです。
ある島に行くと、
チョウがみんな似てきたりもする。
それは、目で見ているからその刺激が入ってきて、
そういうふうになっちゃうと思うんだけど。
蛾の場合には、
同じチョウの仲間なのにも関わらず、
昼間飛べないので
とりあえず隠れてしまおうとします。
それで、昼間は鳥に捕まらないようにという、
隠蔽色が発達したんですね。
もともと、翅にいろいろな模様を
つけられる素養があるわけです。
チョウと同じにもなれるわけだから。
そうすると、その目的は、
隠れる方の目的の模様もでるし、
普段見せていない裏翅なんかには、
理由のつかないきれいな模様が出たりするわけです。
生きるためじゃない、人間で言う芸術的な模様。
そういう素養があるもんで、
そこに模様がつけられるんですね。
模様つけられる場所があればつけたいわけです。
|
糸井 |
カブト虫といっしょですね。
角があれば、けんかしたくなるっていう(笑)。
声がいいと歌いたくなる、みたいなね。 |
海野 |
たださ、人間の場合は、
何にでもなれるわけですよ。
頭が良くなったんで。
それだけですよね。
動物の中で、人間ぐらいじゃないですか?
世の中には多様な価値観があると
本人たちが思っているのは。
実は何も変わってないんですけど、昔から。
だけど、それぞれの人が伝えるから、
いろんな考え方とか出てきますよね。
それが、昆虫ととっても似てるわけです。
昆虫は種類を増やすことによって、
いろんな価値観のものがいるんだけど、
人間は、1種類なのにいろんな価値観があるわけ。
とりあえず豊かな世界であれば、
いろんな価値観ができる。
これを大切にすれば、何にでもなれるわけです。
虫にはなれないですけど、
虫になった気分になる、カメラで撮る、とか
何でもできるじゃないですか。 |
ほぼ日 |
はあ〜(ため息)、そうですね。 |
糸井 |
自分が小学生になったような気分です。
今日は、ありがとうございました。 |
|
(おしまい) |