「ほぼ日の健康手帳」が ニンテンドーDSi用のソフトになりました。  自分の健康について 考える道具。 岩田聡(任天堂社長)×本田美和子(医師)×糸井重里

糸井 「どうやったらニンテンドーDSiを
 ひとり1台、持ち歩いてもらえるだろう」
と考えていた岩田さんが、
「健康手帳」をDSiと
つなげて考えてくださったのは、
最初に本田さんが「健康手帳」のことを
「万人に必要なものなんだ!」って
強く思っていたからだと思うんですよ。
その思いが、ふたつをむすびつけたというのかな。
本田 ああ、うれしいです。
糸井 そのあたりについて
あらためてうかがいたいんですが、
そもそも本田さんが「健康手帳」を
世の中にとって必要なものだと思ったのは、
危機感からだったんですか?
つまり、マイナスから抜け出したかったのか、
それとも、もう少し前向きな
プラスの何かをしたかったのか。
本田 そうですね‥‥プラスと言っていいのか、
マイナスと言っていいのか、
よくわからないんですけど、
とにかく、自分を大事にしてほしい、
自分を大事にする気持ちを
形にするものがほしいと思ったんです。
岩田 なるほど。
本田 わたしたち医者は、
具合が悪くて病院にいらっしゃるかたに
いろいろとお話をうかがうことで
可能性のありそうな病気を
絞り込んでいくんです。
ですから、患者さんからはできるだけ
いろんなことを聞き出したいんですけど、
患者さんご本人が無頓着で、
自分のわずらった病気について、
ぜんぜんご存知ないということが
よくあるんです。
岩田 自分のことなのに、
覚えておられないんですか?
本田 そうなんです!
たとえば、お腹に大きな傷があるかたが、
「なんだかわからないんだけど」って、
おっしゃったりとか。
糸井 (笑)
本田 ほんとにそういうことがあるんです。
岩田 それは、明らかに昔、
手術をしたことがあるはずなのに?
本田 ええ、わたしたちの目から見ると
これは手術の跡ですね、
ということは明らかなんですけど、
「いやぁ、これ、なんだっけなぁ?」って、
覚えていらっしゃらない。
岩田 ははぁ。
糸井 ただ、傷があるんだね(笑)。
本田 そうなんです。
あるいは、手術をしたことは覚えてても、
「いや、盲腸だったかな、胃だったかな」って。
糸井 あぁ、でも、ぼくは、
その気持ちも、わからないではないです(笑)。
本田 そうですか(笑)。
あと、病気というのは、
家族につながるものもあるので、
たとえば、おじいさまのご病気とか、
お母さまのご病気をうかがうと
それだけで、じつはとても役に立つんですね。
岩田 遺伝が関係する病気ですね。
本田 はい。でも、たとえば
ご両親の病気についてうかがっても、
「なにかの薬を飲んでるようなんだけど‥‥」
とおっしゃるだけで、
それがどんなご病気かはご存知なかったりとか。
岩田 ああー、なるほど。
本田 そんなことがよくあって、
もっとご自分のからだに興味を持っていただくには、
どうしたらいいんだろう、
とずっと考えていたんです。
ふだんから、ご自分を大事にする気持ちがあれば、
ずいぶんちがうはずなんですよ。
実際に何かお困りのことがあったとき、
わたしたち医者がそこに
効率よくアプローチすることができるし、
質も上げることができるんです。
この「健康手帳」で、そういったことが
できるといいなと思っているんです。
糸井 それはつまり、「健康手帳」は、
「お医者さんと患者さん」のあいだの
コミュニケーションのクオリティを
上げるだけじゃなくて、
患者さんの「意識とからだ」のあいだの
コミュニケーションにおいても、
クオリティを上げるということですよね。
本田 ええ、そうなんです。
糸井 いまは、それがよくわかります。
あの、じつを言うと、
最初に本田さんから
この「健康手帳」の話を聞いたとき、
ぼく自身がそれをよくは
わかってなかったんです。
本田 そうですか。
糸井 そうなんですよ(笑)。
自分を大事にするとか、
ふだんから予防的な考えかたが大事だ、
というようなことって、
頭ではわかったつもりになってるんだけど、
どう言ったらいいんだろう‥‥
あの、ほんとには、わかってないんですよ。
本田 はい(笑)。
糸井 つまり、仕事が忙しいとか言ってる身にとっては
そうそう、大事だよね、って、
ただの「知識」で終わって、
そのまま通り過ぎちゃうんです。
ぼくが本田さんがおっしゃってることを
ほんとうの意味で実感できたのは、
じつは去年なんですから。
本田 あ、そうですか!
糸井 そうなんです。
ぼくはとくに大病をわずらった
というわけじゃないんですけど、
「予防や備えが大事」みたいなことって、
やっぱりなんらかの危機感みたいなものがないと
理屈でわかってても通り過ぎてしまう。
本田 そうかもしれませんね。
糸井 たぶん、岩田さんもそのあたりのことには
覚えがあるんじゃないかと思うんですが‥‥。
あの、岩田さん、ずいぶん前に一度、
過労で倒れて入院しましたよね。
そのときのことを少し聞いてもいいですか?
岩田 ええ、はい。

(つづきます)

2010-04-19-MON