先生:
田中明彦さん
生徒:
正則学園高等学校のみなさん
高校生B
お店のレジ袋が有料化になって、
エコバッグを使う人がふえたと思うんです。
そのことで日本のSDGsは、
何かがよくなったのでしょうか?
田中
有料化されたことで、
プラスチックを使う絶対量は
かなり減ったと思います。
ただ、エコバッグがふえたからって
環境がよくなるわけじゃないですよね。
エコバッグを次々に買い替えて、
いらないものをどんどん捨ててたら、
それはまた環境によくありません。
エコバッグのようなことは、
すごく小さな取り組みかもしれませんが、
プラスチックの全体量を減らそうと
努力をするのはとても大切だと思います。
ひとりひとりの貢献度は
すごく小さいかもしれないけど、
日本の人口は1億人以上いるわけで、
全体としての効果は決してすくなくありません。
さらに、そういう意識が国民に広がれば、
環境問題のことを考えている
政治家や官僚たちの政策をあと押しします。
世論の声を反映するかたちで、
プラスチックリサイクルの法律や制度が
新しくつくられるかもしれません。
そうやって間接的に貢献している
可能性はあるんじゃないかなって思います。
高校生B
ありがとうございます。
田中
じゃあ、おとなりの君も。
高校生C
最後のスライドを、
もう一度見せてもらっていいですか?
田中
これかな?
高校生C
ありがとうございます。
このグラフを見ると、
ルクセンブルクはODAに
1.05パーセント出しています。
もし日本やアメリカが
同じくらいの割合をODAに出したら、
もっと世界はよくなると思ったのですが、
なんでそれをやらないのでしょうか?
田中
うん、おっしゃるとおり、
アメリカや日本の総額は多いですが、
パーセントで見てみると、
まだまだ努力できそうに思えますよね。
だけど忘れてはいけないのが、
たとえばアメリカの場合、
アメリカ国内にも貧しい人や
生活に困っている人たちは大勢います。
そうなると他の国の援助より、
まずは国内の困っている人たちを
支援しようという意見はかならず出ます。
高校生C
あぁー。
田中
一方、ODAのパーセンテージが上位の国。
ルクセンブルク、ノルウェー、スウェーデンは、
じつはそこまで人口が多くないので、
国内に極端に貧しい人もそれほどいません。
すると、国内の意見もまとまりやすく、
1パーセントくらい出してもいいよって、
そういう合意が取りやすかったりします。
一方、アメリカや日本のように、
国の規模が大きくなっていくと、
そうかんたんに意見は一致しません。
「他国の貧しい人と、自国の困っている人、
どっちを優先するんですか?」
という議論はかならず出てきます。
実際、日本で東日本大震災があった直後、
「国内がこんな大変なときに、
なぜ国外に援助するんですか」
といった政治家の方もいました。
みんないろんな事情を抱えているので、
ここはそれぞれの国の方針に
委ねるしかない部分でもあるんです。
高校生C
ありがとうございます。
──
ぼくも質問していいですか?
田中
はいはい、どうぞ。
──
最近、SDGsということばを
いろんな場所で聞くようになりましたが、
正直、日本にいるぼくらからすると、
どのくらい切実なのかがわからないんです。
いま本気で取り組まないと、
ほんとうに世界は大変なことになるのか。
それとも、そういうの大事だよねって、
それくらいのことなのか。
そのあたりの、ほんとうのことが知りたいです。
田中
そもそもSDGsとは、
国連総会で決めたゴールですが、
これをどのように扱うかは、
日本のような民主主義国においては、
じつは国民しだいだと思っています。
国民がやりたいと思えばやれるし、
やってもしょうがないと思うならそれまで。
国連総会で決めたからって、
すべての国が絶対に守らなきゃいけない、
というものではないんです。
その前提でお話しすると、
日本の政治家でSDGsを強く訴える人もいれば、
ほとんど口にしない人もいます。
「やります」と宣言する企業もあれば、
まったく関心のない企業もあるでしょう。
SDGsは強制するものではないので、
結局は、それぞれしだいなんです。
──
うーん、なるほど‥‥。
ちなみに、世界と比べてみると、
いまの日本の取り組みはどうなんでしょう?
田中
わたしの観察が正しいかわかりませんが、
世界の国のなかだと、
日本はSDGsについて
多くのレベルで考えている国だと思います。
以前、トランプさんが
アメリカの大統領だったとき、
政権自体がSDGsについて
まったく関心がありませんでした。
ところが、バイデンさんになって、
その意識もだいぶん変わりましたよね。
つまり、リーダーが誰になるかで、
同じ国でも大きく変わったりします。
──
そのリーダーを選ぶのも国民なわけで、
結局はひとりひとりの意識が、
国の方向性を決めてるってことなんですね。
田中
ちょっと現実的な話をすると、
SDGsというのは国連総会で
「全会一致」で採択されました。
国連加盟国192ヶ国あって、
みんなが「それはいい」といったわけです。
これ、よく考えると、
ちょっと不思議だと思いませんか?
だって、いまの世界を見てみると、
意見が一致するほうがすくないです。
いろんな国同士に紛争や対立があって、
むしろ意見が合わないことのほうが
多いといってもいいかもしれない。
──
たしかに。
田中
それなのに、SDGsに関しては
「全会一致」で合意に至ったわけです。
これ、ちょっとシニカルないい方をすれば、
「やりたくなければ、やらなくていいですよ」
という話を前提に、全会一致になったんです。
──
あぁ‥‥。
田中
SDGsのスローガンには、
「誰ひとり取り残さない」というのがあります。
この「誰ひとり取り残さない」は、
誠に正しいといえば正しいでしょう。
でも、現実的にできるかどうか、
ほんとうに考えはじめたら、
きっとみんな頭が痛くなりますよね。
つまり、SDGsの真の精神を、
真に追求するとはどういうことなのか。
そのへんのことに関しては、
たぶん、世界の合意はありません。
さっきもいったように、
SDGsには「開発」と「環境」という
矛盾する2つの要素が含まれています。
じつは、それ以外にも
「これとこれ、両立するんですか?」
というものはいっぱいあります。
でも、それがSDGsというものなんです。
SDGsのなかには、
「これをすれば問題が解決できる」
なんて解答はどこにもありません。
むしろ世界の矛盾を突き付けてきて、
「で、あなたはどうしますか?」と、
世界に問いかけているものなんです。
(つづきます)
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