世界の時刻やタイムゾーンを表示できる
アースボールの新コンテンツ「世界時計」。
もうお試しいただけましたか?
こんどは「時間」がテーマということで、
明石市立天文科学館の館長・井上毅さんに、
時間のこと、時差のこと、そして明石のこと、
全部まとめてうかがってきました。
なぜ世界の基準が「グリニッジ」なのか?
なぜ明石が「時のまち」になったのか?
地球をめぐる壮大な時間についてのお話です。
全5回、どうぞおたのしみください!
- ——
- パリとロンドンは、
距離的には9分しか時差がないはずなのに、
実際は1時間の時差があるんですよね。
- 井上
- はい。
- ——
- それぞれの国の時間というのは、
自由に決めていいってことなんですか?
- 井上
- 一応、グリニッジを基準にして、
15度ごとに1時間の時差が原則ですが、
実際はそれぞれの国が
自由に決めることができます。
時間というのは同じコミュニティで
共有するものですから、
そこに国の考え方が反映されることもあります。
- ——
- ということは、
あえて時間をズラしたという可能性も。
- 井上
- そう感じさせる部分もありますよね。
たとえば、いま日本は14時20分なので、
中国の上海は13時20分です。
普通はこんなふうに1時間ずつ差があります。
- ——
- 15度ごとに1時間ですよね。
- 井上
- ところが、インドはいま10時50分で、
30分単位でズレています。
さらにネパールはというと、
そのインドから15分だけズレています。
- ——
- ほんとだ。
- 井上
- ネパールはガウリシャンカールという
神聖な山の山頂の地方時を使っています。
お隣のインドとは違う時間を
使おうという気持ちも感じます。
- ——
- ちなみに、太平洋にある日付変更線あたりは、
どうしてこんな不思議な線になるんでしょうか。
- 井上
- これは不便だったんですね。
- ——
- 不便?
- 井上
- キリバスはひとつの国の中に
日付変更線が通っていて、
同じ国なのに昨日と今日にわかれていました。
そんな不便を解消するために、
1995年に国内の日付を統一させ、
結果的に、キリバスは世界で一番早く
日付が変わる国になりました。
なので、ハワイとほぼ同じ経度でも、
キリティマティ島は24時間早くなります。
- ——
- 国の時間というのは、
もっと科学的に決まっているのかと思ったのですが、
意外とそういうわけでもないんですね。
- 井上
- 極端に言ってしまえば、
どこかの国が自分の国の時間を
「24時間先に進める」と宣言したら、
その国だけ暦を1日進めてもいいんです。
けど、実際には不便なだけですが‥‥。
- ——
- 欧米諸国なんかは、
サマータイムを廃止しようとしながら、
なかなか廃止できないという話もあります。
- 井上
- 暦や時間というのは、
みんなが生活の中で使ってるものなので、
一回決めたものをあとで変更するのは
ものすごく大変なんでしょうね。
サマータイムというのは、
時計の針を1時間前に進めるわけですが、
夏には日が昇るのが早く、
朝を有効活用できるということで、
かつて日本でも導入されたことがあるんです。
- ——
- そうなんですか?
- 井上
- はい、戦後間もない時期に導入されたんですが、
混乱が大きくてすぐに廃止されました。
切り替え時にも混乱がありましたが、
ヨーロッパに比べて低緯度で、
東西に長い国であることから
サマータイムのメリットがほとんどなく、
デメリットばかり目立ったんですね。
- ——
- あー、なるほど。
- 井上
- とくに九州や沖縄では
もともとサマータイムに近い生活になっています。
▲日没前の明石の空
- ——
- 九州の地方時で考えると、
まだ11時半くらいのときに
「正午です」と言われるわけですから、
さらに時間が進んでしまったら‥‥。
- 井上
- 夏場は夜の8時を過ぎても
日が沈まずに明るいままなので、
花火大会なんかはやりづらくなりますよね。
夜の10時くらいにならないと、
空が真っ暗になってくれない。
- ——
- そういう問題も出てくるんですね。
- 井上
- じつはそういう話って、
天文台にとってもつらい問題なんです。
つまり、夜が来ないと星の観察ができない。
- ——
- たしかに‥‥。
- 井上
- 日が落ちて1時間半くらい経たないと
ちゃんとした星の観察はできません。
そんな感じで、サマータイムがあったら、
これまで培われた夏の夜の文化的な活動が、
ぜんぶ深夜の行事になって、大打撃を受けます。
さらに切り替えるときには、
現代の高度なネットワークで結ばれた
情報システムの混乱や、
人間の体内時計の狂いを心配する声もあります。
私もサマータイム導入が話題になるたびに
いろいろ研究したんですが、
いまの日本に導入しても、
よいことってほとんどないんですよね。
(つづきます)
2022-10-07-FRI
(C) HOBONICHI